第39話ハズレヒロインの独白5
グエン様は、イリナ様を選ばなかった。
幸せになれる道を自ら蹴って、嘘だらけの私に「幸せにしたい」と言ってくれた。
幸せだった。
そして、それ以上の罪悪感が沸いてきた。こんなにも優しく立派なグエン様に、私は返せるものはない。
ならば、せめて……。
せめて私の運命を私のものだけで終わらせるために、私は水のナイフで胸をついたのだ。
私が死ねば、グエン様は私の運命に囚われない。
「…………!!」
ああ、グエン様が叫んでいる。
私を抱いているグエン様が、クリス様と問答をしているのが薄れゆく意識の中でも分かる。クリス様は、ウィスタ王子に仕える人だ。
王子の暗殺を仄めかせば、クリス様ならば絶対に許さない。王子だけではなく王の覚えさえも目出度いという彼の証言があれば、自死が失敗しても処刑してもらえるだろう。
良かった。
これで、グエン様は幸せになった。
そのはずだったのに。
「ディアナ……」
私の眼の前には、グエン様がいる。
それに、クリス様やウィスタ王子も。ありえない顔ぶれに、私は驚いた。ウィスタ王子を暗殺しようとしたと言ったのに、どうして本人がいるのか。
混乱する私に、クリス様が等々と説明してくれた。義兄は失踪したが、私はあくまで義兄の計画の被害者として扱われているらしい。
予想外だが、思い返してみれば私は自殺をしようとしただけだ。ウィスタ王子に直接刃を向けたわけではない。
「現状はこうなっているが、ディアナ嬢の立場は悪い」
クリス様の言葉に、私は頷く。
兄が失踪したとなれば、私の実家に力などない。一族からも切り離され、ひっそりと消えていく運命をたどるだろう。
「ディアナ。お前は、俺が不幸にはさせない。俺の婚約者として、実家に後ろ盾になってもらう」
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