第7話 襲撃

 教室へ戻った栗人くりと玲奈れいなを待っていたのは、思っていたよりは穏当な対応だった。

「いやぁ、あたしがかばうよりも先に、大州だいすくんがあんな大胆な行動に出るなんてねぇ」

「やぁっっっとキスした、ってのと合わせて、見直したよ」

 明石あかしあかねだ。

 小さな身体でふんぞり返っても可愛らしいだけだが、教室をしずめておいてくれた功労者とのことなので、二人して拝んでおいた。

「「ははぁ~」」

 一旦落ち着いたおかげか、玲奈も冷静に対応出来ている。

「ところで、予鈴から三分も使って何をしていたのかなぁ、レナちん」

「えっ」

「あ、やっぱりいいや。大体わかった」

 そこに林檎があったら、ニュートンでなくてもわかる程度のことだ。

「それくらいにしといてよ、明石さん」

 朝礼まで一分を切っている。玲奈のにかけられる時間はない。

「あははっ、ごめんごめん、じゃあレナちん、また後でね」

「う、うん、また」

 何を言ってもになる予感があり、栗人も玲奈の肩を軽く叩いて席へ戻った。

 十分やぶ蛇だったことには気付かなかった。


 玲奈がどういう心境だったかは兎も角、朝礼の時間はやってくる。

 茜が上手く抑えてくれた余波か、級友達クラスメイトは皆早めに席に着いていたのだが、今日に限って、学級担任教師がやって来なかった。

 こういう時は、学級委員の出番である。そしてその学級委員こそ、栗人と玲奈だった。

「じゃあ、私が呼びに行ってくるよ」

 先生を、である。

 学校ないし学級クラスによっては、『呼びになんか行かなくていいよ』という雰囲気になりがちなものだが、この時、この学級においては、特に文句は出なかった。

 職員室へ向かう玲奈。

 途端に栗人へ向けられる、若干の粘性を帯びた、遠慮のない視線。『ニヤニヤ』という擬音が浮いて見えるようだ。

 その視線が語る通りの意図で、周囲の数人が栗人へ話しかけようとした時、事件は起こった。



 音を立てて割られた窓ガラス。栗人達に向けられた小銃しょうじゅう

「動くな!」

 警告を発した者と、もう一人。侵入者だ。

 所謂罹患者がしばしば夢想する類の事態が、現出していた。

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