第30話この世界の真実
女子生徒は、女子寮に向かって急いでいると思われる。それを止めるべく、俺は女子生徒の手を掴んだ。女子生徒は振り向いて、驚いた顔で俺を見ている。知らない男子生徒に手を掴まれたのだから、当然の反応であろう。
「放してください!」
女子生徒は俺の手を振り払って逃げようとしたが、その背中に向かって俺は声をかける。
「ここがギャルゲーの世界だって知っているのか?」
俺の問いかけに、女子生徒は目の足が止まった。
今までにない厳しい表情で振り返り、俺を見つめる。そして、つかつかと靴を慣らしながら近づいてきた。
さっきまでは気弱な令嬢という雰囲気だったのに、今はそんなものは吹き飛んでいる。急に強気になった少女が、俺は少し怖かった。
「違うわよ。ここは乙女ゲームとBLゲームの世界で……。そういえば、ギャルゲーも展開していたっけ」
女子生徒は、俺の顔をじっと見た。
乙女ゲームとBLゲームとはなんだと頑張って思い出そうとするが、俺の記憶にはない言葉だった。言葉尻から、ギャルゲーに近いものだとは分かる。だが、前世の俺には縁遠いものだったようだ。
「このニワカ。どうして、メイズラブシリーズを網羅してないのよ」
信じられない、と俺は罵られた。
申し訳気持ちにはなるが、どうにも話についていけない。女子学生は俺よりも情報を持っているらしいのだが、もはや話についていけない。
「ニワカのくせに、どうして転生しているのよ。私なんて、このゲームシリーズの大ファンだったのに」
ぶつぶつと呟く女子生徒は、俺と同じ転生者に間違いない。
しかも、俺よりもゲームに詳しいようだ。
「俺はグエン・テーアリアだ。前世は日本に住んでいたプレイヤーで……。それ以外の記憶は、あまりないんだ」
とりあえず、自己紹介をして俺はできる限り女子生徒から情報を引き出すことにする。女子生徒は、ふんと強気に鼻を鳴らした。
「私は、キャロル・テーラよ。前世の名前はミズキって言うの。漢字は覚えている?『瑞稀』って書くのよ」
キャロルは地面に前世の自分の名前を書くが、俺には角張った文字が何を意味するのか分からない。
「……悪い。成長すればするほどに、前世の記憶がなくなっているんだ。昔なら分かったかもしれないが、今は漢字なんて読めない」
俺の話を聞いたキャロルは、一瞬だけ悲しそうな顔になった。彼女も俺と同じように同胞が見つかったと思ったのだろう。
しかし、俺の前世の記憶はキャロルのものに比べたらお粗末なものだ。キャロルに悲しい顔をさせてしまったことに、俺は罪悪感を覚えた。
「まぁ……前世の記憶なんて邪魔なだけよね。それより、グエンだなんてギャルゲーの主人公じゃない。良い人生をおくっているのでしょう」
キャロルの言葉に、俺は曖昧に笑った。考えるべきことや選ぶべきことは山ほどあったが、良い人生ではあるのだろう。いや、今はそれよりも聞きたいことがあった。
「この世界が、乙女ゲームでBLゲームってどういうことだ?」
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