第3話 セクティとミラ

 先の戦闘が終ると、周辺は撒き散らされた泥でギトギトになっていた。


 セクティ:「これは手間がかかるわよ〜」


 大変さを思わせるフレーズだが、セクティは何故か嬉しそうだ。御宝無しの泥片付けだが、セクティは掃除が好きなのだろう。声の調子も明るい。セクティは、掃除を手伝わせる為に、多数の無魂の使い魔を作り出した。彼らは働きものである。チック、タック、テータは、汚れの存在の報告や進捗具合の報告を逐一、セクティに伝えた。チック、タック、テータも精力的に働いた。自分達より、目下(めした)が出来たのが嬉しいらしかった。ミラは監督だ。何もしないという意味の"監督"だ。名誉職ですね。作業が半分ほど終わったとき、セクティが"監督"に語りかけた。


 セクティ:「ミラ、私の実力が上がってる所為もあるのだろうけど、昔は戦闘と言えば、もっと必死に食らいつくように、務めてた気がするのだけど。なにか寂しいわ。戦いの中に高揚感が無いわね」

 ミラ:「上ねーちゃんが、そんなことを言うのは、珍しいね。あたしは、ねーちゃん2人と組む前は、1人で自由にやってたから、派手な立ち回りには、こと欠かなかったかな。連日、舐めプと憂晴らしプレイの毎日でした。倒し過ぎてランクを上げられ、無双を出来なくなったのが、むしろ、ストレスの始まりでした。上ねーちゃんは、詰まってからが強いのよね。あたしは、上ねーちゃんには、からっきしだからなあ。反面、勝てた時は、すっごい嬉しいけどね」


 ミラは、その時のことを思い出したのか、破顔して見せた。


 セクティ:「ねぇ、覚えている? 私達が今日から姉妹だよと、母上に告げられてから行った、最初の戦いを。私達は、あの戦いで名前も分からないカナンと戦った。強敵だった」

 ミラ:「あー、アイツ強かったよね。だって、忘れちゃうんだもん。アイツの本質(リック)は『忘却』。今しようとしたこと忘れちゃったら、仕事のやる気も失せちゃうからね。しまいにゃ、眠くなる。アイツは、地味に最強クラスですわ。アイツが楽なのは、アイツには相手に怪我を負わせるような攻撃を持っていないとこかな。でも、回り回って、物理ダメージて件(けん)も、無いでは無いし、油断は禁物だけどね」

セクティ:「私は、カナンが出会い頭に語った問いが、今だに気に掛かる」

 ミラ:「アイツ、何を言ったんだっけ? 忘れてら。記憶を取られてる?」

 セクティ:「ふふふ。彼はね、私達リトルゴッドの生の在り方を問うたのよ。"コードで無くなる前にお前がやりたいことは何だ?"と。知っての様に、リトルゴッドは、基本的に不死。父上ヤムの『即死』を食らっても、一時的にゲーム盤から取り除かれるだけで、本質的な死ではない。『蘇生』の本質者が居れば、蘇ることが出来る。しかし、私達を構成するコード、これが書き換えられたり、紛失したりすると、そのとき、私達は死ぬ。数字に帰るのよ。私は、こう答えた。"コードで無くなる前に、こうまでして生きる意味を見つけたい"と。人生は無意味と不条理の連続に晒(さら)されるわ。その度に嫌になる。だけど、私は踏みとどまって、逃げずに、その道を進んでしまう。そんな私の心の叫びよ」


 ミラ:「上ねーちゃんらしいなあ。言ってたな、そんなこと。あたしも思い出したよ! 上ねーちゃんは、覚えてるだろうけど、あたしに言わせて! んとね、確か、あたしには、知りたいことなんて無い! だけど、あたしは自分の魔術を紡ぎたい! それが、あたしの希望だから!!・・・です」


 ミラは、恥ずかしかったので、破顔して誤魔化した。


 カコ:「ふふふ、貴方の魔法、楽しみにしてるわ。魔法と言っても、アーディアの魔法とナイラディアの魔法では、術式は違うでしょう? どっち法式を取るつもりなの??」

ミラ:「そうだなあ。どっちも研究するつもりたけど、究極はナイラディアかなあ。やっぱり故郷だし、ナイ様、いや、お母様は、天才だからね。1歩でも近づきたいんだ」

 セクティ:「そうね、母上は天才。そして、異常者。こんなこと、私の魂に住んでる貴方にしか聞かせられないことだけど、母上は異常よ。確執があるからって、あそこまで異常性を高められるのは、常軌を逸している。異常者に素質があるなんて分からないけど、異常者の素質も1級です。私は愚昧の者。愚昧の者の言葉として聞いてよ? ルーラーとして、生み出されたから、常軌を逸するものなのか、ルーラーだから、常軌を逸していても、許されているのか? 私の位置からは見えないわ。私の判断では、母上は狂っている、てこと」

 ミラ:「ナイ様、いや、お母様が、間違ってる、て思うのに従ってるの? そんなの理屈が、おかしいよ」

 セクティ:「おかしくは、無いわよ。だって、私は弱いもの。弱いものは、強いものに従うのが摂理です。なら、貴方は母上が間違ってると聞いて、どう思うの?」

 ミラ:「んー、違うんじゃないかなー?て、思うことはある」

 セクティ:「なら、戦いなさいよ。勝てるかも、知れないでしょ? 貴方やイマなら」


 ミラはブンブンと頭(かぶり)を振った。


 ミラ:「死んじゃうよ〜!」


 ミラは、必死で嫌がる。


 セクティ:「そういうことよ。無駄な考えは、しない主義なの」

 ミラ:「はい、はい! 上ねーちゃんの嘘はっけーん」


 ミラが茶化し加減に手を挙げる。


 セクティ:「嘘って、何よ?」

 ミラ:「だって、上ねーちゃん、下ねーちゃんが、居ない居ない、ってずっと頭(あたま)を抱えてたじゃん」

 セクティ:「それは・・・、心配するでしょ。家族は大事・・・」

 ミラ:「良いなー、下ねーちゃんは。あたしも、それだけ心配してもらえるのかなー?」

 セクティ:「当たり前でしょ! この子は!」

 ミラ:「ごめんなさーい。てかさ、

 イマ姉の希望てなんだっけ?? 忘れた(カナンだな)」


 ミラは、虚空にカナンの姿を探る素振りを見せた。


 セクティ:「イマは、言っていたわ。"イマ:僕は生涯を賭けて、一生懸命に走り抜けたい。その後に僕が生きた価値を知りたい!"て」

 ミラ:「似てる〜(笑)。でも、なんで上ねーちゃんて、そんなに下ねーちゃん、良く見てるの?」

 セクティ:「それは、イマが天才だからよ。凡才は、天才に惹かれるものなのよ。そして、導きに従うの」

 ミラ:「そーいうもんですかね〜? あたしには、考え及びも付きませ〜ん。でも、あたし、それ聞いて無いや。なんで??」

 セクティ:「あー、カナンが問いを投げ掛けてきて、私が答え、ミラが答えたあと、詰まらない問題で揉めたのよ。それで、その後、戦闘になって、その戦闘中にイマが言ってたセリフだから」

 ミラ:「だけど、あたしが聞きそびれるなんて、どう言うことだ? まさか余りのレベ違(ち)の戦闘に、この戦闘の申し子ミラ様が付いて行けなかったとか?? いやいや、無い無い。修行を始めたばかりの訓練生じゃあるまいし、先輩リトルゴッドの動きに付いて行けないとかね。あたしは特級A-Sですぜ? ナイラディアでは、トップクラスの実力の持ち主さんです。同じ特級A-Sのイマねーちゃんだけが、あたしを置いてけぼりに、超級に昇進ですか?? 無いと思いますけどね」 


 ミラは不満から、口癖を尖らせた。


 セクティ:「そう、忘れてるなら、私が語ってあげましょう。あのとき、何が起こったのかを」


(第4話へ続く)

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