第9話 ユリとソウルスペックとフェアリ達

 セクティのコードの探索が終了する。セクティがゆっくりと目を開けと、ユリが心配げにセクティを見上げていた。


 ユリ:「どうでしたか?」


 心配そうにユリはセクティに尋ねる。


 セクティ:「いくつか手がかりを得たわ。分からないことも、まだ多くあるけど、貴方はとてつもないスペックの持ち主よ。分かたれた世界を再び1つに纏(まと)め上げる、そんな素晴らしい力を貴方は持っているのよ」


 セクティは満面の笑顔で祝福した。ユリは初めて見たセクティの笑顔に満たされて、自然と笑顔になった。


 セクティは、満面の笑顔で祝福した。ユリは初めて見た、セクティの満面の笑顔を。可愛かった。セクティの満面の笑顔に満たされて、自然と笑顔になった。だが、セクティはユリの顔を見て、自分の喜びとは落差があるのを感じた。セクティは、ピンと来た。コード読みの出来ないユリにはソウルスペックの意味など分かる訳も無いではないか。セクティは、ソウルスペックの説明を試みる。 


 セクティ:「ユリ、ソウルスペックって、聞いたことある?」


 ユリ:「そうるすぺっく??」


案の定、ユリは無いと答えるよりも、明確に知らない意思を伝えるように、キョトンとしてみせた。それを受けて、セクティが言葉を続ける。


 セクティ:「そう、魂に付与されている力の限界値を数値化したものよ。これが高いと強いリトルゴッドに成れるのよ。コードには、数字達が並んでる。この数値は貴方が貴方である限り、変わることが無い。生れが全てなの。良い人、便利な人になる道はあるけれど、強い人になる為には、運命の指名を受けねばならないのです。それほどの奇跡を超えた必然が、貴方には与えられて居るのです」

 ユリ:「ピンと来ないです。喜んで良いのか、悲しんで良いのか・・・」

 セクティ:「さすがに貴方は優秀ね。物事に両面(りょうめん)があるのを弁(わきま)えている。才能の無いものには、これを教えるだけで、ひと苦労なのだけど、貴方はまだ幼体だというのに、それをクリアしている」

 ユリ:「・・・それで、ボクの数値はいくつだったんです?」

 セクティ:「貴方のソウルスペックは、125よ。これはとてつもない数字よ。英雄アルスを知っているかしら? 彼のソウルスペックが106なのよ。貴方は伝説級のソウルスペックを保持していることになる。ソウルスペックとは器の容量。生まれ持っての物なのよ。これは努力では補えない絶対的格差と言えるわ。でも、これ自身、高い数値であった訳なのだけど、喜んでばかりも居られないの。1つには貴方にはそんなつもりは無くても、有り余力が、誰かを傷付けてしまうこともあるかも知れない。また、自分は強いのだからと、怠けていると、能力は伸び時を失い、能力は未完のままで終わるも知れない。そうね、貴方は恐らく限界値まで能力を開放し切れないでしょう。これは貴方の努力を低く見ている訳ではありません。それほどなのです。貴方の与えられた、スペックは。完全開放は、難しいでしょう。でも、せめて、英雄は、超えて見せてね。だから、他の人が休んで居る時も、貴方には休み時間は無かったりしますよ。他人(ひと)は休んで居る時に、自分だけは努力し続けなければならない。そうしている間にも、心の歪みにもを付けねばななりません。これは難事よ。幸と不幸は1つ繋ぎに出来ているのです。良いことがあれば、悪いこともある。"怠るなかれ"よ」

 ユリ:「休み無しか・・・。遊ぶのは好きなんだけどな。仕事は嫌いだな」

 セクティ:「ふふ。私は趣味を否定したりしませんよ。私にも屑漁りの趣味はあるし。ただ、楽しみにし溺れてしまうから、異常をきたす。仕事にも影響が出る。"溺れるなかれ"よ」


 セクティは、フェアリ達をユリに紹介しておこうと思った。


 セクティ:「そうだ、私のフェアリ達を紹介しますね。チック、タック、テータ〜」


 セクティに呼ばれたフェアリ達がゾロゾロとやって来て、セクティとユリの前に整列する。


 セクティ:「まず、左から、チック、タック、テータ、です。」


 名前を呼ばれたフェアリ達は、それぞれのタイミングで返事をした。


 チック:「は〜い!」

 タック:「うす!」

 テータ:「はいっ!」


セクティは、フェアリ達の前に立ち、1人づつ、指名するように前を歩いた。


 セクティ:「ユリ、こちらがチック、予感が鋭いフェアリです」

 チック:「チックです。よろしくお願い致します。特技は予感で危険を回避します、えへへ」


 チックが頭を下げた。


 セクティ:「ユリ、こちらがタックです。タックの五感は優秀よ」

 タック:「うっす、 タックだ。オイラの目の黒い内はカコ様を危険な目には遭わせない」

 セクティ:「うふふ、ありがとう、タック。いつも期待していますよ」


 タックは顔を真っ赤にして、照れている。


 セクティ:「ユリ、こちらがテータです。データ管理を任せています

アバターの修復もテータなら、お任せよ」

テータ:「セクティ様、お褒め頂き有り難う御座います。以後、一層精進致します。テータです。ユリ様宜しくお願い致しますね」

 セクティ:「こちらがユリです。皆んな、よろしくね」

 

 ベッドの上から、まじまじと3匹のフェアリを見比べたユリは、素朴な感想を述べた。


 ユリ:「これがフェアリかぁ、ボクと同んなじだあ」


 ユリは、同じ非動物系アバターのフェアリたちを見ると、その容姿に釘付けとなった。


 タック:「お前は、ここから出たら、人型になるんだろうが。オイラ達は、これが基本だから、お前がオイラたちに似てるんだよ。勘違いすんな!」


 タックがユリの感想にケチをつけた。


 チック:「まあまあ、タック。今、必要なのは、小理屈でなく、親睦でしょ。わたし達が揉めては、セクティ様も安心できないわ」


 テータ:「タックは、一本気と言うか、単純なところがあるから、五感の任務が務まるんでしょうね」

 タック「なんだと! テータ、お前の味覚は遮断してやろうか! カコ様が美味しいパフェをお食べになっても、お前には味合わせん!」

 テータ:「くぬ〜、私がセクティ様とパフェを味わうのが楽しみなのを知っている癖に〜。では、貴方の身分照会が来ても、知りませ〜ん、ウチの人ではありませ〜んって、言いますからね。ぷいっ」

 チック:「2人とも仲直りしてくださいよ〜。セクティ様〜」


 仲持ち役となったチックが持て余し、セクティに投げる。


 セクティ:「タック、テータ。ユリの挨拶は、聞いたのかしら? 挨拶をして欲しくて、呼んだのだけれど? 私のお願いを聞いて、ユリに挨拶を完全に終えてくれれば、あちらでどうぞ好きなだけ、続きを楽しんで下さいな」


 セクティのやんわりとした仲裁で2人はやる気を削がれ、タックが謝り、テータもこれに同調し謝った。


 セクティ:「ユリ、貴方から、皆んなに挨拶をしてあげて」


 ユリは、セクティをぼうと見ていたが、挨拶の仕方が分からなかった。ユリの周りには、母であるエリ、御付き人形のパペットとマペット、あとエリの親友で小言をチクチクとぶつけてくる『正論』のシャロという女神だけだったので、自己紹介などしたことがなかったのだ。前にセクティさんに言った時には、作法に適って居なかったかな?とか思い恥ずかしくなった。取り敢えず、3匹のフェアリがした挨拶を真似してみる。


 ユリ:「ボクは、ユリです。ボクが居たのは、アーディアで、ここでは無いのです。ボクの足場が崩れて、気が付いたら、ここに居ました。何故こんなことになっているのか、ボクが知りたいです。ボクはお母様の試験を受けていました。そしたら、ボクは窓の外を飛ぶ蝶に酷く惹かれました。蝶を追い掛けていたら、いつの間にか、森の奥深くに迷い込んでしまい、ボクは途方に暮れました。三叉路の別れ道に来た時に、変わった身なりのおじさんに道を尋ねたら、親切に道を教えてくれました。その道を辿った行くと、足場が崩れて落ちてしまったんのです。その後は、二匹の化け物の争いに巻き込まれるし、怖いおじさんにホルスカードを脅し取られるし、ボクを助けてくれるという親切なおじさんに付いて行ったら、ボクは騙されて身ぐるみを取られたうえ、体も一部を取られたよ。散々な目に会いました。これはボクがお母様の宿題を放おり出して、蝶を追い掛けた罰なんだ。たから、ボクは、周りを拒絶する無くなったんだ・・・お母様、ごめんなさい、許して、許して」


 ユリは、それからは、言葉も無く、ただ泣くのみだった。フェアリ達もユリの体験した苦痛を理解し、掛ける言葉も無く、涙に咽(むせ)ていた。セクティは、幼女のアバター姿でフェアリの姿のユリを抱きしめる。


 セクティ「良く頑張ったわね。貴方は、ここに居る。それが素晴らしいことなのよ」


  ユリは、涙に濡れる顔を上げ、

     セクティを見た。


     救いの女神を見た。

      輝いていた。


   セクティの抱擁に身を委ね、

     ユリは更に号泣した。

     フェアリ達も泣いた。


 ひときしきり泣いて、打ち解けた彼らは、和気あいあいと会話を交わす仲と成っていた。


 ユリ:「ダックは、なんでセクティさんを、カコ様って呼んでるの?」

 タック:「カコ様なんだから、カコ様なんだい!」

 ユリ:「???」

 チック:「カコ様は、もう居ません。ナイラディアの女皇ナイ様は、3人の優秀な配下にカコ、イマ、ミラの名をお与えになり、養女とされたのです。その折に、カコ、イマ、ミラの順で歳の序列をお定めになったのです。その後、次女イマ様は、あろうことか女皇ナイ様に反逆を企(くわだ)てになり、これが露見し、半殺しの目に遭います。この時、末女ミラ様にも嫌疑が掛けられ、半殺しに。そして、2人の処刑とくろまるの指定を命じられたのが、長女のカコ様だったのです。カコ様は、悩まれました。妹達を救うことは、母を裏切ることになってしまうと。その両方を失わぬ為に、両方を捨てる選択を選ばれたのです。それは、お2人の魂を自分の魂に吸収し、お2人の肉体は、滅ぼし尽くすことだったのです。これは、かなり無茶なことでもありました。しかし、カコ様はやり遂げたのです。不可能を可能とするために。それから、カコ様は、自分をも殺してしまわれた。だから、カコ様は、その日より、セクティ様なのです」

 テータ:「ちょっと、貴方達、勤務中よ! 私語は禁止! 散りなさい!」

 タック「へいへい・・・」


 テータはユリに小声で語りかける。



 テータ:「ユリ様、このことは肉体を得られても、秘密にして頂けませんか? イマ様、ミラ様は、既に死んでいる扱いです。お2人の生存は、即セクティ様のナイ様に対する裏切りとなり、お2人のみならず、セクティ様も、黒丸指定となるは必定。お3人の敵は、全ナイラディアと成るのです。『秘密』を抱えるセクティ様とナイ様の破局は、ナイラディア崩壊をも意味します。くれぐれもくれぐれも、御内密に」


 ユリ:「うん、ボク、言わないよ。セクティさんにはお世話になってるもん。ちっこい方は、カコちゃんなんだね。ボク、やっと分かったよ。タックにとっては、カコちゃんは、生きてるってことだね。なるほど、なるほど」


 そう言って、ユリはニコニコとした。


(第10話へ続く)

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