俺を殺す予定のハズレヒロインが許嫁(男)なんだが、どうしろと
落花生
第1話巨乳のピンク髪ツインテール=前世の性癖
生まれて初めてのギャルゲーは、兄のお下がりだった。
蝉の鳴き声がうるさい夏休みを使って、そのギャルゲーをクリアした。最初こそギャルゲーというものを舐めていたのだ。選択肢こそあれども、テキストを読むだけのゲームの何が面白いのかと。
しかし、彼女と学園生活を送るうちに少年は変わった。彼女と出会い、共に学び、共に遊び、時には国の命運さえ左右する問題に立ち向かった。
全てを終えた時に、彼女に抱いていた感情はゲームのキャラクターに向けるべきものではなかった。
「イリナちゃん……。イリナ・フォンテーヌちゃん!」
画面の向こう側の彼女に、少年は恋をしたのだ。
以上が、俺ことグエン・テーアリアの前世の黒歴史である。
人生最初のギャルゲーに性癖を開拓されて、ピンク髪の巨乳しか愛せなくなった。そんな哀れな前世を持つ俺は、今年で九歳になる貴族の跡取りだ。
兄妹は三歳の妹であるリシャしかいないので、家を継ぐことが幼いながらに決定している。よっぽどのことがない限りは多額の財産と巨大な屋敷、広大な領地を相続する俺は勉強漬けの毎日を送っていた。
「朝の八時から十八時まで勉強って、九歳児のスケジュールじゃないだろ。……俺は、受験生かよ」
そう呟いて、ふかふかのベッドに俺はダイブする。雲のような寝心地のベッドに睡魔を誘発されたが、まだ寝るわけにはいかない。夜の習慣が残っているのである。
「よいしょ……と」
俺の私室は、子供が使うには勿体ないぐらいに立派だ。大人が使うベッドに背が高い本棚。デスクまでもが大人用。
この世界には、子供用のものが極端に少ない。子供というのは大人になる前の未熟者で、未熟者には必要最低限のものしかいらないという考えだからだ。洋服も子供用のデザインなどなく、大人の服をそのまま小さくしたようなものを着る。
だから、俺はデスクのイスにはクッションを敷いて高さを調整していた。立派なデスクに見合う体格になるには、まだ何年もかかることだろう。
俺は今日も立派なデスクで、万年筆を使って日記を書く。ただし、それは今日の出来事ではなかった。
「学園に入学した三日後に、早めに登校すればイリナとのイベントが発生する……」
俺には、生まれながらに前世の記憶が断片的にあった。今とは違う世界で生きていたらしい前世によれば、俺がいる世界はギャルゲーというものらしい。
ギャルゲーというのは前世の娯楽の一つで、架空の少女たちと仲良くなるゲームだ。前世の自分はギャルゲーの愛好者であり、人生で最初にプレイしたギャルゲーには強い思い入れがあった。
前世の記憶は朧気だが、このゲームに関しては覚えていることも多い。といっても、前世の記憶は常に鮮明ではない。鉄の鳥の映像は浮かぶのに、名前が出てこなかったりするのだ。逆にテレビという言葉は分かるのに、それが何なのかは分からなかったりする。
歳を重ねれば重ねるほどに前世の記憶は不確かになっていく。だからこそ、俺は一人になれる夜に、消え逝く前世の記録を日記にこっそりと書き記す。
「イリナ……。前世の俺の理想の女性か」
前世の自分は、彼女と出会い人生が変わった。彼女の面影を常に追うようのなったのだ。幼い俺は、それを恋だと思っている。
「まだ出会っていない……初恋の人。俺は、彼女と幸せになるんだ」
九歳の俺は、まだ自分自身の恋を知らない。
けれども、前世に憧れた人物と一緒になれば幸せになれると信じていた。それぐらいに、自分の前世に影響を受けていたのである。
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