第3話 横断歩道の設置可否、で誤魔化しながら

「おっはろー」

「よっす」

 何事も無かったかのような挨拶あいさつ

 いつものように、二人での登校。

 ここで動揺どうようしてはいけない。したら負けだ。何と戦っているのかはわからないが、負けだ。

 二人して、同じことを考えていた。だから、別の話題を作ることには双方積極的だった。


「今まで気にしてなかったんだけどさ、ここって、なんで横断歩道、無いんだろうね」

「あー、確かに。井戸の『井』の、左内側の縦だけ無い、みたいになってるもんな」

 交差点を上空から見たら、という話だ。『ぼう』のあるところは歩道、もしくは横断歩道である。もし横断歩道の部分だけを描写すれば、『コ』の字になる。

「そうそう、歩道自体はこっち側にもあっち側にもあるのに、渡ろうと思ったらぐるっと大回りで、三段階左折(?)しなきゃいけない」

「左右で一車線ずつのほぼ十字路。違うのは、『井』の字でたとえたまんま、一方向の道だけが曲がっている点、ということは……」

「曲がっていることが原因?」

嗚呼ああ、そうだろう。『こうする』と決めた偉い人の視点で言えば、『こちら側の道が曲がっていることで、交通上の問題が起きると想定される』ってところか」

 勿体もったいぶったような言い方だが、物事を正確に把握はあくするのは、の第一歩だ。栗人くりとも別に、得意げに眼鏡を押し上げる、などの行動はしていない。そもそも眼鏡をかけていないのだが。

「交通上の問題……あー、車の左折だ」

「多分、そういうことだろうな。しかも、曲がっている道は下り坂だ。条件が悪い、という結論になったんだろう」

 玲奈れいなが素早く結論へ辿り着けば、栗人も補足した。

「ちょっと見通し悪くなってるもんね」

 各歩道はさほど広くなく、曲がっている方の道から交差点へ向かって左側、歩道の外側部分は、ほとんど丘と言っても良いくらいに高い位置へ建てられた戸建て住宅の基礎……コンクリートの高い壁に阻まれており、左折方向を予め見ておくことは不可能だ。

「そこへスピードを出してドカン、はありそうだ」


 事実かどうかは『偉い人』にかなければわからないが、二人の中では十分『それらしい』結論が出た。

「いやぁ、こういうの考えて決めてる人達って、頭良いよねぇ」

「本当にな。道路交通法を全員がしっかり守っていれば、交通事故なんてそうそう起こり得ないだろう」

 二人はこうして世間せけんばなしを続けながら、学校へ向かった。

 予鈴よれいには、十分間に合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る