第7話 捻くれ者のミラ

 人間不信に陥っているので、ユリは自分から動こうとはしない。相手待ち。相手次第。そんな相手任せの持久戦。そこに先ほど、チックがちょっかいを出したので、待ってましたとばかり、ユリも動き出す。こんどは自分の周りに岩のドームを作り出し、自閉症してしまった。


 チック:「また、妙な物を作りましたよ。岩のお家かな? 触るとビリッとするかな?」


 一度、酷い目に会っているチックは、そのことが気になるらしい。


 ミラ:「いや、触っても、ただの岩だろう。岩を電通体にするのは難しいんだよ。こちらには無関心を装いたいようだ。関わると裏切られると思いつつ、構ってもらいたいとか、一種の自縄自縛だよ」


 ミラが言う様に、セクティとミラ、フェアリたちの動きが気になって性がないユリは、背後を見ようとしたところを、ミラに見られてしまう。こういうのを見逃さず茶化すのが、ミラなのだった。ミラは動く。特級神エースゴッドの動きである。幼体の魂に捉えられる訳もない。捕まえられる。

 

 ユリ:「やめろ〜、はなせ〜」


 セクティに作って貰ったアバターの手足をバタバタとさせ、ユリは抵抗するが、全ては無駄だった。セクティに作って貰ったアバターの手足をバタバタとさせるだけだった。ユリは具現化させていた殻から出ていたところを、瞬速の動きを見せたミラに、体を殻から、掴み出されたのだった。そのため、電撃は放つことは出来なかったのだ。そもそも、前回の電撃は、フェアリのチック相手だったので、役にはたったが、ミラレベルとなると、そもそも、役に立ちはしない。


 ミラ:「カコ姉〜、いつまでチマチマ、こんなことするつもりなのよ。さっさと、話を進めようぜ」


 せっかち気味のミラは、早く依頼を完了させたいようだった。セクティは、ユリを捕またミラに慌てて駆け寄る。そして、語りかける様に言った。


 セクティ:「駄目よ、ミラ。この子にアーディアで生きて行く覚悟が無ければ、送り出しても、それは無駄になる。これは私達では、決められないことなのよ。全ては、この子の決意次第。アーディアに帰れば、私達とは離れ離れになる。いつまでも手助けは出来ないの。この子自体が生きる力を手に入れなければ。ミラ、その子を放して。その子は必ず『覚醒』してくれる。私達に今、出来るのは、"焦らない"ことだけよ」


 イニシアチブを取るのが流儀のミラには、苦手な戦術を指示されたミラの苛立ちは、相当なものだった。本来ならば、言い返し、自分流を貫くのがミラ流であった。しかし、今は居候の身。立場は弱いのだ。それくらいの分別はある。やむ無し、折れるか。しかし、この苛立ちを、ミラには解消する必要があった。この苛立ちをミラは、立場の弱いユリに向けた。独特の茶化し精神を付け、幼体のユリにぶつけることにしたのだ。ミラはユリの幼体アバターを、胸にギュッと押し付けた。ユリの苦しむ声が聞こえる。一応、やめろやめろと抵抗しては居るものが、喜んで居るのは、説明されなくても分かった。ユリが嫌がりながら、喜んでいることを察する。ユリは、ミラの胸に懐かしい母の感触を思い出し、まんざら悪くない心境に浸(ひた)って居たのだった。ミラは性悪(しょうわる)だ。更に強く押し付ける。そして、意地悪な正論を言う。


 ミラ:「こ〜ら〜。覗き見とは、感心しないぞ〜」

 ユリ:「やめろ〜、はなせ〜。ボクは誰も信じないんだ、信じられないんだ! はなせ〜、はなせ〜」


 そう言ったユリの声が嗚咽に代わる。泣いているのだ。余程、理不尽な目に会ったのだ。ふっと嗅いだ気がした母の匂い。ユリの中で張り詰めた何かが、母を思い出すことで切れた。涙は止まらない。


 ユリ:「お母様、お母様・・・、どこ? 会いたいよ・・・」

 

 ユリの嗚咽は、止まらない。


 ミラ:「なんだよ、それ。他人が気になる癖に、信じないもないだろう〜。関わり合いに、信じる信じないは、付き物だっての。そして、今度は、お母様に会いたいかよ・・・、そして、今度はお母様に会いたいかよ、勘弁してくれ」


 ミラは生まれながらに天上に居るユリと、底辺で生まれた自分との落差を感じた。ミラは、無償で得られる母の愛など知らなかった。母からの愛は、勝ち残ることで得られた。勝ち残りたかったのは、母の愛が欲しかったから。それを苦労も知らず、無償の愛を受け取ってきたユリに、ミラは嫉妬すらした。自分たちは勝利を得なければ、ゴミ当然だった。愛するに足りないものだったから。天井からのセクティの視線を感じたミラは、今は攻め時だよと、視線を返す。ミラは、悲嘆に沈むユリに語り掛ける。


 ミラ:「お前は、信じることを恐れて居る。でも、信じ合うことも求めて居るんだよ。これは『矛盾』だ。『矛盾』を解消するためには、動くしか無い。動け! 動かなきゃ、お前の『理想』は、向こうからは来てくれないぞ!? 良いのか? それとも待っていれば、来てくれるのか? 他人に関わって欲しいと思うなら、自分から動かなきゃ! 待つことで都合の良い未来が来るなんて考えるな。引き寄せろ、お前の決断で! そりゃ、他人と関わることは、リスクだ。傷付くこともあるからな。でも、良いじゃないか。お前が強くなれば良い。『リスク』を受け入れるんだよ。だから、お前が決めるんだ。責任を持って、な。『自由』だ。『責任』を持つのだから。『自由』に決めろ。他人と関わって、信頼が出来るかどうかは、その都度、お前が決めるんだ。怖がるな。前に進め。足場がぬかるんで、ずっ転けても、立ち上がれ、そして、前に進むんだ。お前なら出来る。お前は1人で暗い洞窟を進んだじゃないか。」


 ミラは、ユリの勇気を称えて、笑顔を送った。ユリもそれに応えて、円(つぶら)な瞳に感激の輝きを灯した。


 ミラ:「お前は、ここに来るまでに出会った『運命』よりも手酷い裏切りに会うさ。それでもお前は、お前の思う未来に進みたいだろう? なら、進まなきゃ。立ち止まってる暇は無いぞ。お母様のところには辿り着けないぞ」


 ミラは、ユリのアバターを抱き上げ、顔を見た。もう泣き叫ぶ少年の姿は無かった。


 ミラ:「強く生きるには、勉強シなくちゃな。ミラだ、よろしくな」


 そう言って、アバターの顔で破顔した。


 ユリ:「ミラさん・・・か」


 聞かせて欲しかった名前が聞けて、納得したユリは笑顔になった。少し勇気を貰った気がした。出来る気がした。この人は、信じられる、信じたい・・・と思った次の瞬間だった。ミラはユリをセクティに向かって投げ出した。


 ユリ:「うあああっ!」


 ユリの驚きの声が響く。ミラは、子供用のベッドを作り出し、そこにユリを投げ出した。ドサリと着地するユリ。


 ミラ:「カコ姉、こいつ、あと頼む。もうビービー、泣かないだろう。あたしは、ちょっと、お部屋で休んできま〜す。部屋の間取りが代わって、整理もして来たいし」


 セクティ:「乱暴は止めて! ちょっと、ミラ! ユリ、大丈夫かしら? ごめんなさいね。ミラは、移り気なところがあるから・・・。ミラ! ユリに、あんな真似は、もうさせませんからね! ちょ聞いているの!?」


 セクティの小言はいつものことと聴く気の無いミラは、ブラブラと自室に帰りながら、ベッドの上で放心しているユリを見やり、言葉を掛けた。


 ミラ:「信じる喜びってイル様は言うけれど、あたしにとっては、結果を待つのでなく、知ってた!て言うほうがピン!と来る。こんな底辺のダウンエリアでビービー泣いてるお子様は、地上のみならず、天上になんか帰れる訳が無い。あたしはそう思うし、そう信じる。あたしは、やっぱり、ナイの娘だからかな? 捻くれ者でね。あんたみたいに真っ正直に育った人間を見ると、反りが合わないのさ。だから、無事天界に戻り、あたしに裏切られる喜びを与えてくれ」


 恋心すら目覚め始めた少年の淡い心は、無惨にポイ捨てされ、放心しているところに、謎掛けとも、中傷とも、励ましとも分からぬ言葉を投げ掛けられ、ユリは混乱の極地に居た。理解するには、今1つ時が必要であった。


 ミラ:「カコ姉! 今、私とカコ姉は、同一者だから、ここの備品は勝手に使わしてもらうよ〜」


 それだけ言うと、後ろ手にバイバイを決めて、ミラはセクティの言葉に耳を貸すことなく、ミラはミララディアに帰って行った。


 セクティ自身も感動してしまい、小言は引っ込めたのだっだが、そこからの豹変もミラらしいもので、セクティは、やはり小言を繰り出すこととなった。しかし、スルーされてしまい、セクティは、自室へと帰ってしまったミラに対抗策を巡らせるのだった。


(第8話へ続く)

 

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