第4話 下駄箱の戦い

「やあやあ、お二人さん、今日も仲良くご登校だね!」

 下駄箱げたばこで、名前通りに明るい、明石あかしあかねに見つかった。級友クラスメイトである。

「どうする? たたかう? どうぐ? にげる?」

 玲奈れいなは平気そうだし、乗り気のようだ。似非えせシャドーボクシングをしている。

「相手によっちゃ伝わらんだろそれ。……どうも明石さん。おかげさまで順調ですよ」

 栗人くりとも、朝一から本人相手に上手く誤魔化してきただけあって、動揺せずに済んだ。多少の遊び心すら加えられた。が、


「なっ、順調とか、そんなっ」


 平気そうだと思っていた相棒が同士討ちフレンドリーファイアで被弾した。顔を赤らめてはにかんでいる。とてつもなく可愛い。栗人にとっても顔が熱くなるくらいには嬉しくもあり恥ずかしくもあるのだが、困ったことになった。

「おっとぉこの反応は……? 大州くん、うちの可愛いレナちんに何をした! 吐け!」

 当然予想された茜の追撃だ。しかし――

黙秘権もくひけんを行使する。弁護士を呼んでくれ」

 その手の海外ドラマでは大抵出てくる台詞なのでスラスラと言えた。

「そんなものは認められていない。さぁ吐け。吐くんだジョー!」

「そんな迷場面嫌だよ。っていうかとんでもねぇ人権無視国家だな明石連邦」

「レナちんの青春が第一だからね!」

 それとあたしの好奇心! という心の声が聞こえてきそうな気がした。


「さぁ、吐けー!」

嗚呼ああ、わかった、わかったから。でも、レナが良いって言ったらね」

「ちっ、良い言い訳を見つけたな……仕方ねぇ、今回は見逃してやるぜ」

「キャラブレッブレだなぁ!?」

「一人十役こなせます」

 圧倒的なドヤ顔、もといしたり顔である。

「はいはい、今度見せて下さいね、っと」

「あたしは高いよ? 大州くん」

「俺等の思い出も高いんですが」

「むむむ、それは確かに。ではレナちん、向こうでお話しましょうかね」

 ずっと放置されていた、もとい意識を飛ばトリップしていた玲奈のを抱いて、茜は特別教室棟の階段下へと歩いていった。――基本的にこの時間帯は誰も通らない、穴場である。


「小型の嵐だな」

 茜は体格が平均よりもかなり小さい。流石に直接は訊けないが、概ね男子の平均身長に当たるクリトの、胸まで……すら怪しい。さほど大きくない玲奈と比べても、更に頭一個分近く小さい気がする。――なお、その一個分の目測元である玲奈の頭も相当に小さい。

「しかし、うん、レナも、本当は喜んでくれてたんだな」

 全ては前向きに考える。というか、そもそも茜はレナの親友だ。悪いようにはしないだろう。

「先行くよーっ!」

 一応二人に声をけ、教室へ向かった。

 そこで何が待ち受けているかも知らずに。

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