第2話 大沼にて

 澄んだ大池は底まで見えている。このナイラディアと言う世界は、太陽が無い。では、真っ暗なのかと言うと、そんなことも無く、空には偽りの太陽と呼ばれる月が輝いている。我々の太陽の様な熱を運ばない。では、寒いのかと言うと、そんなことも無く、地球で例えると、地熱が地球のそれより高いのだ。まるで床暖房ですね。暖かそうですね。気候は安定しており、少雨少風の気候だ。昼はなく、常に薄暮な感じである。偽りの太陽に照らされた池の底はセクティが綺麗に掃除していたのを台無しにする様にかき乱された。泥に混じって、両生類とも魚類とも判別の付かない化け物が這い出してきた。


 ミラ:「チック、タック! 監視甘いぞ! 何を見てたんだ!!」


 ミラの怒号が、セクティの脳内に響く。従僕である3人のフェアリは、何事も否定目線のミラは苦手だ。


 チック:「すみません。気配は全くしなかったんです」

 タック:「オイラも全然気が付かなかったよ。ごめんよ。許しておくれよ」


フェアリの2人は、スッカリ恐縮している。


 ミラ:「戦場でのミスは、部隊が支払わされることになるんだぞ! 謝っても、済まん。めそめそもするな! まだ、戦闘中だぞ! 上ねーちゃん、見つかった! 来る!」

 セクティ:「分かってる! ウチの子達のミスは、私が晴らします」


 そう言うと、セクティは黒柄の大鎌どこからか取り出し、クルクルと回した。


 チック:「セクティ様〜」

 タック:「カコ様〜」

 テータ:「セクティ様〜」


 フェアリ達は、それぞれの思いを抱え、泣いた。


 怪物は、陸に上がると、こちらを試すかのように、ゆっくりとブルブルと泥を払った。そして、出し抜けに咆哮を上げて、襲いかかって来た。セクティは、取り出した黒柄の鎌の柄で、敵の噛みつきを右横殴りにいなすと、同じく右回転気味に腹を蹴り抜いた。怪物は、ふっ飛んだ。ファイタ上がりのセクティは、武器だけでなく、体術にも長けている。なんでも熟さなければ、生きてこれなかった。不得手は即、死に繋がった。セクティ...当時はカコと言っていたが、イマとミラに出会ったのは、そんなファイタになったばかり頃だった。カコから見たイマは、出会って間なしの頃は、一人称が僕の気になる娘だった。そんな印象。カコから見たミラは、なにか見かける度に手を振り掛けてくる変わった相手だった。


 タック:「カコ様、まだ居ます! こちらから、右前方!!」


 セクティは、タックから左前方へ飛んで、距離を取る。そして、相手に向き直ると、敵を補足する。泥沼となっている池を飛び越え、怪物がセクティに襲いかかる。敵の噛みつきを、鎌の柄で受け止める。そして、横振りにいなす。先に蹴り飛ばした怪物が、起き上がり、こちらを観察している。


 ミラ:「グズグズしてると、さつきの奴が、こっちに来るよ。さっさと決めちゃいなよ」

 セクティ:「この子達、詰まらないわ」

 ミラ:「え? なんのこと?」


 フェアリの1人テータが、補足する。


 テータ:「セクティ様は、敵のデータが2の倍数なので、2で両断出来てしまうので、詰まらないと仰りたいのでしょう」

 ミラ:「そんなこと言ってる場合かよ! 囲まれちまうぞ!! あたしなら、攻撃魔法を周囲に撒くんだけどな。上ねーちゃん、早く動け!」


 先に動いたのは、敵だった。動きを合わせたのか、偶々だったのかは、分からないし、どうでも良いことだった。セクティは、狙い澄ました鎌の一閃を繰り出した。獣とも魚とも分からぬ、それらはセクティによって、両断されていた。池の水は、泥を吸収するように浄化していく。怪物達は、幾ばくかの鉱物を残した。


 チック:「ショボめの敵でしたけど、結構、ミスリル落としましたよ。幾らくらいのホルスになりますかね?」

 タック:「5万と見た!」

 テータ:「惜しい〜。66,060ホルス!」

 タック:「結構、違うじゃねーか」

 チック:「多い分には、良いんじゃない?」

 タック:「まーな」

 テータ:「ただ、私は相場値からの概算なので、結局、最終売り抜け金額は、商売相手のバイヤー次第ですから、セクティ様の交渉次第になり

...」

 タック:「カコ様は、ホルスに興味が無いから、また二束三文で渡しちゃうよ。それなら、オレらにお小遣い欲しいよな」

 テータ:「まぁ、タックたら、私達フェアリは、ホルスなんて使えやしないのに、ホルスでお小遣い欲しいの?」

 タック:「データ上の数字でも、増えると嬉しい物なのです!」


 タックは、目を輝かせて熱弁を奮う。

 ミラ:「上ねーちゃんは、良く変なもん拾って来るよね。昔から」


 ミラは、珍しいものを見るように、フェアリ達を眺めた。


 セクティ:「奇貨置くべしよ」

 ミラ:「何? それ?」

セクティ:「泥水の中に、落ちていた言葉」


 ミラ達の居る空間は、セクティ、つまり、カコの頭の中の空間で、カコラディアと呼称していた。カコラディアでは、秘密は共有させるので、隠し事は普通は出来ない。ただし、ミラの様に魂持ちの者だと、プライバシー的な心の壁が生じて、隠し事は可能である。フェアリ3匹たちのように、隠し事などする気の無い者たちも居るけれど。


(第3話へ続く)





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