第14話 天使ラーハム

 ユリの失踪(しっそう)から、人間(ひと)の感覚で数ヶ月と思える時間が経(た)っていた。場所はエリの御宮(みぐう)ニーベルング。ニーベルングの兵士達の規律は正しい。1チーム4人の2チームで1つの場所を守り、地球時間で1日を8時間3交代で勤務時間をズラしながら、やって行く。1チームの受け持ちは、1週間間である。7日の3交代なので、最終的に4にんの内1人が勤務無しに成る。だが、働いていないので、給料は減ることに成る。このことが、好まれたり、疎まれたりするのだが、ここでは関係ないので、割愛する。規律正しい兵士達は、時計のように、その行いを繰り返していた。御宮の最も奥まったところ、もし、戦闘になれば、ここを落とすのは、困難であろうと予想される絶妙な配置の場所にある。しかし、不安は用意にエリの寝室へ侵入し、エリを苦しめていた。エリは、ユリ失踪の悪夢に今日も魘(うなさ)されていた。


 エリ:「ああっ! ユリ!!」


 エリの悪夢の中で、エリののことを呼びながら、暗い暗黒へ飲み込まれるユリが見えた。お母様ーーー! そう叫びながら伸ばす手を、掴もうとするのだが、掴むこと無く空振りしてしまう。そして、ハッと目を覚ますのだった。ユリを失ってからというもの、エリはそれを繰り返していた。


 エリ:「あ! また、あの夢だ。寝てしまうものなのね。睡眠を導くカナンの取り立ては厳しいわね・・・」


 ユリが消えてから、何度も何度も同じ夢ばかり見せられている。いや、これからずっと見せられることになるのだろうか? そう思うと気鬱になる。エリの側には、いつも頼りになる2人の執事が控えて居り、目を覚ましたエリの為に、顔を拭くために絞ったタオルを手渡してくれた。


 エリ:「ありがとう」


 容色は衰えた。老化を得たのだ。疲弊したエリが、思い出すのは、ユリと2人で平和の丘に登ったときのこと。平和の丘の上でキャンピングシートを広げ、ユリを膝を抱いて、私の夢を話したことがあったっけ? 愛や恋や友情について。ユリは私に聞いた。お母様、友情って何? それは戦場で見つけるものよ。そんなに簡単には見つかないわよ。レアアイテムですもの。レアアイテムかあ、欲しいなあ。レアアイテム。ふふふ、ふふふ。そんな会話を思い出しているところに、来訪者が現れる。シャロだ。懺悔に来たのだ。


 シャロ:「エリ、食べなくては駄目よ。あの溌剌(はつらつ)として、闊達(かったつ)としていた貴方は、どこにいったの? こんなことでは、ユリ君が帰って来た時、どう思いますか?」

 エリ:「ふふ、貴方の指摘は、いつも正しい。でも、今の私には、キツ過ぎる。何を食べても味がしないもの」


 エリは、虚ろな目で、そういった。


 シャロ:「私は貴方に大変なことをしてしまった。まさか、これほどのことになるだなんて。貴方は私があの男の口車に乗せられて、ユリ君を謀略に巻き込んだ上、私が支払うことになった膨大な借金をも、私が黒幕の1人と知りながら引き受けてくれた。これはどんなに謝罪してもしきれません。ごめんなさい。でも、1つだけ、聞かせて。貴方は何故そうまてして、私を助けてくれるの?」

 エリ:「そんなこと・・・、友達じゃない。貴方は私の友達でしょ。私はユリに教えたの。友達は大切にねって。貴方も、『嫉妬』は、もう駄目ですからね」


 シャロは号泣した。


 シャロの号泣に導かれる様に、天候は悪化した。風が吹いたのだ。突風だ。屋敷を小刻みに揺らすほどの風が吹いたのだ。そして、止まった。1人の天使を残して。その天使は、咎められることもなく、いくつもの関門を通過して行った。そして、遂に最も奥に位置するエリの寝所にまで到達してしまった。天使は4枚の羽根を付けていた。4枚羽根の天使は、エリに膝いた。


 天使:「先生、只今、帰りました!」

 パピー:「ラーハム様!」

 マピィ:「お帰りなさい、ラーハム様!」


 天使は、ラーハムであった。収賄天使のアロンデルを誅殺し、オル預かりと成っていた、ラーハムが帰ってきたのだ。


 ラーハム:「先生! この有り様は一体!?」


 美しく聡明だったエリの変わりように、ラーハムは衝撃を受けたようだった。ラーハムは、パピーの胸ぐらを掴んで、説明を促す。


 パピー:「はい、貴方様がお屋敷を出られた後、そこなるシャロ様も関わったユリ様失踪の悪巧みが行われたのです。ユリ様はナイラディアと言うアーディアの副世界へ落とされてしまったのです。行方は、まだ判明しておりません」

 シャロ:「私は騙されたのよ! 蝙蝠羽根の男に! ほんの少し、ざまあをしてみたかっただけなのよ。その所為で私も莫大な借金を背負わされた。でも、それも全部エリが肩代わりをしてくれると。ごめんなさい、ごめんなさい」

 ラーハム:「俺は、あんたの謝罪には興味がない。ホルス関係のことにも、くちを出す言われはない。だがな、ユリのことは許せない。ユリは俺の友達だ。大事な大事な友達だ。今、ここで処分しても構わないが、そうすることで、あいつが気に病むことになることを俺は望まない。しばらく、首は預ける。始末はユリに決めてもらう」


 エリが、ラーハムを呼んだ。ラーハムは、シャロを置いて、エリの下に駆けつける。


 エリ:「ラーハム、我が弟子よ。本当に立派になって・・・」


 ラーハムは、天上から与えられたのであろう綺羅びやかな装備を身に着けている。


 ラーハム:「先生、オル王にもご尽力頂きまして、天使の身ですが、正式にリトルゴッドの仲間にさせて頂きました。それには『勝利』の天使フィテ様、『宇宙の知識』のフォルカス様にも、お世話になったことを、添えさせて頂きます」

 エリ:「まぁ、オル王、『勝利』の天使フィテ様、『宇宙の情報』の天使フォルカス様にも、お世話になったのね。大事(おおごと)を乗り越えたのですね。自慢の弟子です」


 エリは、微笑みを返した。エリは、ラーハムを引き寄せ、頬にキスをした。ラーハムは、エリの様子が弱々しいのを見て、その身中(しんちゅう)の苦しみを思い、涙した。


 エリ:「ラーハムよ、よく帰った。帰って早々で悪いが、ユリの探索に出向いて、もらえまいか? あの子が今どうしているかと思うと、不憫でならぬ」

 ラーハム:「先生、お任せ下さい。ユリは、必ず連れ帰ります」

 エリ:「頼まん、頼まん・・・」


 エリは、そう言って、ラーハムにしがみついた。ラーハムは、すぐ返りますと、エリに言うと、ユリが落ちたとされる断崖をシャロから聞き出し、ベランダまで出ると、その4枚羽根を大きく広げ、空に飛び立った。ラーハムは、超速と呼べる速度で崖まで飛んで行く。


 ラーハム:「俺はあいつに希望を見たんだ。そう『夢想(ゆめ)』を! 待ってろ、ユリ! 必ず、助ける!!」


 ラーハムは、飛びながらユリへの感謝の気持ちを反芻していた。あいつは、いつも笑っていた。あいつが笑ってくれると、俺の気持ちは不思議と楽になった。まだ、体が回復し切らない頃、2人でゴロ寝してやりたいことなど語り合ったっけ。俺はしたいことも、出来ることも無かったから、夢と言うやつには無関心だった。でも、あいつと来たら、出来そうも無いことを、つぎつぎと夢の候補に挙げていった。最初は呆れたものだが、そのうち、そんなあいつを見るのが愉しみになって行った。あいつは、夢だ。まさに夢の塊だ。そう言えば、今は慣れてしまったラーハムと言う、この名前。あいつが付けてくれたんだっけ・・・。


 あの時も俺の病室として当て構われて居た部屋のフェルトのマットの上でゴロ寝して居た時だったっけ・・・。 


 ラー・ハーム「ユリ、お前、全然、俺の名前が覚えられないな。お前には、天使の名前は難しいか?」

 ユリ:「そ、そんなこと無いなよ。えっとえっと、ラー・マームでしょ?」

 ラー・ハーム:「違うな。・・・そうだ。お前が付けてくれ。自分が付けたら、忘れないし、言い易いだろう。ラー・ハームって、言う名前も今の俺には、重すぎる」

 ユリ「どういう意味なの?」

 ラー・ハーム:「『輝かしき譽れ』といった意味で、ラーが、大きな光でハームが栄光とか繁栄とか言う意味さ」

 ユリ:「じゃあさ、もったいないよ。良い名前じゃない。ラムリャムラァム」

 ラー・ハーム:「絶対、わざと間違えようとしてるだろ、こいつ〜」

 ユリ:「え? 言えてなかった? おかしいなあ」

 ラー・ハーム「良いから、付けろって、決定権はお前にある。その代わり、変な名前を付けたら、後で覚えてろ」

 ユリ:「わー、怖いなー」


 ラー・ハームは、個の時間はかなり無駄だと感じていたが、こんなジコンでもユリと過ごす時間は愛おしく感じられた。


 ラー・ハーム:「良いから付けろって、かっこいいのを1つ頼む」

 ユリ:「本当にボクに付けさてくれるの!?」

 ラー・ハーム:「その代わり、自分の付けた名前を忘れたり、間違えたら、許さないぞ良いことには、マイナスの面もあると言うことだ。どうだ? 俺の名前、付けてくれるか?」

 ユリ:「うーん、付けたいなー。でも、マイナスもあるのか。あんまり、記憶って自信ないのよね。すぐ忘れちゃうから。ちなみに名前を忘れた時のデメリットってあるの?」


 ラー・ハーム「そうだな、ごめんなさい、◯◯さん、次は間違えませんので許して下さいを、5回言うことにしよう。そうすれば、その内、憶えるだろう」

 ユリ:「えー、それ毎回するの?」

 ラー・ハーム:「ああ、そうだ、罰だからな。エンジェルは、罰則には厳しいそ。名前を付けるなら覚悟しろ」

 ユリ:「そうか容赦なしか。詰まり、ガチンコ勝負だね。よし!やろう、君とガチンコ勝負だ! さて、なんて名前にするかな? かっこいい名前にするから、ちょっと、まってね」


 ユリは、名前を考え始めた。


 エリ:「あの子は、またラー・ハームさんのところに行っているのね? ラー・ハームさんは、窮地は脱したのだから、勉強の方も頑張って欲しいのだけど」

 パピー:「いえ、窮地は脱して居るようですが、片翼で有ることと、心の傷は完治はしていないようです。時々フラッシュバックに苦しめられている様です」

エリ:「そう・・・では、あんまり検索するのも、今は無粋か。しかし、状況が何時までも待ってくれす訳ではないですからね・・・」


 ユリ:「決めた! 君は今日からラーハムだ。もとの名前に似ているし、こっちの言葉で、英雄って意味だよ。これで行こう、これで行こう」

 ラーハム:「英雄とは、大層な名前を付けられたな。では。このラーハム、ご期待に沿えるよう頑張ります」

 ユリ:「うむ、良きに計らえ」


 ユリは調子に乗って 、大人の真似をした。


 ラーハム:「こら、調子に乗り過ぎだぞ」

 ユリ:「わははは、ごめん」


 2人は笑い合った。或る時、ラーハムが、昔のことを思い出すふらっしゅばっくと言う奴で苦しんだことがあったんだ。ラーハムにボクに出来ることはない?って聞いたら、ただ、そこに居てくれと、言われたのでそこに居たんだよ。ラーハムは、天使の羽根の説明を始めたよ。2枚の羽根が下級天使、4枚の羽根が中級天使、6枚の羽根が上級天使、8枚の羽根が特級天使、10毎の羽根が超級天使に成るんだって言ってたよ。ボクとラーハムは、一緒にお母様に勉強をする様になった。友達で学友にもなったんだ。戦闘の訓練もラーハムはする様になった。最初は全然パピーには勝てなくて、パピーの奴、貴方が弱いのは、不要な翼を採らないからだとか、ラーハムを責めたけど、ボクは取るのは反対したんだ。だって、格好良いもん! だから、日を改めて、パピーと勝負することになったよ。その戦いで、ラーハムは覚醒したんだ。新たな翼を生やしたんだよ、2枚手も! それからは、ラーハムは、パピーでは、止められないほど腕を上げていったよ。パピーとマピィの連携攻撃も華麗に躱してたからね。勉強と訓練の日々を過ごす内にあの人たちが、やって来た。アロンデルとか言う悪い天使。アロンデルは、ラーハムに出頭を求めた。この地の者には出だししないからと言って。ボクは反対シテしたけど、ラーハムは、出頭を決めた。悔しかったよ。アロンデルという人には、アーリという下級天使を連れてきていた。ラーハムの幼馴染らしかった。アーリという人は、ラーハムが卑怯な犯罪者だと言った。そんな、あの人がボクは許せなかった。だから、体当たりをしてやったんだ。そしたら、ボクを公務執行妨害で逮捕するとか言い始めた。上役のアロンデルという人は、ホルスを払えば、見逃すと仲裁を匂わせて来た。アロンデルとラーハムは、睨み合いになったんだ。アロンデルは6枚羽根。ラーハムは1,5枚羽根。勝負には成らない。1枚は用を為さず腰に巻き付いている。アロンデルは強かった。鷲の羽根、鷹の羽、隼の羽根を生やした上級天使。敵う訳が無い。ラーハムの攻撃は全て通じなかった。でも、彼らは失策を犯した。ボクを人質にしたからだ。あの温厚なラーハムが怒った! 奇跡が起こった。怒りの中でラーハムは、自分の正義を見付けた。ラーハムは6枚羽根になったんだ。上級天使の6枚プラス下級天使の2枚の戦いになるぱずだったのだけど、ラーハムには切り残された羽根があった。その1枚の光の剣とするこでとするこで、アロンデルを息に帰してしまったんだ。アーリは逃げていったよ。


 アーリ:「あれは、進化でも、飛躍でも無い、『逸脱』だ・・・」と言い残して。


(第15話へ続く)




 

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