ハナちゃんの引っ越し
芝草
ハナちゃんはワンルーム住まい
「ほら、ハナちゃん。新しい住まいだよ」
ぎぃぃ……。軋んだ音と共に、僕は白い扉を押し開けた。
現れたのは、狭いワンルーム。
「君のために探し回ったよ。ここならきっと気に入ると思ったんだ」
僕はそう言いながら、ハナちゃんの手を引いて部屋に誘った。
「どう? 感想は?」
ジロリ。
仏頂面のハナちゃんは、真っ黒い瞳だけを動かして部屋を確認する。
そして「十五点」と低い声で呟いた。
僕はカチコチの頬で無理に笑って見せた。
「もちろん十点満点だね?」
「そんなわけないでしょ。百点満点中十五点よ」
「なんで? どこが不満なの?」
僕が肩を落として尋ねると、背負っている薪がガクリと音を立てた。
「ここは三階の三番目の部屋だから、三〇三号室だ。君の好きな数字だろ? 部屋は明るい南向きの入り口。照明はまぶしいLED。芳香剤と換気扇も付いているからニオイ対策もばっちり。何よりこの部屋は人気の洋式だ。最近の若者はこれじゃないと嫌だって子もいるんだよ?」
「私の好みは蛍光灯と和式なの。あと、芳香剤のニオイがキツすぎるのよ」
ハナちゃんは鼻をつまみながら唸った。
「やっぱり、内見なんて無意味だった。私の気持ちは変わらないわ。引っ越しなんてしたくない……!」
突然、窓の外で重機の低いエンジン音が響いてハナちゃんの声をかき消した。ガヤガヤと大人の男たちの忙しそうな声と足音が続く。
窓の隙間をのぞくと、もうもうと立ち昇る土埃が見えた。
僕は小さく呻く。
あぁ。始まってしまった。
「……もう、わかるだろう? 君には早急に新しい部屋が必要だ。前の部屋のある旧校舎は、この春休み中に取り壊されてしまうんだから。僕は同じ学校の仲間として、君に消えてほしくないんだよ」
そして僕は無理やり笑って見せた。
「それに住めば都っていうだろ? ね、トイレの花子さん?」
「……こうなったら都どころか、ここを私たちの極楽にしましょうか」
ハナちゃんが不敵な笑みを浮かべて言う。
「ね、金次郎!」
ハナちゃんの引っ越し 芝草 @km-siba93
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます