第11話事件のくだらない真実と大罪



 俺たちを追いかけて小屋を飛び出してきた男たちは、事前に作って置いた落とし穴に落ちていった。


 室内では役立たずの俺だが、外に出れば数秒で落とし穴を作ることが出来る。今回は、小屋に侵入する前に仕掛けておいたのだ。


 穴の底で男たちは元気にわめいているが、大人であっても落し穴から出るのは難しいだろう。それぐらいに、深くしておいたのだ。それに、この辺の土は湿っているから柔らかい。体力馬鹿であっても、登るのは至難の技であろう。


「おーい、お前たちは誰に頼まれてクリスを誘拐したんだ?」


 穴のなかにいる男たちに聞いてみれば、予想外の言葉が帰ってきた。


「俺たちは自分の意思で、貿易会社の社長ポッテンの息子を誘拐したんだ!」


 もうすでに色々と間違っている。


 テッポンとは誰なのか。


 特徴的な名前だが聞き覚えはないので、上流階級の人間ではないだろう。男たちも貿易会社の社長と言っていたし。


「お前たちは、クリスをクリスだと分からずの誘拐したのか!」


 阿呆王子のウィスタ王子が、ややこしい事を言い出す。男たちは、あのガキはクリスだろうがと騒ぎ出した。もはや、何がなんなのか分からない。


「お前ら、少し落ち着け!」


 その場にウィスタ王子がいる事も忘れて、俺は怒鳴っていた。俺の怒気が通じたらしく、男のウィスタ王子も静かになってくれる。


 俺は男たちの話をゆっくりと冷静に聞いて、どういう経緯で誘拐事件が起こったのかを整理する。そして、あまりにも情けない事が明らかになった。


 ポッテンという男の息子は、クリスというらしい。


 クリスは、社長令息のクリスと勘違いされて誘拐されたのである。


「なんだ……。このアホらしい話は」


 ゲームのシナリオだったら、萎えているところだ。


「俺たちはポッテンのところで働いているが、あいつの会社は酷いところだ。仲間が十人以上死んでいる」


 穴の中にいる男たちの言葉が、ちょっと気にかかる。


「その話を詳しく聞かせてくれ」


 子どもの俺が興味を示したことに、男たちを面食らっていた。こんな話には、子供は興味を持たないと思っていたのだろう。


 残念ながら、俺の中身には前世の記憶がある。普通の子供よりは、考え方は大人に近い。


「言ったところで、子供に何が出来る」


 たしかに出来ることは少ないかもしれない。しかし、人が死ぬほど過酷な労働環境だというのならば、父に報告したりすることで何とかできるかもしれない。俺自身には力はないが、父には権力がある。


 この世界は、医療技術などが未発達なために人間の死亡率が高い。死が身近なのである。だからこそ、俺の前世の世界と比べれば命が軽く扱われがちだ。それでも、人が次々と死ぬというのは結構な異常事態である。


「俺たちは貴族だ。父親なんかに言って、問題が解決できるかもしれない」


 男たちは、最初こそ俺の話を信じてはいないようだった。子供の言うことだから、仕方がないかもしれない。


「問題を解決したいからこそ、クリスを誘拐したんだろう。それだけのことをしたんだったら、俺に話すなんて今更だろう」


 これ以上は、自体は悪くなりようがない。


 そのように俺は説明すれば、男たちは戸惑いながらも話し始めた。


「体の丈夫な奴らが、次々と倒れているんだよ。そいつらは、今までの仕事から別の仕事に配属されたばっかりだって言うのに」


 それは、たしかに事故というよりは事件の匂いがする。男たちは、役人に訴えを出したらしい。それらは、金持ちの雇い主ポッテンに握り潰されたようだが。


 だからこその誘拐事件か。


 息子を返して欲しければ、仲間の死の真相を話せとでもポッテンを脅すつもりだったのかもしれない。誘拐は重罪だが、気持ちだけならば分かる。


「毒物でも保管しているのか?だとしたら、ポッテンも終わりかもな」


 輸入会社の社長ということだから、異国の毒物でも運ばせていたのかもしれない。男たちはそれを吸引し、死んでしまったというとことだろうか。


 前世のアスベストのようなものか。


 いや、何人も死者が出ているのだから毒があるのは分かっていて当然だ。それでも対策も何もしなかったのだから、アスベストよりも酷い事件の可能性がある。


「なぁ、死んでいった奴らの仕事内容とかは分からないか?なにか変なものを運んだりしたのか?」


 体力がある人間が集められていたようだから、荷運びが主な仕事ではないかと俺は考えていた。


 案の定、死んだ男たちは輸入した荷物を運んでいたらしい。その荷物は他の物とは隔離されており、一部の人間以外は触る事が出来ないと言う。


 やはり、輸入されていたのは毒物で間違いないようだ。運んだだけで死んだということならば、薬物が気化でもして吸ってしまったのだろう。


「マスクとかない世界だしな」


 科学技術が発展していないので、この世界には空気や水が汚染されるという概念がない。自分たちが吸っている空気が害になるだなんて考えもしないのである。


 当然のごとく使い捨ての手袋もない。人々が危険物を扱う時には、前世の世界よりも大きな危険にさらされることになるのだ。


「お前らの主のポッテンは、たぶんだけど危ない薬品を運ばせていたんだ。お前らの仲間は、その毒にやられて死んだ。毒には、周囲の空気まで毒物にするような物もあるからな。皮膚につくだけで、死んでしまいような毒だってある」


 気化ということを知らない人間に説明するのは、骨が折れる。俺は、慎重に言葉を選んだ。


 男たちはポッテンの悪事には驚かずに「やっぱりか」という顔をしていた。


 ポッテンはかなりの悪人で、海外から危険なものを取り寄せては闇のルートでさばいているらしい。依存性のある麻薬も扱っていたようで、仕事に従事した人間だけが死ぬという事件は今回が初めてではなったようだ。


 従業員を殺した毒物がなんであるかは知りたくないが、人間の身体には毒でも生活には有益なものは山のようにあった。薄めれば無害だが、原液は有害というものだってある。


「グエン、クリスを見つけたぞ!」


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