第18話 決戦前
ひと通りの説明を終えて、希望の丘で休むセクティとユリ。キャンピングシートの上で休む内に、ユリは寝てしまって居た。シートの上で寝冷えでもしては大変だ。そんなセクティの配慮でユリはセクティに抱きかかえられながら、スヤスヤと寝息を立てていた。ユリの眠りは深い。今日の勉強はハードだったから、今は寝かせておくかと、ユリの寝顔を見やった。フェアリの姿も可愛らしく造形して居り、造形のセンスの高さを伺わせた。セクティが気になったのは、特長的なギザギザツンツンな黄色い眉毛である。セクティは思った。ここまでツンツンにすることあったのかな?と。造形のことで話し合いをしたことは無いけれど、ユリ独特の格好良いの体現なのだろうなと推察した。
セクティは、自分の未来へと思いを馳せる。この少年への肩入れは、母である女皇ナイとの敵対を意味する。少年には殺害命令が出ている。それに背いたと成れば、黒丸は確実だろう。しかし、それはイマとミラの2人を助けた時点で私も黒丸者なのだ(バレては居ないけど)。恐れることはない。富貴な立場から奴隷に落とされれば、その衝撃たるや想像を絶するが、私の場合はどん底から這い上がり、実力で成り上がることの出来る頂点2まで辿り着いて居るのだ。『秘密』の女神と成って、退屈などという贅沢な感覚にも触れさせて貰った。もう十分だ。例え、我が義父ヤムがこの命をナンバーの塵と変えても、私は満足だ。だが、その前にやり残したことが1つ有る。この子の育成だ。ソウルスペック125 。それは完成されるとどれ程の力を見せつけてくれるのだろう? 所属する世界に背いた反逆者。謀反人、犯罪者。親不孝者。色々、私を謗(そし)る言葉は有るだろう。しかし、この子だ。この子、ユリに付いて行く限り、私の全ては肯定されるだろう。そんな奇跡(ミラクル)、期待、希望、ワクワクが止められない。これが、この子の持つ『夢想』のリックの力だと言うのだろうか? だか、夢想は、夢想だ。現実では無い。幻想に導かれているだけかも知れない。ユリには現実を見てねと言いながら、自分は夢想の真っ只中に居る、矛盾と皮肉。そんな滑稽(こっけい)を、セクティは自分自身に感じて居た。希望の丘。ここでは日は落ちず、風も穏やかに吹き続ける
カコの心は縛られて居る。ナイには、絶対服従。親に従うのは当然でしょ。そんな確信に満ちた思い。疑問付は付かない。カコには、ナイ対する反逆も不服従も考えられない。ここでの法則は、ナイなのだから。ナイの検閲は過酷で過失は、一切認めなかった。容赦無い制裁だけが、そこにはあった。説明は無い。理由を考えるのも自分の仕事だ。しかし、ナイは、自負には甘かった。ナイは女性だから。女心というのは複雑だ。意中の相手とは別の男に嫁して、尚(なお)、ナイはかつての意中の男を愛していた続けて居た。意中の男とは、オルだった。ナイは、オルを愛して居る。女性を雌(メス)としてしか見ぬロアで無く、女性を1人の女として見、尊敬してくれるオルに愛されたいのだ。しかし、世を儚(はかな)んで離散(りさん)したイルだけが、オルには女性なのだ。最も現実的な数字を扱うオルが幻想と言って良い女性の理想像を求めて居るのだ。世界の運命は、何処に辿り着くのだろう。どうにも成らぬことを思い悩むことも、また無駄なこと。
セクティが、自己の思索に考え耽って居る頃、ユリは自分の夢の世界の中に居た。
ユリ:「なんだっけ? ここ来たことあるぞ? 何だっけ? ここ??」
ユリは、見覚えのある殺風景な白い壁の中に居た。訝(いぶか)しんで部屋をキョロキョロと見回すユリの目見たことの有る1匹のグレーの眼(まなこ)の子狐が居た。子狐はこちらに気が付いても逃げるで無く、寧(むし)ろ、毛づくろいをしたり、後ろ脚で頭を掻いたりしていた。ユリはゆっくり近づいて、質問をした。
ユリ:「貴方は誰ですか?」
ひとしきり頭を掻(か)き毟(むし)った子狐は、退屈そうに欠伸をすると言った。
子狐:「ユリさん、フェアリ姿ですね。どうされたんです? 最近、来なかったのも、何か遭ったのかな?」
ユリは知らない子狐で初対面の筈なのだが、子狐の言い分だと、向こうはこちらを知っている様で、少々気持ちが悪いと思った。この時は違和感を感じなかったのだが、子狐が言葉を喋っていることに違和感を持つべきだったと後で酷く後悔することになる。
ユリ:「君はボクを知ってるの? ボクはキミと初対面だよね?」
子狐:「こいつは良いや、また忘れてるんだね。僕にとって君は良いカモだよ」
そう言うと、さも楽しげに仰向けになって笑い転げた。
ユリ:「あの、質問に答えて欲しいのだけど、キミはボクを知っているの??」
子狐:「僕が君を知ってるかだって? もう2度も会っているよ。そして、2度もご馳走になったのだよ。1度目は君とお母さんの団欒(だんらん)の記憶、もう1つは君と天使の腕相撲の記憶だ。アハハハ」
ユリはそう謂われてハッと思い出した。何で忘れて居たのだろう? どちらも忘れちゃ行けない大切な記憶だ。ド忘れの部類で、エリユリはそう言われてやラーハムに対して、済まない気持ちで1杯になった。ユリは、そう言われてハッと思い浮かぶことがあった。
ユリ:「お前は、コン! そうだ、コンれ 思い出したぞ! こいつめ、ボクの記憶を食べやがって」
ユリは拳を掲げて、迫るがコンは積み上げてある箱型の障害物をひょいひょいと登ってユリから距離を取る。
コン:「あはは、思い出したんだね。忘れることと思い出すことは。同じこと。僕が食べても心の意味での忘却にはならない。フラッシュバックは起こり得る。まぁ、フラッシュバックなんてするのは、碌でもない記憶だけどね。思い出す記憶は選べ無いし、厄介な現象だよね。フラッシュバックは、だからボクは食べたくないんだ。粗悪だからね。それより君がお宝をしまうように大事に秘めている思ひ出を僕に味合わせてくれないかい?」
そう言いながら、積み上げられている箱の上で、頭を後ろ足で掻いて見せた。
ユリ:「こいつー、降りてこい。ぶっ飛ばしてやるー。お前に何度も大事な記憶を食べられて堪るか1発殴らせろー!」
箱上から、悠然と見下ろす子狐。
コン:「何故、僕が記憶を食べたことを明かしたと思う? 君は覚えるのが得意では無いだろう? そう言う奴は、僕にとってイイカモなのさ。お前の記憶は美味しい。また味合わせてもらうよ。大丈夫、すぐ忘れるさ、次にあった時も、初めてましてだ」
そう言って飛び掛かって来たコンから逃げ出したユリだったが、目が覚めた時には全てを忘れていた。
セクティは見慣れた山の稜線を愛でている。ナイラディアは霧や煙で何処かしら煙っている。
セクティ:「私がファイタであった時は、本当に戦闘ばかりしていたな。私はただのデータには成りたくなかった。データであるだけのリトルゴッドに意味など無いとすら思っていた。母上に拾われて、プロキシと成り、『秘密』の管理を任される様になって、それは間違いだと気が付かされた。単なるデータでも幸せなデータは有るのだと。しがし、私は、他人の価値を認めることで自分の価値が無くなるのを感じた。私は無気力だった。だから、やっと知ることが出来る。こうまでして生きる価値があったのかを」
セクティが万感を込めて山の稜線を眺めていると、ユリが絶叫を上げて、目を覚ました。
ユリ:「わぁああ!」
いきなり大声を上げて、ユリが起きたのもだから、セクティは、驚き、心配した。
セクティ:「まあ、びっくりした。どうしたの?」
起きたユリは、様子が違うことで違和感を感じ、キョロキョロと見回すと、そこがセクティの体の上だと気が付くと、顔を真っ赤にして照れた。照れを隠すように、今起きた夢の出来事に意識を集中する。
ユリ:「何か怖い夢を見たような・・・? ん〜、分からない、分からない・・・」
セクティ:「怖い夢を見たのね。可哀想に」
ユリ「んー、怖い夢って言うのとは、ちょっと違って、何かに襲われて昏倒したのだけど、思い出せないこの感じ、なんかモヤモヤするな」
ユリは胸のモヤモヤ感を表現しようとするが、上手く表現出来ない。
セクティ:「忘れそうなことは、メモして置くと言いわよ」
ユリ:「夢の中なので、メモ出来ないよ」
セクティ:「それなら暗記するしか無いわね。目が覚めたら、すぐメモよ。だから、枕元には筆記用具とメモ帳を置いておくの」
ユリ:「起きてメモか。確かに、それなら出来なくは無いのか? いや、起きた時に忘れちゃってるから、やっぱり出来ないよ」
ユリは不満を述べる。
セクティ:「そこは気力と運よ。忘却と気力で勝負。気力は無くても、覚えてる時は、覺えてるもんよ。メモする気力は要るけれど。それから、あとで見ても分かるように、丁寧に書いてね。誰が、何処で、何をしたか、何故?まで書けると良いでしょう。読み返す自分は、その事を知らない他人くらいに思った方が良いわよ。謎の文書を書き残しても、余計にモヤモヤしちゃうから」
ユリ:「注意事項が多いな。女神様の注意が、まず覚え切れないよ」
セクティ:「これを上げましょう」
セクティは、そう言って、肩掛けのポシェットを出してくれた。ユリが中を探ると、ノートと筆記用具が入っていた。
ユリ:「やったー! 頂けるんですね。よし、さっそく、メモだ。まず、枕本に筆記用具、メモ帳を用意すること。それから・・・」
ユリが自分のアドバイスを早速実行してくれてくれているのを、セクティは微笑ましく見守る。ふと、セクティは、ユリに言って置かなくては成らないことが有るのを思い出した。
セクティ:「それを書きながら良いから、少し聞いてね。ユリ、貴方に言って於かなければ、成らないことがある。貴方の失われた魂体の事です。貴方は魂の1部を失った。しかし、ソウルスペックは125から変動していない。これは貴方の魂体は、既に意思を持ち、自立して居る可能性を示しているのでは?と推察しています。これは良くない傾向です。魂は分かれてしばらくすると、固定化して、もう元には戻らなくなる。その時、ソウルスペックも失われる。勉強が終わったら、一緒に捜しに行きましよう。失われた半身を取り戻さないとね」
ユリ:「んー、以前より、身軽になったし、心も晴やかだから、別に今のままでも良いけどなあ。取り返さなきゃ駄目?」
セクティ:「それは、このこと自体が不自然なのよ。貴方は自然から離れてしまう。貴方は、これから多くの悪を見る。貴方は、悪を見る時、命が抱える悲しさも恐れも見えなくなる。そして、その末に、貴方が悪に染まってしまう」
ユリ:「ボクは悪になんて染まらないよ。お母様の息子だもの。悪いやつは、許さない!」
セクティ:「ホラ! もうその兆候が出ている。見えていない部分。隠している部分にも光を当てて見ないと駄目よ。物事を白と黒でしか判断が出来ないでしょう? 現実も真実も多面的。1つでは無いの。切り取る面によって、様々な面を見せるもの。失われた半身を取り戻し、貴方にそれを知って欲しいのよ」
ユリ:「ボクのカードや服を奪ったダウンゴッドは、ダウンゴッドだから、制裁は必要だし、でも白黒で見分ける方法は駄目だしで、何か難しいね? でも、セクティさんが言うなら、勉強を頑張ってみるかな」
ユリは頬を染めながら言った。
ユリ:「お母様は言っていた。無欲で居てね、と。ボクは、その時、はい!とと答えたけれど、そのことは、どう思いますか?」
セクティ:「そうね、無欲で居ることは良い事だとされている。だけど、それは無欲で居る人の取り分を自分達が狙っているだけの場合も有る。名誉は譲るが、実利は頂くと、言うやり口はあるのよ。まぁ、細かい部分は、体験した方が早いから、出来るところまで、やってみたら。ピエロの役を」
ユリ:「ふむぅ~、難しいね」
ユリはピエロを勧めるセクティに疑問を感じながらも、母の希望でも有るし、でも、自分は嫌だしで、複雑な気分になった。セクティは、抱いていたユリを肩に挙げてたちあがると手を振って、キャンピングシートを消した。女神の行動を訝しむ、少年の心を察した女神は、応えて言った。
セクティ:「制裁に行きましょうか」
ユリ:「どこに行くんですか?」
セクティ:「忘れ物があるところよ」
セクティは、愛嬌を振り撒いた。ユリは可愛いと思った。セクティは、空間にカギを差し込むと、空間をガチャリと開いて、何処かの洞くつの中に出た。そこは酒場の様になっており、多くの人が屯(たむろ)していた。急に開いた空間に注意を向ける者は居ない。セクティのステルス技能だ。酒場の客の中で人1倍体の大きな鬼がホルスカードを掲げて自慢げに喋って居る。
ユリ:『あ、アイツだ! ボクからカードを奪った悪い奴、泥棒め!!』
ユリの鼻息は荒い。セクティはユリを胸の前に両手で抱えて、目を見て言った。
セクティ:「ここは任せて。きっちり処断するから」
そう言うと、セクティはダウンゴッドでごった返した店内を、問題の鬼の前まで、スルスルと進んで行く。
ボージャク「今日も、このボージャク様の驕りだ! どんどんやってくれ! 金なら、このホルスカードで払ってやる!! 全く良いものを手に入れたぜ、いくらでも金が出て来やがる」
ユリ:「あ、ボクのカード」
ホルスカードに手を伸ばすユリに気付いた、ボージャクが乱暴にカードを専有する。
ボージャク:「なんだ、お前はあっちに行け、ぶちのめされたいのか」
セクティ:「この少年から奪った、そのホルスカードを返してもらおうかしら?」
ボージャク:「このカードは元から俺のカードだ。難癖は行けませんぜ」
ユリ:「嘘つけ〜。オマエはその大きな棍棒で脅してカードを奪ったんじゃないか。その時、近くに居たリトルゴッドも殺している」
ボージャク:「姿は違うがあの時のガキか。理由は分からんが、証人は生かしちゃ置けねぇ。このカード、便利に使わせて貰ってるぜ。ホルスがいくらでも出て来やがる」
ユリ:「返せー! お母様がボクにくれたカード!!」
ホルスカードは、ユリに取ってホルスの価値よりも、母エリがくれた母との繋がり、その物だった。
セクティ:「そのカードを帰しなさい。貴方の物では無いでしょう」
ボージャク:「あ〜ん、なんだあ? このスケは。誰に口を聞いている? 良く見りゃ良い顔してるじゃねーか。ホルスが欲しけりゃ俺のスケになれ、ホルスはいくらでも出してやる。ただし、飽きるまでだかな」
セクティ:「大人しく返せば良かったものを」
セクティは、黒い長柄の鎌を出すと、ボージャクからユリのホルスカードを掠(かす)め取り、慌てふためくボージャクを両断した。ボージャクは消し炭となった。消し炭なったボージャクを見て、店内の客達は騒然となる。客達をぐるりと、いち瞥するとセクティは1人の男を長柄の鎌で指し示した。
セクティ:「お前、来い」
指し示めされた男は、周りに急かされて、前に出てきた。
セクティ:「お前、名前は?」
サギルカス:「へっ、へい! サギルカスでやんす。 何の御用でしょう? あっしはホルスカードの件とは無関係でして・・・」
サギルカスは、へこへこと弁明する。
セクティ:「お前に聞たいのは、そんなことでは無い。お前は最近、少年から服を巻き上げ、ホルスを得たな? ホルスのことはここでは咎めぬ。お前は少年から"生きるくらい残してやる"と言って2/3を持って行ったな? 嘘は有罪だ。即遮断する。奪ったものは、どこにある?」
セクティは女性とは思えない怒気のある下目使いで、サギルカスを見下すと、鎌先をサギルカスの顎下に近付けた。これにはサギルカスも大汗を隠し切れなかった。
サギルカス:「あ、あの魂の残りですか! あ、あれは惜しいことをしました。高値で売れるところを物色して居たら、空間の壁を飛び越して、アーディアに逃げて行ってしましました。ここには居ません」
セクティ:(空間を超えた? 帰巣本能が、そうさせるのか?? そうなら、目的地は天界か? 無茶と思えるが、それ以上の無茶を既にやって退けている・・・。成功判定が分からないな)
セクティは、鎌を構えながら、思索に埋没する。セクティが動かないのを見て、サギルカスは抜き足差し足、逃げようとする。セクティは、瞬速の捷さでサギルカスの背後を取ると鎌を首に当てがい言った。
セクティ:「どこに行く? まだ裁きは終わって居ない。お前は少年を殺しはしなかった。だが、少年から、魂を2/3を奪い去った。なら、同じ裁定が至当と判断する。"目には目を、歯には歯を"!」
サギルカスは両断された!
サギルカス:「うぎゃ、やられ・・・て無い??」
いつもと変わらず動けることに安堵するサギルカス。しかし、後ろを振り向くと、もう1人の自分が立って居た。
サギルカス:「だ、誰でえ! お、お前は!?」
セクティ:「その方の御名前は、サギラナイ。お前の良心の具現です。良心に沿って生きること。それが貴方に課す罪滅ぼしの道です」
セクティはそう言うと、ユリを抱え、また扉を開いて出ていった。
サギルカス:「き、消たた・・・。つ、罪滅ぼしの道だと? バカな。これしきの上がりで罰なんて受けてられるかっての。おい、お前、サギラナイだっけか、サギローに改名しろ。陰気臭くて行けねぇや」
サギラナイ:「いいえ、私はサギラナイ。正しく生きるのです」
サギルカス:「では、正しく行きられない時は、どうするんだい?」
サギラナイ:「死ぬのみです」
サギルカス:「なら、死にな!」
サギルカスは、サギラナイに短刀を突き立てた。サギラナイは、意外そうな驚きの表情をして倒れた。
サギルカス:「へへっ、強情を張るからよ。良い舎弟が出来たと思ったのによ」
サギルカスが、そう嘯(うそぶ)いたといたとき、背中に痛みが走る。背後から誰かに刺されたのだ。サギルカスは後ろをふり向いた。その人物は意外な人物だった。
扉を開くと、大沼前の自宅に出た。セクティがソファに体を横たえると、待ちかねたように、フェアリ達もそれぞれ寛(くつろ)いだ。ユリもセクティの対面のソファに陣取る。ユリは、ずっと考えていた疑問を、セクティにぶつけてみた。
ユリ:「なんでセクティさんは、あのサギルカスの野郎を制裁しなかったの?」
セクティ:「制裁はしたでしょ。究めて正確に。それにね、裁く者は、また裁かれる者なのよ。つまり、犯人ね。私は、あの男の為に罪を背負う気には成れなかった。だから、自分で始末を付けるように『曖昧』に処置したのよ。今頃、もう決着してると思うけど、それは私が『決定』することでは無いから」
セクティは、立ち上がり自分とユリの分の飲料を、作り始めた。
ユリ:「でも、ボージャクの奴は、処置してるよね。消し炭に・・・。ボージャクの罪は背負えるの?」
セクティ:「あの男は止めないと、止まらないタイプ。止める側にも犠牲を求めるのよ。殺しと言うだけなら、ファイタのときに沢山殺しているわ。それに彼は、私の顔を褒めてくれたでしょ。消し炭はサービスよ」
セクティは、ウィンクをして、愛嬌を表した。
ユリ:(顔を褒めたから、消し炭か・・・。うっかり貶(けな)してたら、どんな処され方をしてたんだろう・・・?)
ユリは、複雑な思いに駆られていた。
(第19話へ続く)
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