第20話ハズレヒロインの独白4
私も十五才となって、学園に入学する年齢となった。グエル様の友人であるウィスタ王子も、今年から学園に通う。この学園にいる間は、王族の警備も比較的だが手薄になる。
貴族の師弟しか通うことのない学園では、生徒の誰かが王子を害するなんて予想もしていないのだろう。現に、創立してから学園では大きな騒ぎが起こるようなことはなかったらしい。
格式の高い学園には、純粋培養された令息と令嬢だけが集まる。他人を殺す為の訓練を受けた人間など一人もいないのだ。
まるで、自分が異物になったような感覚だ。息が苦しい。義兄に別荘に閉じ込められていたときよりも身の置き場というものがなかった。
義兄に指示された王子暗殺決行の日までは、だいぶ時間がある。けれども、もういっそのこと事をなして消えてしまおうか。
「グエン様……」
私の視界に入ったのは、成長したグエン様だった。たくましく成長したグエン様は、登校途中の王子たちと談笑している。
眩しい。
グエン様の存在は、まるで太陽だ。世界には必要不可欠なのに、近づきすぎたら熱さで溶けてしまうに違いない。
私は気配を消しながら、グエン様のことを見つめていた。私のような人間が、グエン様に声をかけてもいいのだろうか。
すっかり卑屈になってしまった私は、グエン様を遠くから見ることしか出来なかった。
「あ……」
私の目の前で、グエン様がピンク色の髪の少女を押し倒した。もちろん、事故だ。グエン様は紳士なので、道端で女性を押し倒したりはしない。
グエン様の視線が、ピンク色の髪の少女に向かっている。とても可愛らしい彼女は、家族から愛されて育った雰囲気があった。私とは、まるで違う。
グエン様は、あの人を好きになる。
いや、あの人を好きになれば幸せになれる。
私は、グエン様と別れる決心をした。私と共にいても幸せになれないことは決まっている。ならば、あの少女と幸せになってもらった方がずっといい。
義兄によって薬漬けにされ、覚えたものは淑女として必要なものではなくて暗殺者として技術。そもそも、私は女でもないのだ。
グエン様の隣に立つには、全てが足りない。
「グエン様。どうか、幸せになってください」
彼のためならば、喜んで全てのことをあきらめられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます