第5話「もうガチャを回すしか無いのじゃ……」
「この解析できた部分によりますとガチャ一回で300令嬢石だそうです陛下」
「のう、やっぱり変じゃね宰相、ガチャって何? 令嬢が石になってるの? 普通にこれも危ないし、のう宰相!?」
国王は心身ともに疲弊していた。そこに謎情報をぶち込まれたら混乱しかしないのは当然だろう。王は悪役令嬢のせいでノイローゼ気味だったのだ。
「調査結果によりますと令嬢の涙で出来ているようで、この場合は三百人分で300令嬢石だそうです」
つまり単純計算して1令嬢石イコール一人分の涙という換算になる。
「えぇ……我が国そんなに令嬢を泣かせてないから石も有るわけが……」
「五十回分有ります陛下!!」
「泣かせた令嬢が15000人!?」
そりゃ貴族令嬢だって泣くほど嫌な事は有っただろう。だとしても15000人分は多過ぎだと王は軽く絶望した。今までの王は何してたんだよと。
「いえ、一人で複数回泣いてる場合も――――」
「そういうフォロー要らんし!! 最低じゃん我が国!! どうするんじゃ宰相!!」
「もはや他に手は有りません陛下!!」
もう本当にそれしかないと国王は覚悟を決めて蚊の鳴くような声で言った。
「もうガチャを回すしか無いのじゃ……」
王は古文書に書いてある方法で、いつの間にか国庫に保管されていた令嬢石を捧げガチャを回す。しかし出て来たのは謎の剣だの魔法書だので勇者は出て来なかった。
「これは何らかの神器でしょうか?」
「装備より!!
「ガチャとはそういう物なのかもしれません陛下」
「もうやだ、てか国民の涙で得られたのが武器とか本とか嫌過ぎるのじゃ、でもこういう時に最後には良い物が出るもの、そうじゃろ宰相!!」
そう言って最後のガチャを起動すると今まで以上に周囲が輝き空中にはSSRという虹色の表記が出現した。その光の中から現れたのがスーツ姿の和男だった。
「……失礼、ここはどこですか?」
尋ねたのは銀縁メガネに現在より瘦せこけ顔色の悪いサラリーマン和男だった。
「そ、そなたが勇者か!?」
「いえ、わたくし黒杉カンパニーのブラック営業部の係長、高橋和男と申します」
そう言って二人に名刺を差し出した。これが勇者召喚が成功した瞬間だった。そして和男は王と宰相から事情を聞き勇者業として国内問題の解決に協力すると了承したのだった。
◇
――――現在
「これが召喚された際の状況です、前後の話は宰相閣下より伺いました」
「いつ聞いても凄い話……って里子さん大丈夫?」
「うん、一応は大丈夫、でも課長さんって凄いんですね」
最初は衝撃を受けていた里子だったが話を聞いて逆に和男を尊敬していた。自分は異世界で好き放題と考えていたのに目の前の男は国のために力を貸そうと動いた。それだけで自分より立派だと思わされた。
「何がでしょうか?」
「だっていきなり異世界に召喚されて私達を逮捕しろって謎な仕事を引き受けたんですよね? 凄いですよ」
だが里子の言葉を受け和男は「何言ってんだお前?」みたいな感じの不思議そうな顔をした後に口を開いた。
「いえ、待遇が良かったので」
「待遇?」
「はい、福利厚生はこの世界観にしては満足出来る内容で陛下は完全週休二日制を約束してくれましたので契約しました」
王と宰相相手に真っ先に確認したのは雇用契約だった。これは和男の失敗談から来る教訓で初めて入社した会社は週休二日制だったり雇用契約書が無かったり、転職先では社保の手続きを始めず信頼関係が出来てからなどと意味不明な事を言われ地獄を見たからだ。
「里子さんは有りませんでしたか? 私は三社目で転移させられまして……」
「あっ……私その、大学二年で……就活準備中で」
「なるほど、あの
和男に珍しく人間らしい感情が現れた瞬間だった。前世では転職するごとにブラック度が上がっていたトラウマが有るのだ。
「まあ、今の私は就活以前に犯罪者なんですけどね……」
「更に残念なお知らせですが、こちら絶縁状が届きました」
和男から渡された手紙は公爵家の蝋印がされた手紙だった。中身は
「……ロズリーヌ・ヴィ・マルテールをマルテール家より追放か……ついに令嬢ですらなくなったか私の異世界ライフ……」
「そこで提案なのですが新井里子に戻ってみませんか?」
「え? それって、どういう意味ですか?」
「容姿を戻すのは無理ですが戸籍を変える……つまり別人になるんです。そうすれば普通に生きて行く事も可能ですよ」
アニエスも同様の措置をされており条件を飲めば無罪放免となる事は最初から決まっていた。ただし条件が有ると和男は言った。
「顔は変えないで下さい、美少女が良いです!! それで条件って何ですか?」
「ええ、司法取引の条件は私の部下になること、そして定められた年数で他の悪質令嬢を見つけ出し逮捕・拘束する事に協力することです」
「え? それだけ?」
和男から提示された条件に里子は驚いていた。彼女の中では奴隷落ちや洗脳やらと危険な単語が浮かんでは消えていて覚悟はしていたのだ。
「はい、ただ基本的に、やりたがる人が少ないんです」
「え? 何で?」
その疑問に答えたのは夕実だった。
「同じ悪役令嬢いえ
「あ、そんな居るんだ悪役令嬢」
思ったより多いな悪役令嬢と思いながら裏切りの意味を理解した里子だが正直、なんで裏切りになるのか言われるまで分かっていなかった。
「逮捕した数は去年は十六人なのに
「さらに国内で抑え込めたのが稀有で、国際問題になっていたら里子さんの場合は司法取引は出来ませんでした」
夕実の言葉を引き継いで和男が言うが里子はそこで一つの疑問が有った。
「そうなんだ、課長さん、その……もし国際問題だったら私は?」
「あなたの場合もし皇太子と国境を越えていたら間違いなく監視付き生活で一生、地下で幽閉でした」
本当にギリギリセーフの里子だった。
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