第2話優秀な子供時代
前世の記憶によれば、この世界は西洋文化をモデルにした世界らしい。生活の利便性は前世には遠く及ばずに、宗教が科学と医療の発展を押さえつけている。生活が便利になるのは科学というのが必要不可欠らしいが、この世界ではソレが欠けているのだ。
代わり発達したのが、魔法である。
魔法は主に兵器の代わりとして扱われて、我が国の貴族たちは率先して魔法を学ぶのが良しとされた。
そもそも王国は戦いで土地を手に入れたという争乱の時代から始まり、今に至っている。貴族というのは、争乱の時代に武勲を立てた者たちの子孫だ。だからこそ、強い魔法を使えるということは貴族のステータスとなっていた。
伯爵家の長男である俺だが、この魔法が良くない。
俺の魔法は、貴族としては平均的なものだ。父親が卓越した魔法の使い手なことを考えれば、寂しい程度の威力のものしか使えないのである。
もっとも、平均的といっても十分に利用しやすい魔法である。俺の魔法は土属性で、土のうや落とし穴を瞬時に作り出す事ができた。
地味であるが戦場では落とし穴という武器や塹壕があれば脅威になることもあるし、川が反乱しそうになれば土のう以上に頼もしいものはないであろう。
だが、やはり地味だ。貴族的な価値観のなかではステータス的にも、いまいちなのである。
「はぁ……。父上みたいに三つも属性を使えれば、一つが土でもモテモテになったりするんだろうな」
教師の監督の下に魔法の練習をしながら、俺は呟いた。父は火、水、土の魔法を使いこなす。俺は、父の魔法の中で一番地味な魔法な魔法を受け継いでしまったのである。
ゲームでの俺は、それがコンプレックスだった。学園に入学できる十五歳になっても、それを引きずることになる。
それが変わるのは、学園に入学してからだ。学園で出会ったイリナと過ごすうちに、彼女の存在に俺は癒やされていくのだ。
もっとも、これはゲーム内での話である。
今の俺は、自分の魔法にコンプレックスを抱いてない。魔法がない前世を知っている身から見たら、今の自分の魔法は十分にすごいものだ。
それに、震災から人々を守れるかもしれない。前世の世界では、震災が多い国に住んでいた。だからこその価値観を俺は持っていたのである。
「そのためには、魔法を強くしないとな。いつかは地盤を強くするような魔法も使えるようになりたいし……」
そのためには、まずは勉強である。
「グエン様は、本当に楽しそうに魔法の勉強をしますね」
俺の勉強態度に、老人の家庭教師もにっこりと笑う。この家庭教師は、優しいが締めるところはきっちりと締める優秀な教育者である。
そして、魔法の授業に関しては自分で調べることも大事だと言って俺を屋敷の図書室に連れてくることも多かった。
普通の子供ならば、調べものは面倒だと思うだろう。しかし、俺は前世の記憶のおかげで、この授業の目的は分からないことを自分で調べる力を養わせるためだと分かっていた。
知識をつめこむだけではなくて、自分で学ぶ力すらも養わせようとしている。この家庭教師は本当に優秀である。
「父上のような立派な領主になりたいんです」
前世の記憶のおかげで、どのような言葉が大人喜ばすのか分かる。そのおかげで、俺には大抵の大人には好かれている自信があった。
「あっ、いたぁ。おにーさまぁ」
ドアが開いたと思ったら、明るい声が聞こえてくる。亜麻色の髪をした幼女は、俺の妹のリシャだ。
女の子で末っ子ということもあって屋敷中の人間から愛されており、そのせいかいつもニコニコとしている。それがまた愛らしいと思ってしまうのは、自分がシスコンだからだろう。
「駄目ですよ、リシャ様。お兄様は勉強中です」
家庭教師はリシャに笑顔で接しながら、ぴしっと部屋から出るように伝えた。
「リシャは、お手伝いに来たのぉ。お父様がお兄様を探しているって、皆が言っていたからぁ」
リシャの言葉に、俺は首を傾げた。父が俺を探しているなど珍しいことだ。
「皆というのは、使用人たちのことですね。分かりました」
当主である父の命令は、屋敷では絶対だ。家庭教師と俺は軽く片付けをすませて、当主の元に急いだ。
「リシャ様も図書室から出てくださいね。鍵をかけますから」
本は高級品のために、図書室には鍵がかけられている。俺とリシャは、大人の了解がなければ図書室に入ってはいけないことになっていた。
勉強のことは家庭教師が十分に教えてくれるし、自由になる時間も少ない。読む時間などないに等しいが、好きに本に触れ合えないのは俺としては少し寂しい。
前世は漫画やライトノベルという娯楽があったのだ。似たようなものはないだろうかと考えてしまったりする。
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