第16話 勉強2

 セクティが自宅に帰還して、地球の時間感覚で、数日が経った。セクティは、ユリに肉体生成を促すことにした。自分に任されたのは、この不憫な幼体に、1人で生きる術を教えてやることだ、とセクティは考えていた。


 セクティ:「ユリ、起きて。今日も勉強を始めますが、その前に自分で、自分の体を作りましょう。貴方は、ハイコード。生まれながらのハイコードなのですから。1人で出来るはず」

 ユリ:「はにゃ?・・・。起きます、起きます・・・」


 初めての合宿の初日の朝と言った感じて、ユリは緊張しながらも、もそもそと起きた。


 ユリ:「体を作るんですか? ボクが? 1人で?? 体の作り方、ボク、知らないです」

 セクティ:「そうよ。さっきも言ったけど、貴方はハイコード、ランクAなのよ。勿論、戦闘の実力は伴って無くて、伸びる余地が有るだけなんですけどね。仮に戦闘とも成れば、そこに居る、チック、タック、テータと同じくらいの実力しか無いけれど、肉体生成の技能は問題なく使えるはずです。"案ずるより産むが易し"よ」


 セクティは、沼で拾った言葉を披露した。ユリには難しかったらしく、難解を抱えて、虚空を凝視して居る。


 チック:「えー!? 今ならユリさんが、どんな技を放とうとも、わたしの必殺カウンターガードで防いで見せるのに・・・(チッ)。惜しい! 時期を逃したか・・・」

 タック:「まだ、完成して無いだろ、お前の壁は!」


 タックが突っ込みを入れつつ、ハリセンで叩いた。スパーーーン!


 チック:「出来てますよ! タックさん、やるんですか!? 短い付き合いでしたが、楽しかったですよ。わたしの必殺カウンターガードで、お逝きなさい! くんなーーーー!!」


 壁は形成された様子は無い。が、タックは苦しみ始めた。


 タック:「ぐああ、まさか壁だと!? 完成させていたのか、ぬかったわ・・・ぐふっ」


 慌てて、駆け寄るチック。そして、タックを抱き抱え、涙に暮れるチック。


 タック「腕を上げたじゃねぇか。お前と付き合えて嬉しかったぜ・・・がくっ」

 チック:「タックさーーーーーん!!」


 チックは動かなくなったためタックを抱えて、涙するのだった・・・


 テータ:「ハイ、そこまで」


 スパーーーン、スパーーーン! テータがタックのハリセンを奪い取り、2人を張り倒す。


 テータ:「必殺カウンターガードって、カウンターなら、相手の攻撃待ちじゃない。相手の攻撃待ちの必殺なんて、相手次第じゃん。大腿、自分でもガード技って、公言してるじゃない。倒れてる方も倒れてる方よ。攻撃してないのに、何の攻撃が跳ね返ってきたのよ。訳分かんない。茶番、茶番。ハイ、ハイ。おしまい、おしまい。片付けて、片付けて。ユリ様のお勉強の邪魔に成りますからね。タックも立った、立った」


 サバサバとした空気が流れ、皆んなは片付けモードに入って行く。テキパキと場を掌握したテータが片付けを指示して、ガヤガヤと言った雰囲気で、チックとタックは落とし物を拾い、ズレた備品の位置を直したりした。


 ユリ:「え? つまり、これはコント・・・?」


 目を丸くした、アバターのユリが、状況を確認する。


 タック:「コントじゃねーよ! 魂の芸だ!!」


 タックは、大顔でムスッとした。鼻息は荒い。


 チック:「ですよね~! いぇーい!!」


 パチン! チックはタックとハイタッチをした。


 テータ:「また、やってる。仲が良いんだか、悪いんだか・・・」


 テータは、嘆息する。ユリは、まだ目を丸くしている。目を丸くして、立ち尽くすユリを見咎めたミラがユリに放言(ほうげん)を放つ。


 ミラ:「ほら、ユリ、ガチャガチャ、やってないで、早く外に出るんだ。カコ姉が待ってるぞ」

 ユリ:「別にボクがガチャガチャやってた訳では無くて、どちらかと言うと、被害者な訳で・・・」


 ユリは必死に弁明したが、それが却って、ミラの逆鱗に触れてしまう。


 ミラ:「良いから、出ろっての!」


 ユリのアバターは、部屋に設置されている大型スクリーンの方向に蹴り出された。


 ユリ:「わ、うああああああ! ぶつかる!!」


 スクリーンにぶつかるかに思われたアバターは、そのままスクリーンを透過する。蹴り出されたユリは、奇声を叫び、ナイラディアの大地に再び落ちた。体は無い魂体の為、受け身を取ろうと思ったが、腕は無く、体で受け止めることになった。ただ、魂自体の比重は軽く、衝撃自体も強くは無かった。


 ユリ:「わぁ、びっくりしたなあ。ぶつかるかと思った。ミラさんて、ほんと狂暴だよね。あんなやつは、もう体もちっこく成ったし、ミラで十分だな」


 そんな独り言を言っていると、セクティが、歩いて近づいて来た。


 セクティ:「怪我は無い? ミラったら、乱暴なんだから。また、直接、1言いう必要が有りそうね」


 温厚なセクティが唇を尖らせる。


 セクティ:「貴方の体を作りましょう。その方が何かと便利だし、今はその方が安全だわ。勉強するにも、あの子達とは離れている方が、集中が出来るでしょう。いきなり、人型は難しいから、フェアリ型で良いんじゃない? さっきまでフェアリだったのだから、体の感覚は覚えて居るでしょう?」


 ユリ:「うん。やってみる・・・!」


 ユリの魂がクルンと1回転すると、大きな目を付けた、可愛らしいフェアリが誕生した。青の目と黄色い眉毛、体の色はピンク色だ。


 

 ユリ:「やったー! 出来たよ、セクティさん」


 ユリはご満悦だ。


 セクティ:「ふふ、出来たようね。立派なフェアリよ。ここよりも、もっと良いところに案内してあげましょう。今日は、そこで勉強しましょう」


 セクティはフェアリを肩に乗せると、フワりと宙に浮いた。ドンドンと高度を上げ、続いて水平に目的地を目差した。目的地は、ナイラディアでセクティが好きな場所の1つ、希望の丘だ。ナイラディアは、陰鬱な世界である。概して、偽りの太陽による薄暗さと時々発生する濃霧が視界を奪う陰鬱な天候を持つ。しかし、ここだけは透過する壁が、フィルターの様な作りになっており、本物の太陽の光が透過して入ってきているのだった。明るいのである。


 ユリ:「わぁ、こんなところも有るんですね。丘に生えてる短草の様子は、御宮の周りと変わらないなあ」


 ユリは、望郷の念を満たす、その景観に感動すら憶えていた。故郷を離れて随分経つユリは、望郷の念から淋しい思いをしていた。セクティもそのことを察し、少しでもユリの心の負担を慶源し、勉学に集中して貰いたいという配慮だった。ユリは、まだ幼体である。セクティは、ユリに対する期待からとは言え、ユリを過酷の中に放り込もうとしている。それは、母ナイが自分に強いた過酷の中での生存と言う試練と如何に違うというのか? その問いがセクティ、いや、カコの心を苦しめた。他人へ過酷を犯したものは、自らも過酷になるべきだ。カコはそう思って居る。しかし、自分の過酷は母の過酷とは違ったものだ。そう言い切る為の詭弁。この過酷は、同じ過酷ではないと。他人の非情は憎めるがら自分の非情には甘くなる。痩せこけた良心の逃げだったのかも知れない。そんな心の叱責を受けて、セクティはうつむき、微笑むのだった。そして、セクティは、この勧めに従った。自分は、あの母の様には成らない。そんな小さな決意の現れだったかも知れない。ユリは、自分に掛けられている期待の重さ、しっかり勉強して、ラーハムに成長を、見せつける楽しみを胸に秘めていた。


 セクティ:「ユリ、それでは基本的な階級の説明から始めますね。質問は、ひと通り語り終えたら、時間を設けますから、聞いて下さい」


 頷(うなず)くユリ。セクティは、身を翻(ひるがえ)すと、右手2は白い差し棒、左手には黒いファイル、頭は束ねた眼鏡姿の教師スタイルに成って、説明を始めた。ミラは思った。カコ姉、なんてセンスや、こりゃ、ユリの性癖が歪むで・・・と。


 セクティ:「階級は、全部で6段階です。ただ、最上位のXランクと最下位のDランクについて、階級が曖昧である為、今回は説明しません。Xランクは、天使の階級であるし、Dは、ユーズレスとなった者たちの階級ですので、その分類は難解晦渋を極める為です。ランクは下から、ランクは下から、D→C→B→A→S→Xと成って居り、ランクDを下級神ダウンゴッド、その上がランクC のコモンゴッド、その上がランクBを上級神バーストゴッド、その上がランクAの特級神エースゴッド、その上がランクSの超級スペシャルゴッド、その上がランクXの絶級神Xゴッドと言います。Xゴッドは既に述べましたが、天使エンジェルの階級ですので、難解晦渋です。超越と透過が乱舞する、複雑怪奇の世界です。ここでは解説しません、出来ません。Sより強いと思って下さい。それで足ります。S以下の階級は、更に5段階に分けられ、A-Aの様に表記されます。私はA-Aです。なお、先程、言いましたDランクのダウンゴッド達ですが、他のランクで用無しのレッテルを貼られた者が落ちてくるので、高位の者が混じっていることも有ります。ただ、如何せん、用無しのレッテルを貼られてるくらいですから、総合力では劣るでしょう。私達リトルゴッド(小神)は、まず生まれると、データに編入されます。ここには技能神のなどの特殊技能が有るのもが永住することがあります。民神(みんしん)と言います。世論(よろん)を形成します。生れたデータは、ランクアップすると、コードと呼ばれ、ファイタ(戦神)に昇格します。ファイタは兵神と呼ばれ、兵役を将します、コードを得れば、半不死なので、皆さん、これを求めます。コードから更にランクアップするとハイコードと呼ばれます。ハイコードは上級国民。特権階級者です。プロキシ(伝神)と呼ばれます。将加味とも呼ばれます。不死の役目は、軍の統率と現在空位のS級スペシャルゴッドであるピラー(柱神)の代理であるマジェスタ(代神)に情報を届けることです。ユリ、私達エースゴッドは、上級国民。だけど、特権を与えられた者は、それに見合う行動をしなければ成らなのよ。忘れないでね。アーディアの最上位は、意識を現すスターターのアー様であり、アー様には4人の従神の衝動のロア、理屈のオル、悪い感情のナイ、良い感情のイルをして、ルーラー(律神)と御定めに成りました。ルーラーは、4元神(よんげんしん)とも呼ばれます。4元神より下位ですが、ピラーとマジェスタもSランクです。あと従属存在として、エンタシスとサーバーが有ります。エンタシスは、リトルゴッドの魂が帰るところ。サーバーは、リトルゴッドの記憶が帰るところ。魂と記憶の奪い合いをするのが私達の戦いです。貴方が出会うであろう存在について話しますね。私達リトルゴッドは、様々な存在に囲まれています。敵対的な者が居れば、友好的な者も居ます。また、曖昧な者も含めれば、大まかに3タイプです。しかし、絶対敵対は居ますが、絶対友好は居ないのは頭に入れ、信用をし過ぎ無いようにしましょう。リトルゴッドには付き物の増えあり達。フェアリには、幻獣タイプの大物も居ます。外敵には、カナンを始めとする怪物(モンスタ)系の者や実態を持たない霧状の幽霊(ゴースト)などが居ます。形状は、千差万別です。雑魚でも無限湧きを摺るので、気を抜くことは出来ません。貴方には、まだ早いですが、婦女精のニムペを得(え)れば、子供を設けることも出来ますよ。何度も申し上げますが、ダウンゴッドと対峙した時は、レベルより、技能に注目選手して下さい。イレギュラーな技能を持っていることが有ります。以上ですが、質問は有りますか?」

 ユリ:「セクティ先生、質問が有ります! ボクは、セクティ先生が好きです!! セクティ先生と結婚するには、どうしたら良いですか??」


 ユリは、フェアリの短い手を真っ直ぐに高く上げた。


 ミラ:(来た! 性癖の歪み!! カコ姉、どう答える??)


 ミラは1人、愉しそうだ。


 セクティ:「ふふ、残念。私と貴方は、結婚出来ないのよ。同じリトルゴッドだけれど、世界が割れて体の構成が変わってしまいましたからね。私と貴方では、子供は出来ません。貴方は子供だけれど、でも、プロポーズされて嬉しいわ。ありがとうね。良いお嫁さんを貰ってね」

 ミラ:「ユリ、玉砕(笑)(笑)」


 ユリは、ブーを垂れている。だが、エリが居れば、ユリが、このまま終えるリトルゴッドで無いことは明らかだった。しかし、居ないとあっては、仕方の無いことだった。セクティの中の3人が、それに気が付くのは、もう少し後だった。


(第17話へ続く)


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