第6話「新人の元悪役令嬢です、よろしくお願いします!!」


「ギリだったんだ……私」


「ええ……では本日は時間ですので明日また迎えに来ますので、よろしくお願いします。それと明日は陛下と謁見しますので覚悟しておいて下さい」


「はい……」


 その返事に頷くと和男は夕実を引き連れ部屋を出た。そして内心で有用な駒がまた一つ手に入ったと、ほくそ笑んでいた。




 翌日、宣言通り迎えに来た和男は里子と一緒に王城へ向かった。


「分かった和男、ロズリーヌ嬢は修道院送りという処理をしておく」


「ありがとうございます陛下」


「やっぱ、こういうのって修道院送りなんだ……」


 あっさり許されるとロズリーヌは王都より遠方の地へ配流されたという設定になった。そして最後に髪色と瞳の色を変える魔法で生前の里子と似た感じに変化させ完了となった。


「うむ、とにかくロズリーヌ……ではなく里子も頼むぞ」


「はい!! 課長の下で頑張りま~す!!」


「では和男よ、引き続き悪質令嬢あくじょ対策を頼む!!」


 最後に宰相の言葉を受け謁見を済ませると二人は素早く王城の使われてない一角へと向かった。そこには王城地下に続く階段が存在する。そこを降りると悪質令嬢症候群対策室の本部が存在していた。


「皆さん、戻りました」


「お、戻ったんすか課長、じゃあその人が?」


 石造りの重いドアを開けると廊下と違い室内は明るかった。そんな入室した二人に最初に声をかけて来たのは茶髪の青年だった。


「ええ、ハンス君……新しい課員の新井里子さんです」


「ども、新井です……新井里子です」


 ペコリと頭を下げるとハンスは一瞬、不思議そうな顔をした後にハッとした顔をして口を開いた。


「ああ、そっか名前も課長っぽくなるのか、元の名前は……」


「ロズリーヌさんですよ、ハンス」


 その後ろからお盆を持って出て来たのは昨日はスーツ姿をしていたアニエスこと本名、荒井夕実だった。本日は令嬢スタイルで白のブラウスと薄いベージュ色のスカート姿になっていた。


「ああ、そうだったな夕実、じゃあ改めてよろしく新人さん?」


 そう言って爽やかな笑みを浮かべて手を差し出された里子も慌てて握手した。自分はもう貴族で無くなったのを思い出していた。


「新人の元悪役令嬢です、よろくお願いします!!」


「……他の皆さんは外回りですか?」


 里子の挨拶を見届けると和男は夕実に尋ねていた。この課には他にも四人ほどメンバーがいるが今、事務所には和男と里子以外には二人しかいなかった。


「ケビンとパット嬢は悪質令嬢反応が有った町へ視察中で、戻りは明日っす」


「あとロットさんと朱音さんはお茶会で情報収集です」


 二人からの報告を聞くと和男は里子に事務所内を簡単に案内する事にした。地下だが広さは小さな体育館くらい有って意外と時間がかかるのだ。




「以上が施設の案内です。さて少し休憩にしましょう」


「え? もうですか?」


「はい、根を詰めてもろくな成果は生み出せないですからね」


 これは和男の様々なブラックな企業を渡り歩いた経験談から来る教訓で、ブラックは出来もしない仕事を無限に抱え込み最終的に非効率かつ非生産的になるのだ。


「だから、その逆なんですか?」


「そうらしいんですよ里子さん、これお茶です」


 中央の長テーブルに戻ると里子と和男は席に着いた。そのタイミングで紅茶を淹れてくれたのはアニエスこと夕実だった。


「ありがと夕実さん、でも……」


「それで仕事は進むのかという疑問ですか? そもそも我々の仕事は基本は後手です。ちょうど良いので私達の仕事について説明しましょう。ハンス君?」


 今度は先ほどのハンスも席に着いて自分でコーヒーを持って来て一口飲むと和男の話を引き継いだ。


「はいよ、里子嬢は悪質令嬢症候群あくじょシンドロームや、うちの課についての基礎知識が無いんすよね課長? 」


「ええ、そうなります」


「オーケー分かった。じゃあ里子嬢」


「あのぉ、里子で大丈夫です」


「了解だ里子、まず我がアメスティア王国だけど実は問題だらけなんだ」


 ハンスはそう言うとアメスティア王国や他の国が抱えている様々な問題の説明をし始めた。最初は頭がパンクしそうになる里子だったが夕実がゲーム知識で補足を入れる事で何となく理解していった。


「えっと、つまり戦争より悪役令嬢の方が問題なんですか課長?」


「その理解で問題ありません里子さん。あなたもですが他の令嬢も記憶を取り戻すと俗に言う『ざまぁ』という行為をしようと衝動的に行動を開始するのです」


 そこで里子も思い出す。二週間前いきなり転生前の記憶が戻ると異様なまでの危機感とそれに対する対抗策を瞬時に考え実行した。


「覚えが有りまくりです……」


「ですよね~」


 里子と夕実の言葉に頷くと和男は二人を見て口を開いた。


「そして結果的に戦争よりも国力を低下させるレベルで損害を与える。この一連の現象を我々は悪質令嬢症候群あくじょシンドロームと名付けました」


「症候群って……じゃあ私は病気なんですか?」


「違います。どちらかといえば何らかの現象に巻き込まれたものと考えています。だから陛下にこの課を作って頂いたのです」


 表向き悪質令嬢症候群は王国上層部や高位貴族のみが存在を知っているのが現状だ。だが実際は病気ではなく何らかの現象だと知っているのは、もっと少なく対策室のメンバー以外は国王と宰相のみだった。


「ま、そのための俺らってわけさ」


「ハンス君の言う通りです、ご理解頂けましたか?」


 コクンと頷いた里子は思った以上に悪役令嬢がヤベー存在だと理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る