第4話 TSヤサグレVTuberの産声①

「誠に遺憾だ。くそったれ、なんで二次元のアバターまでロリなんだよちくしょう」


 いよいよ初配信の日がやってきた。

 この半年間は「あんたいつ働くん」という母親の絶対零度の視線を華麗にいなしつつ、悔しさを糧に歌唱力とダンスのレッスンに励んでいた。

 何気に歌唱力がそこまで評価されなかったことにムカついているあたしがいる。絶対的な自信で挑んで、それが実を結ばない。

 よくあることだ。よくあることだからこそ、妥協で終わりたくねぇんだよ。


 そんなこんなで用意されたアバターは「これあたしじゃね?」と言わんばかりにリアルの姿と似通ったものだった。


 面接時に姿を晒してはいるが、それは事務所の一部の人間のみで、マネージャーもあたしの容姿は知らない。

 曰く、男女的トラブルを防いだり云々……という目的があるそう。まあ、うちの事務所は男性VTuberもいるし、そこまで厳格ではないんだが。


「こんなのリアルでいないでしょうを詰め込みました、じゃねーんだよ、リアルでこれだよあたしは!!」


 マネージャーが邪気のない笑いで披露してきたアバター。

 腰まである金髪に、ダボッとした服装。貧乳かつ、リアルと同じくらいの低身長。

 なお、容姿は非常に優れている。


 まんまあたしじゃねぇか。

 自画自賛に聞こえるかもしれねぇが、あたしだって折角TS転生したんならグラマラスな美女になりなかったんだわ。この手でパイを掴み取りたかったんだわ!

 くそが、せめて二次元アバターくらい理想の姿を体現して欲しかったのに……!! チッ……! 妙にクオリティ高くて文句言えねぇし!!


 イラストレーター……所謂、ママにはアバターを産み出してくれた感謝は勿論ある。そこに対して文句を言いたいわけではないのだ。いや、だって完璧にあたし個人の問題だし……。

 線引はすれど、見事にソックリなせいで喚き散らしてしまったぜ。


「ま、やるだけやるしかねぇか。折角の初配信だ。せめて何か爪痕残さんとやるにやりきれねぇ」


 パチンと頬をぶっ叩く。生来の力がクソ弱なせいでパチンというよりぺちん、だが気合いは入った。


「やってやんぜ、初配信!!!」


 そんなわけで、サラリと準備を終えていたあたしは、配信のスイッチを押した。


コメント

・お、始まるか?

・ロリと聞いて

・絶対可愛いアイドル系だろ。ワクワクするわ

・金髪ロリ貧乳は一般性癖

・ペロペロ


「コメント欄きっも」


 やっべ、つい本音が。


コメント

・ファ!?

・第一声が罵倒は草

・え、そういう感じ!?w

・言いそうで言わないラインを平然とぶち破ってきた

・この新人……一味違うな!


「あ、あー、あー、どうもどうも。マイクテスト中に何か言ったかもしれねぇが、多分気のせい。どうも、5期生のレイナ・アルミスです。よろしく」


コメント

・隠蔽しようとすな

・声がちゃんと可愛いのウケるなw

・なんか世俗を諦めたような雰囲気で草なんだが

・間違ってもこのビジュでする言葉遣いじゃないw


 一先ず軌道修正を図るあたしに、総ツッコミするコメント欄。これが配信か。

 リアルタイムで反応があるっつーのも、なかなか良いもんだな。まあ、大半がキモいが。

 元男だから気持ちは分からんでもない。だけども、自分が向けていたモノを今度は向けられる側になるとまた感情が変わってくる。


「あたしはロリだが、年は二十歳だ。変にロリロリ言う奴はしばくからな。好き好んで幼児体型になりてぇ奴は一部の特殊性癖持ちを除いていねぇだろ」


コメント 

・残念だけど一部の特殊性癖持ちが多く集まってるんだよなぁ……

・こいつヤサグレてんな

・自称ロリ草


「流石に十歳の頃から一切成長しなかったらヤサグレもすんだろ。むしろヤケクソに走ってないだけマシと言える。親から貰った拳で一度も人を傷つけたことのないあたしを褒めてほしいね」


コメント

・傷つけられるだけの力あんの?


「はい、プッツーン。力くらいあるが!? ちょっとプニプニしてて反発があるだけで、全然傷つけられるが??」


コメント

・ダメじゃねぇか

・親から貰った拳が無害で良かったなwww

・涙の数だけ強くなれよ


「うるせぇな。余計なお世話だコラ」


 なんかすでにイジラレ役と化してる気がするんだけど気のせい? 気のせいだよな。あたしはイジる側でいたいんだ……。

 にしても、ぽんぽんと言葉が飛び出てくる。

 マネージャーが言ってた受けの才能っつーやつかもしれねぇが、諸先輩方の配信を見るに技術はまだまだ足りないだろう。

 たかが新人が一朝一夕の努力でキャリア積んだ先輩に勝てると思うほど自惚れちゃあいねぇが。


「初配信って何すんだ? あー、面倒だから連絡事項だけ先にしとくか。えー、概要欄に質問箱のURLとか貼ってっから適当に投げてくれ。質問箱配信とかやるから」


コメント

・りょー

・果たしてこいつにクソ質問を裁ける才はあるかな

・ちゃんとした意味での質問投げつける奴全体の二割もいないからな……w

・行き当たりばったりで草


「んで、まああたしの事知りたいだろうと思ってな。こんなもんを用意してきた」


 あたしは画面上にドンっ、とフリップを表示する。何の装飾も凝ったものもない簡素な箇条書きが3つ。


「一つ目、好きな食べ物とか趣味。合コンかよ、ワロタ。二つ目今後の目標。小学生か? 三つ目、お歌の時間。N◯Kじゃねぇか」


コメント 

・自分が作ったであろうフリップにツッコミするなwww

・どんどん推奨年齢下がってんじゃねぇかw

・なんの捻りもないな!!

・いっそのこと清々しいまでの無策っぷりで笑える

・この性格で歌上手い系なのかよ。意外だな


 本当はもう少し歌に関しては伏せておこうと思った。けど、武器は早めに見せておくに限る。

 この業界は水物だ。初配信は話題を集めやすく、できるだけ多くの人にインパクトを与えねば次はない。


 いつの間にか同接(※同時接続数)は4万人を超えている。これだけの視聴者を飽きさせないことが重要なのだ。

 だからこそ爪は隠さない。

 歌だって披露してからも研鑽を続け、聴いた奴らを絶対に感動させてやる。


 そんな決意を抱いた。


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