第6話 努力の価値 拒絶の壁 眩しさは闇に似て

 タックとハイタッチをし合って、テンションの高いチックが、ユリに気付き、不用意に近付く。セクティもこの動きに気付いて、止めようとするが、一瞬、遅れる。


 チック:「ちょっと、あなた、いつまで塞ぎ込んでいるの!?」


 チックが不用意に近付き、ユリに言葉を掛ける。


 セクティ:「いけない! チック!!」


 セクティが静止するも、間に合わず、ユリの周りに張られている殻に触れてしまう。ビリビリビリ!!


 チック:「ひぇー!」


 チックは失神してしまった。


 タック:「大丈夫か! おい!!」

 テータ:「しっかりして、チック」


 フェアリ達は、親友を気遣う。友達の介抱で意識を取り戻すチック。


 チック:「ぐぅうううう、やられた〜〜〜〜」


 チックはグロッキー状態だが、命がどうこうということは、無さそうだ。

 タック:「大丈夫かよ、チック。不用意に近付くからだぞ。カコ様は、止めたろ。でも、カコ様、これは一体??」


 タックの言葉に促されるように、まだ泣いているユリにセクティは近付くと、殻を観察する。


 セクティ:「これは拒絶の壁よ。でもまだ、これは壁ではなくて、殻と言ったレベルの薄いものだけれど、これは確かに拒絶の壁。本来的にリトルゴッドには拒絶の壁を作ることが出来ます。相手を拒絶することで、自己を防御するのね。人は弱い。弱い者が身を守る為には、壁を作るしか無いでしょう。しかし、体も無い状態で、雷属性とは驚いたわ。雷は炎の上位属性です。まだ、生まれる前と言って良い状態なのに、雷とは・・・。これは相当な素質の持ち主ね」


 テータは、少年を見つめるセクティの目が、いつになく活き活きとしているのを見て、セクティをじっと見つめた。余り、目力が強いので、自分を見つめるテータに気がついたセクティが、聞いた。


 セクティ:「!? なに?」

 テータ:「申し訳ありません。最近、お見掛けしない喜びの表情をされておりましたので、つい。レアアイテムを見つけた様に、本当にワクワクが抑えきれないと言った風に、この子のことを見てらっしゃったので、私もセクティ様に注目してしまいました。申し訳ありません」


 テータは自分の無作法に気が付き、照れて、視線を下にズラした。


 セクティ:「あ、良いよのよ。私こそ、ごめんなさい。この子のことを、そんな目で・・・」


 セクティは赤面した。


 ユリ:「もう放っといてよ! また、ビリッとさせるよ!」


 ミラ:「これは苦労しそうだなあ」

 前途多難を思いやって、ミラが苦労を匂わせる。


セクティ:「苦労が齎(もたら)す苦痛だなんて、意味なんて無くなるわ。結果を得ることが出来るなら! 敗北し、データに帰った者たちには、苦労することも出来ないわ。それにね、いくら素質があろうと、覚醒しなければ、素質は無駄に終わる。努力というものは、覚醒するために行うものなのよ。覚醒に至らない努力は無能と言えるのよ。だから、努力の天才だなんて、『無能』の太鼓判を押された様なものだわ。お前は『努力』だけしてろと、最大級の皮肉を添えて言われているのよ。でも、この子は、既に覚醒しつつある。体を得れば、直ぐにでも覚醒するんじゃないかしら?」


 セクティは、理路整然と持論を述べた。その場の者はセクティの持論に聞き入った。暫くして、チックが思いの丈を吐露する。


 チック:「すごいなあ。こんなにちっこいのに技能ありかよ。・・・人は弱い。弱い者には壁が必要・・・。セクティ様、わたしたちって、人じゃない? 壁、作れない??」

 セクティ:「いいえ、貴方達にも張れるはずよ。“心の有る者“って意味で、人と表現しただけだから」

 チック:「お〜、希望ありか。わたしもバリア張りたいな〜。くんな!あっち行け!!」


 チックは、アバターの手を前に突き出した。


 タック:「うるせぇ!」ぽこっ!


 チックは、タックに叩かれた。


 チック:「くそー、壁、出現せず


 ほろ泣きするチックを見て、テータは戸惑いながら、突っ込みを入れた。テータは、過去の実績を重要視するタイプだ。


 テータ:「フェアリに壁は出せないでしょ」

 セクティ:「テータ、分からないわよ? あの調子なら、壁を使いこなす様になるかも?」

 テータ:「まさかぁ〜」

 チック:「ホントですかぁー!?」


 チックは、セクティに褒められたと思い、前のめりだ。セクティは、微笑んで答えた。


 セクティ:「ええ。出せるようになったら、教えてね。ファイタは無理でも、ディフェンダ(そんなものは無い)なら、出来そうじゃない?」

 テータ:「あんまり、調子付かせたら、後で苦労しますよ?」

 タック:「チック! そうと決まったら、特訓だぞ!」

 チック:「おう!」


 タックに乗せられて、すっかり、その気になっているチックは、タックとのスパーリングに無茶になる。


 タック:「駄目だ! そんなのじゃ、気合が足りない! 腹から声出せ!!」

 チック:「はい! くんな! こっちくんな!!」


 チックはタックに向けて、両手を出す。


 タック:「おい! テータ、お前も来い! チックだけ、防壁が出せるように成っても良いのか!?」

 テータ:「私は良いですよ〜、遠慮します」

 タック:「良いから、来い!!」


 タックの威圧に負けて、しぶしぶ、チックの隣に並ぶテータ。3匹は仲良く防壁の訓練だ。


 チック:「くんなー!」

 タック:「来んなー!」

 テータ:「来るナー!」


 それぞれが両手を突き出している。


 ミラ:「良いのか? なんか凄いやる気を出してるんだが・・・。フェアリが防壁を出すとか聞いたことないぞ?」


 ミラが、おいおいと言った感じで、セクティに囁いた。


 セクティ:「しばらく、良いことが無いので、気が滅入ってる所為でしょう。しばらくは、自由にさせてあげましょう。それより、今は、この子よ。チックが触ったのを攻撃と誤解して、更に殻が厚くなった。私や貴方からすれば、なんてこと無い防壁だけれど、こんな短時間で防壁を厚く出来るって、秘めた素質は相当のものだわ。あの謎の光の女神の推薦にも納得が出来る。このことは取り扱いに注意して欲しいのだけど、1.貴方は黒丸指定で、しばらく単独で活動が出来ない。2.貴方には実態が無い。3.貴方と私の関係は良好である。4.別視点からの意見が欲しい。の4点から貴方を信頼して、貴方だけには言うけれど、あの光の女神のランクは、・・・X。つまり、絶神よ」


 セクティは、声を潜めてミラに言った。チック、タック、テータの3人は、訓練に入り浸りだ。貴方だけには言うけれど、あの光の女神のランクは、・・・X。つまり、絶神よ」


 セクティは、声を潜めてミラに言った。チック、タック、テータの3人は特訓に入り浸りだ。


 ミラ:「Xランク!? Xランクって言ったら、この世界を始めたアー様でさえ、Sランクなのに、その上じゃねーか! つまり、外神?」


 ミラが驚いて、素っ頓狂な声を上げる。


 セクティ:「しっ、声が大きい。もし、『漏洩』したら、私と敵対しますかね。頼みますよ。私は、貴方と戦うのは嫌なのだから。私が聞きたいのは、光の女神様の出自についてよ。1.アーディアにXランクは存在し得ないこと。2.あの女神様は、リトルゴッドとしての繋がりを感じさせること。不明なコードがあるけれど、アーディアのコードと似通っている。3.外神と思われるのに、何故か我々に協力的で、遜(へりくだ)った態度で、接するのか、分からないのよ。もうヒントは出ている気がするのだけどね。分からないことが、多すぎるわ。第1に、あの女神様の推定通りランクがXだとすると、リトルゴッドでは無いことになる。第2に、しかし、あの女神様のコードは、リトルゴッドだと言うことを示している。開闢神アー様を凌ぐコードを持つ女神。この2つを合わせた『矛盾』を解消する『秘密』は、私には無いわ。光の女神と、この少年とは、何かしら縁があるのだろうけど、私達3人にも関係がありそうなのよね。貴方は何か感じなかった?」


 ミラ:「んにゃ、全く。カコ姉はなんか感じたのか?」

 セクティ:「それが曖昧なのだけど、懐かしい知人にあったような、初めての人にあったような・・・、そう貴方は感じなかったのね。その感覚について、話をしたかったのだけどね」

 ミラ:「曖昧な感想だなあ」

 セクティ:「分からないことは、一旦、置きましょう。第3に、外神なのに、なんで協力的何だろう? て気にならない? 外神といえば、覇権主義か、傍観主義の2タイプしか思いつかないのだけど、あの女神様は、どちらにも属さない第3のタイプ。こちらに敵意は無いようだし、威圧も感じなくて、むしろ、こちらに遜(へりくだ)ってる感じだった。あの方がリトルゴッドであるかも知れないことは、今は置きましょう。私が思って居ることは、その高位の方が、時空侵犯などという違法を冒してまで、この少年を助ける正当性があるってことなのよ。私なりの考えは付いているけれど、考え方が一面的であることも否定出来ない。あの女神様は、眩しかったけれど、眩しさとは、見えないと言う点では、闇と同じね。貴方の意見が聞きたいのよ。助けて、ミラ」


 セクティは、懇願するように、片目を瞑って、ミラに手を合わせた。

セクティの懇願を受けて、ミラは上を向いたり、下を向いたり、しばらく、考えていたが、やがて、周りを見るのを止めて言った。


 ミラ:「あたしで良いのか? イマ姉じゃなくて良いのか? カコ姉は、イマ姉ばかりを見てるから、あたじゃ力不足なんじゃないかと思ってね」

 セクティ:「何を言って居るの。私は貴方も信用して居るわよ。ただ、イマは実力あっての無茶だけど、貴方のは実力の伴わない無茶だから・・・」

 ミラ:「やっぱり、バカにしてるじゃん。あたしは、総合優勝したこともあるでしょう? ホント、カコ姉は、イマ姉を贔屓目で見過ぎだよ。あたしは、イマ姉より強いんだから!」

 セクティ:「貴方のは、運が良かっただけよ。それを自分の実力だと過信するのは危険過ぎるわ。今に取り返しの付かない痛い目を見るからね」

 ミラ:「あー、もう、ヘソが曲がった。勝手に考えれば良いでしょ。もう怒った。意見なんて言うもんですか」

 セクティ:「ごめんなさい。でも、貴方を思ってのことなんだから、許して、ね?ね?」

 ミラ:「しらない」


 女神たちのそんな些細(ささい)な齟齬(そご)を見つめる目があった。ユリである。自分、そっち退けで、スパーリングだの、身内喧嘩だのに明け暮れる、女神やフェアリの行動が気に掛かって、性がなかったのだ。


その瞬間、ミラが動いた。


(第7話へ続く)




 





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