第11話 フェアリ補足と女皇都ナイラート

 セクティは、ユリを助けたダウンエリアの洞窟を抜け、大沼へと逆戻りした、かつての大池まで帰って来ていた。セクティは、大池に併設して居る我が家へと帰還した。そして、ベッドに体を横たえると、再びカコラディアへと向かった。授業は、途切れること無く続いている。


 セクティ:「まず、フェアリについて補足させて下さい。フェアリは、リトルゴッドの"付属"として存在しています。単独で存在するフェアリも居ますが、それらはリトルゴッドが出向いて、力を授けて貰う幻獣と呼ばれる存在です。単体では何の力もありません。リトルゴッドは、実数と虚数の全てです。フェアリはそれらに就(つ)く記号の様な存在です。リトルゴッドには、フェアリが付き物。だから、リトルゴッドを見掛けたら必ずフェアリの姿を確認して。戦闘力が小さく見えても、補助の倍率が高いと実力以上の数値になりますからね。リトルゴッドとフェアリは切り離せない存在なのです。ナイラディアは、虚数世界ですから、数の伸長と収縮は、伸びる方角が違います」


 分からないことがあったのか、もじもじとしてきたユリは、近くに居たチックに聞いてみる。


 ユリ:「チックは、セクティさんの力を何倍に出来るの?」

 チック:「フェアリにも種類があって、わたしとタックは知覚系のフェアリだから・・・。リトルゴッドのソウルには5つの感覚があるとされてるんだけど、わたしは、6つ目の感覚、第6感なんです」

 タック:「そうだな、チックは、つまり、予感だ。レアな感覚だな。オイラは、第5感の全てだ。普通だ。ちょっと、羨ましい」

 チック:「そんなことないですよー。予感だなんて、そんなにいつも働く訳でもないし、タックさんには、いつもお世話になっています」


 チックは、タックに頭を下げた。


 タック:「てれるぜ。分かってくれるなら、やる気も出るってもんだ」


 タックは豪快にガハハと笑った。


 タック:「テータは、書記だな」


 タックがそう言うと、テータがタックに物申す。


 テータ:「なによ、私(わたくし)は、貴方達2人と違って、カコ様、いえ、セクティ様の正式なフェアリなのですからね。泥の底から拾われた貴方方(あなたがた)と同じにしないで欲しいわ。データ管理係と言って欲しいわね。私が1 番、活躍してるんだから! 皆さんの記録も私がしています。皆さんが攻撃を受けて、消去されても、私が居れば、修復が出来ます。私が居なくなっても、セクティ様が居らっしゃれば、セクティ様には、私の修復が可能ですが、2人がやられたら、修復不可となりそうですね」


 ユリ:「それも肝になりそうですね、ふむふむ」


 ユリの感心を得られて、テータも満足ひとしおのようだ。


 ユリ:「でもそれは、カコラディアでの話だよね? アーディアで滅んだ時は、どうなるの?」


 テータ:「私の力でこちらでの復活が出来ますよ。セクティ様の役目上、アーディアの閲覧者もしていますので。記憶神のサーバー様は、アーディアにもナイラディアにも、その神経節を伸ばしておられます。こちらから、あちらへの転移は、リトルゴッド様、自ら(みずか)らの技量次第となりますが・・・」


 ユリ:「また、自分次第か・・・。頑張ろう。セクティ先生、次の話題は、何ですか!?」


 セクティ:「そうね、勉強の前にイマを紹介したいのだけど、あの子は、まだ部屋から出て着てくれないのよね。確かに居る気はするのだけど・・・」

 ユリ:「どういう人なんです?」

 セクティ:「私の妹で、ミラの姉、母上の次女よ。母上は、女皇を名乗っているから、皇女の立場に成るのだけど、私も含めて、皇女といっても、ナイラディアは出来たばかりの世界ですからね。配下も少なく、とてもお姫様だなんて言えるレベルでは無いのよ。でもだからって、冒険好きのあの娘が1つの部屋に閉じ籠もりだなんて、異常事態が続いているのよ。とても心配しています」

 ユリ:「へー、冒険好きかあ。ボクとは気が合いそうだな。冒険の

好奇心を充たしてくれる感じが堪(たま)らないのよね。今回、酷い目に遭って、少し懲りては居るけれど」


 そう言って、ユリは、バツが悪そうに微笑した。


 ユリ:「セクティさんは、ミラさんを含めて、3人姉妹なんだね」


 セクティ:「正確には、もっと多くの姉妹・・・、戦友が居たわ。私達3人は、その生き残りなの。母上のナイは、情報漏洩を許さない。そして、恐れても居る。残った姉妹たちは、全て処分されたと聞いている。ナイなら始末するだろうし、私達に嘘を吐く意味が分からない」


 セクティが話し終わった時、地震がして、異変が起こったことを、セクティに伝えた(震度4程度)。


 地の底から響く声:「カコ〜、カコ〜。居るんだろ〜、来ておくれ〜」


 ここは、ナイラディアの最下層。オルが、アーディアの最も高い部分の天に居城を築いたので、ナイは、反骨心から最低部を居地と定めたのであった。併設された宮殿も無く、壮麗な城塞だけが、ポツンと山上に立つ女皇城ナイラート。ナイの居城である。それは美しい城なのだが、それだけと言うのが如何にも、この女神のナンセンスさを現していた。カコラディアの自宅でユリと会話をしていたセクティは、少女姿のアバターでユリに語りかける。


 セクティ:「まだまだ、勉強を続ける段階だけれど、母上からお呼びが掛かったわ。私は本体に戻ります。5感(ごかん)情報はオンにして置くから、共に母上に会いに行きましょう。貴方の声は私の脳内の言葉も同じだから、母上に聞こえることは無いけれど、貴方はユーモアのセンスはあるから、あんまり私を笑わせないでね。そこでは瞬時の気の緩みが疑いに派生し、それが死を招くこともあるから、よろしくね。現状考えられる、貴方の敵になる可能性がある最有力候補の1人よ。予習のつもりで見て置くと良いわ。特別授業よ」


 ユリ:「特別授業かあ。張り切っちゃうぞっ。じゃあ、ラスボスの御顔を拝見と行きますか!」

 セクティ:「ふふ、ラスボスね。そうね、ラスボスでしょうね。でも、ほらほら、もう約束から逸脱していますよ。口にチャックしといて下さい」


 セクティの指摘を受けて、しまったと言う表情のユリ。急いで両手で唇を挟み込んだ。あははと、これに受けて笑うチック、些事には興味は無いと、超然を装って構えるタック、やれやれ先が思いやられると、視線を下に向けるテータ。皆んな引き連れてセクティは、ナイの居城である女皇城ナイラートに向かうのだった。何重ものセキュリティを通り、女王の間に通される。


 セクティ:「御用(ごよう)でしょうか、母上?」

 ナイ:「おお、よう来た。こっちこ」

 セクティ:「母上、私は、今はセクティと名乗って居ます。他の者への示しもあります。以後、その様にお願い致します」

 ナイ:「御前は(なんぴと)にも好きに呼ばせるが良い。しかし、傍女(そばめ)は、ルーラー(律神)である。御前にカコと名付けたは傍女じゃぞ。御前はカコじゃ。これからも傍女が名付けたカコじゃ」


 ナイのカコの可愛がり様は異常だ。カコは、ナイの持て余した愛(あい)という感情の捌け口に成っていたのだ。だから、セクティ、いや、カコへの粗略な扱いは、ナイ自身への粗略な扱いと、ナイに理解させた。ナイの逆鱗とは、法則その物への反逆なのだ。このナイラディアでは、法則はアーディアのそれとは振る舞いが違う。捻くれて居るのだ。へんてこな世界。捻じれ具合は、ナイの感情に起因していた。要するに、ナイは、捻くれ者なのだ。


 セクティ:「御用は?」


 セクティは、改名の件を繰り返しても無駄なのを感じて、ナイに用向(ようむ)きを促(うなが)した。


 ナイ:「実は御前じゃから、つふさに語って聞かせるが、アーディアの『正論』シャロからエリの息子をこちらに落としたと報告が来た。こちらに来たなら、あとはこちらの管轄じゃ。エリの息子は見つけ次第、殺しておくれ。それが嫉妬に狂った『正論』への返礼と成ろう。これでまた、多くのホルスを得ることが出来そうじゃ。くふふふふ」 


 ナイは喜悦した。歪んだ喜悦。いつまでこんなことを続けるのだろう、自分は? そんな無力感に苛(さいな)まれながら、セクティは頷(うなづ)く。


 セクティ:「はい」


 セクティは、返答した。いつもと変わらぬ無抑揚な声で。


 ユリ:(え? シャロ様がボクの崩落に1枚、嚙(か)んでる?? ボクは妙な格好のおじさんの勧める方向に歩いて行って、崩落に巻き込まれたのだけど、あの文句チクチクおばさんが1枚、噛んでたのか。お母様には、他人(ひと)の悪口は言っては行けませんと言われているけれど、あのおばさんなら、やりかねないんだよな。大量のホルスが絡んでるみたいだし、なんだかボク1人の為に大事(おおごと)になっているのだなあ)


 ユリは、カコラディアでフェアリ3匹と居場所を同じくしながら、唇を今だに、指で挟みながら、一生懸命に考えて居た。それはセクティも知らぬこと。セクティは、ナイに他用を確認する。


 セクティ:「母上、御用の向きは、他に御座いますか?」

 ナイ:「いや、無い。はよ立ち帰り、エリの息子の探索を勧めるのじゃ」


 セクティ:「はい。では、その様に」


 慇懃(いんぎん)に謝辞(しゃじ)を述べ、ナイラートを後にする。城を出てしばらくすると、タックがもう敵わんと大きな息を吐き出した。


 タック:「ぶはぁ〜、もう敵わん。緊張したぜぇ〜」

 チック:「さすがに皇都ともなると、警戒も厳しいですね。セクティ様だから、顔パスな部分もあるのでしょうけど、普通のリトルゴッドは、あちこちで止められて、ちょっと訪問って感じには成らないですね」

 セクティ:「そりゃあ、そうよ。母上は、厳しいというか、小心だから仕事の出来ないリトルゴッドには、死を与えますからね。代わりは、いくらでも居る。それが女皇ナイの思考パターンよ。だけど、私達もそのロジックの中で生きている。何も変わることは無いのよ」

 チック:「力が無ければ、善意や良心なんて用無しですからね。それが、勉強出来る良い国だと、わたしは思っています」

 セクティ:「まぁ、チック。善意や良心の価値に気が付いたって、使わなけば意味なんて無いわよ?」

 チック:「セクティ様、おやめください。わたしはセクティ様や皆さんと、まだまだ共に居たいだけのフェアリです。善意や良心を使ってやるほどの他人(ひと)に会ったことがないのです。ただ、それだけです」

 セクティ:「ふふ、詰まり、チックの善意や良心は余程上等なのね?」

チック:「はい〜。わたしの善意や良心に匹敵する価値をお持ちの方は、セクティ様、タック、テータくらいのもんです。ユリ様は知り合って間無しなので、保留にさせて下さい」


 そう言って、チックは胸を張った。


 セクティ;「まぁ、チック。そんな高価な物を頂いて、宜しいのかしら? とてもお返し出来そうに無いですわ」


 セクティは、謙遜して見せる。


 チック:「セクティ様の居られない世界なんて未練はありません。ただ、生き延びてなんぼのものかですもの」


 ユリ:「ん〜、ん〜、ん〜、ん〜、ん〜!」


 ユリが、まだ自分で自分の唇を挟んでいるので、喋ることが出来ずに悶絶する。


 セクティ:「ユリ、もう挟んでる指を取っても良いわよ。私の笑い声を問題視する者も、もう居ないでしょう」

 ユリ:「ねぇ、ボクは保留なの!? チック!!」


 ユリがチックに問い詰める。


 タック:「なんだよ、お前。そんなに直ぐに仲良く慣れるかよ。自分に照らして考えてみなって」

 テータ:「そうですね。信頼度というには、まだ低いですね」


 タックとテータが、冷水を浴びせる。


 ユリ:「そんなあ、ボクは友達が出来たと思ってたのに・・・」


 ユリは、ポロポロと泣いた。


 チック:「でも、良い線は、行ってるんじゃないですか? 取り敢えず、友達予約で」


 ユリ「ほんと!? やったーーー!!」


 和気あいあいとしたムードが流れ、ユリが自分の回想を始める。


 ユリ:「ボクね、ボクの周りには、お母様、パピーとマピィ、そして、チクチクうるさいシャロおばさんしか居なかったんだ。あとは時々会う感じの人ばかり。だから、友達に成れそうな人が出来て、ボクも嬉しいよ」

 

 ユリは、全員に笑顔を向ける。向けられた者たちも笑顔で返した。


 ユリ:「あ、ボクには、1人だけ、1人だけ、友達と言える人が居るよ! それは、天使のラーハムさ!!」


 今までに無い満面の笑顔で、そう答えたユリは、憧れと尊敬、信頼の全ての友愛を拡散する様に話し始めた。


(第12話へ続く)

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