第14話幼き日々の鍛錬
「うおぉー」
クリスが誘拐される事件から、一ヶ月がたった。あれから我らの阿呆ことウィスタ王子は、様々なことに対して精を出している。
勉強の他にも剣技も一生懸命に学んでおり、俺は時より練習相手として呼ばれるようになってしまった。
ゲームではもっと距離がある相手だと思ったのだが、これでは第二の遊び相手だ。王子は今日もクリスとユーヤ姉さんの屋敷で、俺相手に剣技の練習をしている。無論、相手は俺だ。
「どうだ!クリスも見ていただろう。私の勇姿を!!」
残念ながら、クリスは今でも目を封印している。
ウィスタ王子の勇姿など見れっこない。
それでもクリスは、いつでもウィスタ王子と俺の練習を見守ってくれていた。時には、そこにユーヤ姉さんも加わる。この姉弟がそろうと和やかな雰囲気が流れるが、そんな雰囲気に呑まれることなく俺たちは必死に剣の練習に励むのだ。
「王子様。すごーい、ガンバレー」
クリスの応援が、たとえ棒読みだったとしても。
さすがのウィスタ王子も気がついていたらしく「次は心の底からの賛辞を送らせてやる!」と言っていた。それにしても、ウィスタ王子のやる気の出どころはクリスも知っているだろうに。おざなりの応援ではなくて、もう少し力を入れてやってもいいだろう。
クリス誘拐事件。
その元凶たるポッテンの屋敷は徹底的に調べられ、出てきたのは異国の様々な薬物だった。なかには劇薬もあり、俺が考えていた通り裏の商品が従業員たちを苦しめていたらしい。
ポッテンの荷物の中には麻薬のようなものまであったというから、俺たちが考えていたよりも大物の悪人であったようだ。
なかでも、主に子供の成長を阻害する薬物は悪質だった。変態のなかには性の捌け口に幼子を使うことがあり、彼らの欲望を満たすために子供の時期を長引かせるために使われる薬物だという。
依存性もある危険物だが、輸入量から考えて購入者が何人もいるのではないかと言われているのがさらに恐ろしいところだ。無論、ポッテンは逮捕された。
クリスを誘拐した男たちも罪に問われたが、クリス自身がウィスタ王子と王に減刑を願いでたこともあって縛り首は免れたようである。無罪釈放とはいかないがポッテンがやっていたことや事情を考えれば、妥当な罰なのだろう。
「皆さん、お茶にしましょう」
おやつとお茶を使用人に用意させていたユーヤ姉さんが、俺達に声をかけた。途端に、俺とウィスタ王子の腹がそろって「ぐぅ」と鳴る。
生まれ変わってから、前世よりも空腹が我慢できなくなったような気がする。これが若いということなのだろうか。だとしたら、ちょっとした恩恵だ。
貴族として生まれたおかげもあって美味い料理には困っていないが、空腹というのは最高のスパイスというではないか。
今世の食文化は、前世の日本のようが豊ではなかった。しかし、若さゆえの空腹という調味料の前では何でも極上の御馳走になってしまう。
「今日は木苺のケーキを用意してみたの。お茶はハーブティーとダージリンがあるから、好きな方をどうぞ」
ケーキは一口サイズに切られていて、可愛らしい見た目だ。使用人に丁寧に取り分けてもらった俺たちは、ケーキに舌鼓を打つ。
お菓子とお茶の用意はいつもユーヤ姉さんがやってくれるが、ここで出されるお菓子はベリー系のものが多いと思う。ユーヤ姉さんは、酸味があるものが好きなのだろうか。
「ユーヤ嬢は菓子でもお茶でも趣味がいいな。将来は、良い奥方になるだろう」
ウィスタ王子の言葉は本来ならば褒め言葉のはずだが、ユーヤ姉さんの笑顔が不自然に固まった。ちょっと複雑そうな顔だ。
俺との婚約が破棄されてから、ユーヤ姉さんの相手は決まっていない。だから、思うところがあるのかもしれない。
ゲーム本編が始まるまで、ユーヤ姉さんの婚約者は決まることはないだろう。なぜならば、そういう設定だから。魔法の地味さ以外の欠点がないので、ユーヤ姉さんに婚約者が出来ないのは少し可愛そうだ。
「グエン様!」
そう言って走って来たのは、俺のところで働いている使用人だった。彼は息を切らして、俺のところまで走ってくる。
「なにかあったのか?」
俺の家は平和そのもので、特に急いで使用人が報告にくるような事はなかったと思うのだが。
「急いでお戻り下さい!ディアナ様のお父様が亡くなりました!!」
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