第21話 イマの叛逆(現在)

 雷雲が天変を告げる。豪風が吹き荒れ、地は激動した。皆、その天地の震え様に、恐懼(きょうく)した。雷雲が集まり、巨大なナイの姿に成ったかと思うと、それは受肉し巨大な女皇ナイの姿となった。カコの裏切りの事実を知ったナイの激昂は、留まることを知らず、目に映るナイラディアの生きとし生けるもの、形あるもの、全てを死の世界へと送り出した。巨大なナイは、全てを拒絶した。破壊の女神は、全てを薙ぎ倒して行く。逆に言えば、見つかりさえしなければ、命は助かるのだ。皆んな、隠れた。その時、隠れる場所の奪い合いで、いくつかの魂が失われた。心の寂(さも)しさは、いつも争いと繋がって居る。


 この時、障害物に潰されて、死界送りになった者が散見された。仮に、『超恩』により、"ナイの激昂の被害者の蘇生"を願い出ても、建物の倒壊による死者は、注意していれば、避けられた不運として、蘇生の対象外に成ってしまうのだ。ぶっちゃけ、彼らも、お役所仕事だ。働いた分くらいは貰いたい。そんな寂しい心の表れだった。そう、運命にはフェイントは、付き物なのである。


 セクティは失神し、カコの姿でカコラディアに倒れている。従僕であるチックとテータも目を回し、グロッキー状態だ。ただ、タックだけが片膝を付きながらも、必死に耐えて居る。


 セクティ:「タック、お前は大丈夫なのか?」

 タック:「オイラが倒れちゃ、誰がカコ様の体温調整の面倒を見るんです?」


 そう言って、具合悪そうに膝を付くも、倒れないタック。


 タック:「それよりも、カコ様の大事なお体に傷付けないようにお願いします。以前、ミラ様の気晴らしの為にカコ様が体をお菓子になった時、あの方の無茶と来たら、見てられなかった。オイラの命はカコ様と繋がって居る。オイラはそれが嬉しいんだ。ここで滅ぶとしても、それは本望なんですよ。それはコイツらも同じだと思う。ここはオイラが踏ん張ります。イマ様、どうかカコ様のお体に傷だけは・・・」


 タックの懇願を遮るように、イマが言葉を、その上に重ねる。


 セクティ:「そいつは、お母さんに言ってくれ。この女(ひと)は、キレたら、容赦がないからな」

 ナイ:「何処だーっ、カコーーーーー! 良くも裏切ったな!! あれだけ尽くしてやったに、愛してやったというのに! 許さぬぞ、許さぬぞ、ぜっっっっっっっっったいに!だ!!」 


言葉の終わりと共に放った横薙ぎよ1撃で、山が1つ無く成り、平地にとなった。


 セクティ:「こっちだ! ナイ!!」


 今、セクティの体を操るのは、イマである。


 ナイ:「そこかあ! 見付けたぞ、カコ!!」


 髪の毛の変化に気が付かないほど激昂したナイは、赤い涙を吹き出しながら、セクティに対し巨大な拳の1撃を放った。主体がイマと成っているセクティが、その巨大な拳をいなして躱すと、拳は空振り、地面に激突する。土は大きく巻き上げられ、湖が1つ出来た。ミララディアから一部始終を見ていたミラが、イマにひと言もの申す。


 ミラ:「イマ姉! 今頃、ノコノコ出て来たと思ったら、カコ姉の体をぶん取るなんて、ズルい!(あたしも使いたいのに)」

セクティ:「悪いな、ミラ。僕は、姉貴が弱る時を狙って居ってたんだ。折良く失神とも成れば手間は無かった。この世界てのは、何階層で出来てるのかね? 想像も付かないよ。結局、途中で勝利天使のフィテ様に見付けて貰ったから、直で天界に行けたけどね」

 ミラ:「え? 天界に行って来たの?」 

 セクティ:「うん」

 ミラ:(うん、て、そんなことも無さ気に簡単に言うけれど・・・)


 ミラは、我が姉の外連味の無さに舌を出した。


 セクティ:「直訴するには行くしか無いじゃない」

 ミラ:「直訴って、何の直訴?」

 セクティ:「ナイのゼロ除算をさせて欲しいって」

 ミラ:「ゼロ除算!! ゼロで割っちゃ行けないって、言われて無かった??」

 セクティ:「言われてるから駄目とか、そう言うことで無く、やらないと、このナイラディアは、どうにも成らないんだよ。案の定、許されなかったよ。割ることで、0(消滅)か1(完全)に出来れば、未来が見えたんだけどな」

 ミラ:「でも、それってナイ様、いや、お母様の消滅も1/2の確率で、有り得るんじゃないの? ナイ様、いや、お母様の消失は、ナイラディア界とその住人の消滅も意味してるんじゃないの?」

 セクティ:「生きるに足ら無い人生など、無くても構わないさ。そん時は覚悟しようぜ。だが、許可されなかったことで、別の計画が動き始めた。僕も何が起こるか分からないから、2の足を踏んでたんだ。却って、決意が固まった。秘策はこれ!」


 イマは、カコがいつも肌身離さず持って居た、秘密を込めた小箱を、空中に取り出した。直接、手に触れないように慎重に扱う。こう言う代物は、大抵、穢れているからだ。ナイの渾身の1撃を躱した瞬間に、イマがミラと話す為に身を隠したので、セクティを見失っている巨大なナイの後方頭部に再び位置取る。


 セクティ:「これを、こうするのさ!」


 イマのセクティは、小箱をナイの頭部にぶち当てた。内容物が溢れ出す。良くぞ、これだけ詰め込んだものだと感心する量である。中から出て来たのは、卑猥に関する物、狡猾に関する物、あらゆる醜聞が詰め込まれた社会の汚物だ。黒いホルス関係の物、裏帳簿や人間関係、隠しホルスのコードや封印したい記憶の数々。それが撒き散らされた。それはナイだけで無く、ナイに組みする者達の醜聞でも有る。表向きは身綺麗な人格者。しかし、裏から見ればと言う奴である。ぶち撒かれた内容物の1つを確認したナイは、絶叫した。


 ナイ:「終わる! 終わってしまう、ナイラディアが!!」


 セクティは、双剣を握り、それを掲げて宣言する。


 セクティ:「僕は、宣言する! 諸国民よ、今こそ立ち上がれ! 自由と全ての人に平等な青い空を目指すんだ!! 賛同する者は、僕に力を!!」

 ナイ:「その出で立ち、そちはカコでは無いな。恐らく、イマ。イマで在ろう!」


 クワッと目を見開いた顔が怖い。

 

 セクティ:「姉貴には悪いが、アンタの憎悪は痛いんでね。標準(サイト)が甘いなら、その緩みには乗らせて貰った。そもそも、気が付かないアンタが1番悪いんだぜ?」


 そうする内にセクティの体は、どんどんと大きくなり、ついに当所の巨大ナイの体を圧倒する程になった。秘密の暴露に依って、ナイは急速に支持を失い、ナイの巨大な体は、みるみる萎(しぼ)んでいつもの大きさになった。


 セクティ:「これでアンタも終りだ」


 巨大な体のセクティが、勝ち誇って言う。


 セクティ:「対面では、アンタは僕には、敵わない。チェックだ。終わりだよ。・・・詰めろだよ」


 イマは自作の双剣をナイに向けて勝利を宣言する。


 ナイ:「何をしたのか分かって居るのか! まだ終わらぬぞ! 来るぞ!奴らが来る!!」 


 蒼白になった、ナイが叫ぶ。


 ナイラディアに幾億もの虫翅の天使が飛来した。ナイラディアは、蝿に集られた、ウンコ状態だ。この時、世間の騒乱を度外視して、ユリは揺れていた。


 ユリ:(イマさんが目指すイル様の願い"全ての人に平等な青い空"とカコちゃんが望む平穏な世界での泥さらい。平和と大池。この2つの道は、たぶん、重なって居ない。どちらかを選べば、どちらかは選ばれない。ミラさんは、前の例から見ても、今回もイマさんに乗るのでは無いか? ミラさんは、日和見なところがある。勝ち馬に乗るのだ。生き抜く為には必要なことだが、自分は賛成することは出来ない。ボクは、カコちゃんに幸せになって貰いたい。おばさんが少しまともになって、秘密のお仕事は暇になって、大好きな沼さらいばかりが出来るように成れば良いのにな。そうなる為には何が足りないんだろう?)


 そんな騒乱状態のナイラディアに開闢神アーが、来臨(らいりん)する。先導するのは勝利の天使フィテと宇宙の情報のフォルカスだ。ベルゼブの中には、同じ記者天使であるのに上手く政権に取り入って、特ダネを手に入れるフォルカスを妬む者も居た。成り行きとは言え、そのフォルカスに頭を下げねば成らんのだ。知る者には察するに容易い事実だ。


 アー:「皆さん、ごきげんよう。今日は大事なお知らせを持って来ました。長らく、不在であったピラーを決めました。はぃ、そこの幼体フェアリ姿のユリ君、こっち来て。彼がピラーです。歳が若いからって、舐めちゃ駄目だからね。本名は、ユリセウ・パスプ・ウルク。パスプ家の者だから、強いのは分かるよね? じゃ、そんだけ。あと、ユリ君、宜しくね」


 ベルゼブ達は、ユリに殺到する。


 ベルゼブ1:「ユリセウさん、施政方針はいつ発表されますか?」

 ベルゼブ2:「ユリセウさん、天使国との軋轢(あつれき)に関しては、ご見解を」

 ベルゼブ∞「恋人は?」


 ユリは、良く分からず、ポカンとしている。ベルゼブ達は矢継ぎ早に質問をして、答える暇も考える暇も与えない。


 ユリ:「もー、いい加減にしてよ! ボクは、ピラーなんかに成らないよ!」


 突然のユリの宣言に、記者天使達は色めき立った。『ピラー候補ユリセウ氏、ピラー就任を拒否!!』早く記事にして、ヤンキー(天使のお金)に換えなきゃ! という訳で、ベルゼブ達は、今度は打って変わって、帰国ラッシュに入って行った。数刻でベルゼブ達は全員帰国してしまった。


 セクティ:「大変なことになったぞ・・・」

 ナイ:「なんじゃ? なんじゃ? 劣勢だったけど、なんか面白いことになってきたぞい」


 物語は悲喜交交で、苦渋を舐める者が居れば、愉快に楽しむ者も居る。物語は佳境へ。


(第22話へ続く)



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