第10話 セクティのアドバイスとエリの洞窟
セクティ:「ユリ、聞いて。貴方が、リトルゴッドとして、アーディアの天に配され、ナイラディアの底まで流されて来たことには、きっと意味があるはずなのです。そして、私もナイラディアに於いて、多くの殺戮や陰謀に携わって来ました。私は、罪人(つみびと)です。弱みを握られている。生涯、事務処理、汚物始末で終わる人生。否(いな)は無く、応(おう)のみの単調な1本道。私は表舞台に立つことのない立場のリトルゴッドです。ある時、私に目覚めた『秘密』のリック(本質)が、私の生活の全てを変えた。その時から私の否を退けられる者は、制限されることになった。私は自由を得た。しかし、私の心は満ちることは無かった。そんな私の下へ、貴方と私を結びつける担い手として、"超恩"をたずさえて、輝く女神が現れた。姿すら見通せぬXゴッドの登場は、それ自体が一大事だということを物語っている。本来、使者で済ませる場面なのだ。これは偶然を超える運命のみが成せる業。しかし、変わらぬものもある。私は罪人。罪深き黒丸を携えてさえいる。しかし、貴方との出会いが全てを置き換える置き換える気するのです。普段の私なら、決して乗ることの無い、1か8かの大勝負(イマ、これで良いのよね? 貴方は言っていた。人は、流れに乗れば良い、と)。私は、教えましょう。貴方が知るべき多くの『秘訣(コツ)』を。学ぶことは多く難解ですが、どうか着いて来て下さい。貴方が学ぶ気にさえなってくれれば、貴方には、そのスペックはありますからね」
ユリ「うん、ボクは勉強するよ。ボクは、もう泣いて、自分から逃げたりしない。それが、ボクとセクティ様の縁を繋げた輝きの女神様の本望だと思うから。ボクは勉強したい。勉強したい。強く成らなくちゃ行けないんだ」
セクティ:「頼もしいこと。でも、無理は禁物よ。魂体(からだ)を壊しては、元も子も無いですからね」
ユリ:「1人でやるのは大変だなあ。オーバーペースだったら、注意して貰えませんか?」
セクティ:「ほらほら、もう甘えの顔を出しているわよ。そうね、私が居る時は言ってあげますよ。でも、貴方のお母様の様に、私もいつも貴方のは傍(そば)に居る訳ではないの。自分でする癖(くせ)を付けなければ駄目よ。自立の道への1歩は、もう始まっているのよ」
ユリ:「お母様が良く言って居た日々戦場也ですね」
ユリがそう言って笑うと、セクティもユリに着いて笑った。そして、言った。
セクティ:「こういうのは、繰り返すものだから、慣れよ、慣れ。慣れれば、苦とも思わなくなるわ」
ユリ:「ふ〜ん、辛いうちは、まだ慣れてないってこたか〜」
セクティ:「ふふ、難しく考えないで、慣れてしまえば、良いから」
ユリ:「はい!」
2人は、顔を見合わせて笑ったが、フェアリ達には、分からなかったらしく、3匹のフェアリはキョトンとしていた。セクティは、ベッドの脇に転がっている、ユリの作った岩のドームの残骸(ざんがい)を見つけた。
セクティ:「これは、貴方が作った岩のドームの残骸ですね?」
見ると、細かく何やら刻んである。
セクティ「ちょっと、見せて貰って良いかしら?」
ユリ:「いいよ、でも、もう壊れちゃってるよ、それ」
ユリは、ドームを壊れたオモチャと見なし、興味を失っている様だった。壊れたドームには、セクティの知らない文字で、何やらみっちりと書かれている。
セクティ:「テータ、解析、お願い」
テータ:「はい。少し、お待ち下さい」
結果は、即座に出た。
テータ:「古天使エラムにより、伝えられた古いエラム語で書かれており、男女平等、世界平和、共存共栄、相互扶助と記されています。標語か何かでしょうか??」
セクティ:「ありがとう、テータ」
テータ:「いいえ、お役に立てましたなら、なお嬉しいのですが・・・」
テータは、核心的な事実を提供出来なかったことに未練を残している様だった。
セクティ:「大丈夫よ、大助かりよ。用が出来たら、また声を掛けます。それまで、あの2人から目を離さない様にね? あの2人が、また妙な物に凝り始めても困るから」
そう言って、セクティは、テータにウィンクで監視の意図を伝える。テータが、指示された2人の方を見ると、暇を持て余した2人が、先だっての障壁の生成の訓練に余念が無い様だった。
タック:「そんなこっちゃ、カコ様の守備隊長は任せられんぞ! カコ様の大守備隊長のオイラの目に適うことはねぇ!」
タックは、謎の上から目線で、チックを鼓舞する。
チック:「タック大守備隊長様、このチック、セクティ様の為に一生懸命、務めさせて頂きます!!」
そう言って、自分で考えた初動ポーズを取り、防壁を放った!
チック:「くんなー!」
両手を突き出した。しかし、何も起きはしなかった。起きたとすれば、しーーーーーんっという、効果音くらいだろうか。
タック:「不発! 次っ!」
チック:「はいっ!」
テータは、セクティの隣でフェアリの2人を眺めると、またやっているのか、あの2人は、と少しうんざりとした気分になったが、セクティに視線をズラすと、セクティが愛情を持って、2人を眺める姿を見た。この、眼差(まなざ)しの中に私も加わりたい。そう思うと、俄然やる気が出るのだった。
テータ:「お任せ下さい! チック、まだ腰の入(はい)りが、拙(まず)いわよ! タック、貴方が最後の砦(とりで)でしょう!? 貴方が防壁を作れなくて、どうするの? 見てて上げるから、貴方も訓練するのよ! この特別監督官テータ様がね!!」
怯える2人に、そう大声を出しながら、テータは2人に駆け出して行った。セクティは、会話に間(ま)が空いたので、すやすやと寝息を立てるユリを放置して、自分の推察を組み立てることにした。
セクティ:(この概念のハメ込みは、ナイラディアとは、違うものだ。選んだのは、エリであろうか? 如何にも左が好きそうな言葉だ。男女平等、世界平和、共存共栄、相互扶助・・・。何一つ、実現していない空虚な幻想ばかりじゃない。これは『禁忌』に指定されるべき、忌むべき言葉だと、自分は思う。空虚を書き連ねることで情熱を浪費し、心の圧力を減らしたり、何事も成していないのに、何事かをやり遂げたような幻想に、自ら入り込むことになったりしないかと危惧(きぐ)するのだ。こんなセ界が今まで実現したことも無い高過ぎる理想をぶち上げて居ることに不快感を感じる。これは虚偽であり、欺瞞(ぎまん)があり、偽善である。ユリは、まだ子供だ。その判断は、まだ未熟だ。信頼するエリから言われれば、信じてしまうだろう。世の中は、綺麗で美しいのよと言われても。でも、そんなものは嘘だ。どこかで裏切られたと感じ暴走してしまう。心の軸が狂わない傷付き方。そんなものもあるはずだ。ユリほどの素質、むざむざと失う訳には行かない。2人が出会ったことには必ず意味があるはずだから。しかし、ユリは、エリを盲信しているだろう。外見上は、エリは、有徳者を演じて居るのが、想像が出来る。ユリが傷付けられ、地面に叩き付けられるケースを想像が出来てないのだろうか? これは想像が出来て居ても、出来て居なくても、恐ろしい考え違いだ。空は高く何処までも自由だと教えても、そんな空想は、通常なら直ぐに破れるだろう。しかし、ユリは何処までも何処までも、空想の階(きざはし)を昇って行く。なまじスペックが高いのだ。出来てしまうだろう。しかし、そんな幸運も偽りの階もいつまでも続きはしない。必ず転落する。自分が稼いだ高さというトラップを身に着けて。これは巧妙に仕掛けられたトラップかと思うような、酷い罠である。断定は出来ないが、今の私には、エリが首謀者のように見えて仕方が無い。ユリを、この軛(くびき)から解放しなければならない。ユリを傷付けないように・・・)
セクティは、そう考え、密かに、それを目指した。
セクティ:「ユリ、起きて。勉強を始めますよ。」
ユリは、セクティに起床を促されて、モゾモゾと起き出した。
ユリ:「はい」
まだ、起きしななので、半分は寝ている感じだ。
セクティ:「貴方のお母様について、少し聞かせて貰えるかしら?」
セクティは、敵の本丸と見做すエリの情報を集めることにした。それは対象者であるユリから聞くのが最も確実だ。セクティは、ユリに聞いた。
ユリ:「ボクは、お母様が大好きです。でも、普段は優しいけど、教育制度となると、厳しくなって、良く怒ってたよ。お母様は美しくて、昔は英雄でもあったようだけど、ある戦いを最後に剣を置いてしまわれた。暴漢対策用にパペットとマペットを作ってからは、自分は戦ったことは無いんだって。お母様は、料理、掃除、洗濯、なんでも熟す働き者だよ。お風呂も度々入ってます。発明家の側面もあって、人型傀儡を研究してて、その産物がパペットとマペットなんだよ。今は自由を制限されているけど、自由になったら、学園を起こして、優秀な人材を育てたいと考えて居るようだよ。あんなに怒ってるのに、美しいドラゴンでね、クリスタルの鱗が炎に映えて綺麗なんですよ。でも、おっかないドラゴンは、嫌いだな、おっかないから。良くもあれだけ火が吐けるものだ。感心しちゃうよ。ボクには怒っちゃ駄目だって言うのに、ボクの為だと言って、いつもドラゴンに成るんだよね。ずっこいよね。火は、当たると熱いから、勉強する時も、気が抜けないんだ。でも、お母様ひは体罰は無かったなあ。愚痴はこぼされるげどね。お父様のことは、お母様に聞いても、ほとんど教えて貰えない。禁句なんだ。昔は大恋愛の末に結婚したのだと、聞いたのたけどね。お父様は、死んだとか、生きてるとか、いろんな情報が飛び交ってるよ。ボクも知らない。あったことも無いんだ。でも、会いたいな」
ユリは、アバターのフェアリで、悲しげに笑った。
セクティ:「怖くは無いの?」
ユリ:「怖いですよ。でも、怒らせてるのは、ボクだから。脱走や悪戯は、いつもだから。怒るのは当然。火は当たると熱いから、気を付けないと駄目だけどね。マピィは言ってたよ。奥様の炎くらいは体罰になりはしません。当たる方が御まぬけですよって」
セクティ:(変わった家庭環境だけれど、私が想定した洗脳教育的な感じは無いわね。敵の本丸は、まだ姿を見せていないのかも知れません)
拭えぬ疑問を抱え、セクティは調査を続ける。ユリの心象を傷付けないように、どう調査を進めようかと、セクティが思案していると、ユリがお茶らけた感じで、手を挙げて聞いてきた。
ユリ:「はい、はい! セクティ先生! 犠牲は、平和には相応しく無いって、なんですか?」
セクティ:「何? どうしましたか、ユリ君」
急にお茶らけて、自分を先生と呼んだユリに、ユーモアを感じたセクティは、ユリを深く知る手掛かりに成るかも知れないとユーモアに付き合うことにした。
ユリ:「あのね、先生。お母様が以前、そんなことをポツリと言ったことがあるのです。パピーとマピィに聞いても、はぐらかされちゃうし、ボクには分からなかったんですよね。その時のお母様の悲しげな顔が忘れられなくて」
セクティ:「似つかわしく無いのは、似つかわしく無いでしょう。円満解決に越したことは無いですからね。でも、皺や不足の亀裂は、誰が背負わなくてはならない。帳尻合わせが行われます。帳尻合わせの為に犠牲は支払われるのです。世界は、犠牲や代償を求めます。それが世界です。円満解決など、レアケースですね」
セクティ:(ユリは、洗脳されてる感じはしないわね。考え過ぎなのかなあ?)
ユリ:「はいはい、次の質問。義務と権利って何ですか? 義務は怠る癖に、権利ばかりを主張する奴が居て困るって言ってたよ」
セクティ:「それな」
ユリ:「権利で得た義務は、果たされるべきだとも言ってたよ」
セクティ:「禿同」
ユリ:「お母様は言っていたよ。皆んな、平等よって」
セクティ:「嘘松乙。理想論では、そうでしょうけどね。でも、現実は追い付いていない。現実は不平等で、不公平よ。理不尽と言って良い程にね。それは、理想を超えて、幻想です。幻想の平等。世界に平和なんて落ちては居ない。世界は、差別と紛争ばかりだ。悪いことをしていないから、死なないなんてルールは無い。善悪と生死を並べては、駄目なのです」
ユリ:「善人て何ですか?」
セクティ:「私にも分かりません。沢山殺してるので、悪人の私には分かりません。ユリ君が分かったら教えてください」
ユリ:「掃除はしないと駄目ですか?」
セクティ:「はい。お風呂も入って下さいね。歯磨きもして下さい」
ユリ:「自由って、何ですか?」
セクティ:「自分の意志が制限されないことと思うけど、個々人が想定する"当たり前"に依りますからね。一定普遍の自由なんて無いのじゃ無いかしら。決めても無意味だし。皆んな、何かを我慢してると思えば、自由なんて、幻想かもね」
セクティ:「全ては曖昧で、絶対でも、無限でも、無いのでしょう。この2つの是非は、曖昧だ。・子供に押し付け教育は行けない。・教育は子供の内に叩き込まれるべきだ。この2つの教育論の境界は、曖昧なのしょう」
(第11話へ続く)
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