第17話王子の教育
ディアナの言葉通り、彼女は別荘に旅立った。表向きは、別荘にいる優秀な家庭教師から教育を受けるためとされている。しかし、実際のところは兄フィムズが操り人形を作るためだ。彼女は、優秀な暗殺者となって学園やってくる。
ゲーム本編では、そのようなストーリーだ。
いいや、これは物語でもゲームでもない。俺達の人生だ。ならば、努力次第で変えることが出来るはず。
「よしぁ!かかってこい!!」
俺は、ウィスタ王子と共に自分を鍛えることにした。ウィスタ王子は、ディアナに暗殺されそうになる未来が待っている。暗殺が成功するかしないかはルートによって違うが、ウィスタ王子には生き残ってもらわないといけない。
ディアナは俺がなんとかするが、そのためには後顧の憂いがあってはいけない。暗殺予定の王子を鍛えてムキムキにして、生半端な刺客は返り討ちにしてもらう予定だった。
「グエン、どうしたんだ?今まで剣術の練習の誘いなどしてこなかっただろう」
さっきまで俺と模擬戦をしていたウィスタ王子は、息を切られながらも尋ねてくる。
俺は魔法の練習には力を入れていたが、剣術はさほどという感じだった。ウィスタ王子から誘われるから、練習に付き合っていたと言う程度しかやっていない。
だが、今は状況が違う。
「やらなくてはいけない事が出来たんだ。そのために、強くなりたい」
俺の告白に、ウィスタ王子はニヤニヤと笑った。
「なるほど、女だな。婚約者と上手くいっているようで、安心したぞ。お前は、俺の友の一人だからな」
クリスの救出事件から、俺はウィスタ王子から友人として認定されているようだった。どうしてだろうか。あまり嬉しくはない
「私は、剣術だけは家庭教師に褒められる腕前だ。喜んで全力で相手になってやる」
ウィスタ王子は、俺に木剣で向かってくる。
俺は、それを受け止めた。
「俺がさらに強くなるのは、もっと王子も強くならないといけません。だから、ムキムキになってください!」
俺の言葉に、ウィスタ王子は「おう!」と応える。姉と共に俺達の模擬戦を終わるのを待っていたクリスが遠くから叫ぶ。
「二人共、学問を疎かにしないでくださいねー!」
その通りだ。
いくら強くともウィスタ王子が阿呆王子のままでは、簡単に殺されてしまう。頭の方も鍛えなければならない。
ウィスタ王子は、王宮で帝王学を学んでいるのに阿呆だ。つまり、普通の方法では暖簾に腕押しなのだ。
俺は、ウィスタ王子の頭に知識を詰め込む方法を三日三晩考えた。そして、俺は「お勉強カルタ」というものを生み出した。
ユーヤ姉さんに問題を読んでもらって、答えを書いてあるカードを相手よりも早く取るというゲームである。前々から察していたが、ウィスタ王子は勝負事が好きで負けず嫌いな一面がある。おかげで、このゲームにだいぶハマってくれた。
「次は勝つからな!覚えていろよ!!」
たとえ負けても翌日にはチャレンジしてくれる。この勉強方法は王宮の人間が知るところとなり、俺はウィスタ王子の教育係に大いに感謝された。
そして、いつの間にかカルタの制作はウィスタ王子の教育係の仕事になったのである。
新しい勉強方法でウィスタ王子の勉強への意欲を上げたという理由で、俺は王様と王女様に呼ばれたこともあった。遊びで勉学を愚弄するなんてとんでもないと怒られるかと思いきや「不出来な息子のためにありがとう」と礼を言われてしまう。
権力者であっても親になれば悩みは人並みになるのだなと思った。王と王女は、俺を信頼してくれた。望んだら、ウィスタ王子と同じ剣の師をつけてくれたほどだ。
こうして、俺とウィスタ王子は十五才まで勉強と修行に励んだ。自分に出来ることは、全てやったつもりだった。
ちなみに、お勉強カルタは俺の名前と王子の教育係の連盟で売り出されている。世間の親たちがこぞって買い求めてくれたおかげで、俺は一財産を築いてしまった。
「おー、誕生日ごとに妹にドレスを買ってやれるな」
元が貴族なので、いまさら儲かってもというのが俺の気持ちだった。とりあえず、お勉強カルタに関しては父の助言をもとに、代理人を立てて会社を興すという手続きを踏んだ。そのおかげで、俺は前世でいうところの名前だけの会長という立場を手に入れた。
まだ子供なのに。
ちなみに、ウィスタ王子の教育係はお勉強カルタの監督役をやってもらっている。忙しい身分にしてしまったという罪悪感はあったが、本人は「様々な身分の子供たちの教育に関われる!」と興奮していた。仕事熱心な人で良かった。
「さてと……」
これから、俺はゲーム本編に突入するのだ。
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