第2話 葉山修吾の取材記録
以下に載せる記録は私、
①◇◇町 ◇◇アパート死体遺棄事件について
☓月☓日早朝、◇◇アパート付近を散歩中の犬が突然走り出し、アパート台所の開いていた窓から室内に侵入。何かを咥え、飼い主の元に戻る。その何かを見て飼い主が警察に通報し、事件が発覚。
同日、警察が◇◇アパートを捜索したところ、台所の床下収納より、多数の人骨と思われる物を発見(後日、鑑定で人骨と確定)
床下収納を基点に、床下を破壊し、周辺を搜索したところ、人骨の他に損傷及び損壊の激しい腐乱した遺体も、複数人分発見。遺体の損傷及び損壊の断面に、刃物とは他に、異なる形状の物による痕跡もあり。
遺体に残されていた損傷及び損壊の痕跡から、警察は、この度の事件を、極めて猟奇的かつ残忍な、連続殺人事件と断定。
付近の捜索が、今後更に広範囲に及ぶものと思われるため、人骨及び遺体の正確な人数は現在不明。
◇◇アパートの事件当時の大家の、□□不動産屋の資料に記載の名前は偽名。そして現在、行方不明。亡くなった前の大家には、身内が居なかったことが判明している。また、事件発覚直前に、□□不動産屋を退職した従業員、
警察は事件の猟奇性及び、重要参考人の捜索中ということを考慮し、事件の詳しい内容等の、マスコミ及び世間への公表は一部を除き、現在差し止め中である。
②間野岳の話
◇◇アパートを事件発覚前に内見していた彼に話を聞く。今日の様子では、まだ捜査員は彼を訪れてはいないようだ。なので、事件のことは伏せて話を聞く。
―彼の話で興味深いのは「臭い」だと思う。単純に考えれば、アパートの床下に腐乱した遺体が複数あったのだから、その臭いだろう、で納得出来そうだが…………どうにも引っかかる………彼は恐ろしい体験をする直前に「臭い」を感じ、そして内見後に彼自身に「獣臭い」臭いが纏わりつくようになった、と言っていた。
私は以前、取材で猪肉を食べたことがあるから、彼の言っていた「獣臭い」がどういうものなのか分かる。人の腐乱した「臭い」は経験がないが「獣臭い」とは違うものだと云うことはわかる。
彼の感じた獣臭さは何なのだろう?「臭い」は、この事件の真相を突き止めるための重要なポイントだと私は考える………
③これからの取材等の予定
引き続き
●過去に◇◇アパートの内見をしたことがある人物
●◇◇アパートの前の大家を知る人物
●◇◇アパートの近隣住民
に話を聞いてみる。
………そういえば、間野岳に会ってから、私の体から、肉の腐ったような気持ち悪い臭いがする………ような気がする。いや、あんな、気持ちの悪い話を聞いたから、そんな気がするだけなのかもしれない。きっと、そうだろう。
だが…………獣臭い。肉の腐った臭いに混じって、獣臭さも感じる。それだけでない。昨夜、ベランダに何かがいた。満月の眩い光を背にして、大きな塊が。ここは9階、どこからどうやって来た?
あれは、なんだ?
あれはあれはあれはあれはあれはあれはれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここで、文字として読める葉山先輩の残した取材記録は終わっています。手帳の残りは、ぐじゃぐじゃとした線?や、ところどころ裂けているページなど、読める記録はありません。
私は、先輩と会う約束をしていました。先輩が間野岳さんに取材した3日後です。しかし約束のファミレスに先輩は来ませんでした。事件絡みの情報収集の約束に、先輩が姿を現さない事は、それまで一度もありませんでしたから、私は漠然とした不安を感じたのです。
その日の夕方に、先輩のマンションを訪ねました。インターホンを押す前に、玄関扉が開いていることに気付きました。私の爪先が入る位の細さで開いているのが。それは不自然なことでした。先輩は用心深い人ですから。
漠然とした不安が、確実な不安に変わりつつありました。力任せに扉を開け、先輩を呼びましたが返事はありません。夕陽が部屋を赤赤と照らし、玄関にいる私の爪先にも伸びてきました。赤黒くて、獣の鋭く尖った爪のような夕陽。背中から首筋に、ぞわぞわぞわと寒気が走りました。
そしてリビングのカーテンがふわり。ゆっくりと揺れているのが目に入りました。窓が開いている。最悪の事態が頭をよぎり、窓まで一気に走りました。カーテンを引っ掴み、勢い余ってベランダの手摺に倒れ込む姿勢で、下を見ました。
……ありませんでした。先輩の死体はありませんでした。いつもの殺風景な駐車場があるだけです。ほっとしたものの、鍵もかけず、窓も開けたままで先輩はどうしたのだろう。そこで、先輩に電話をかけました。すると、くぐもってはいますが聞き覚えのあるメロディが聞こえました。部屋の中です。くぐもってはいますが、近い。
余計な音を立てないように、そろりと室内を歩きながら、音の出所を探しました。幸いにも、先輩は物を必要以上に持たない人だったので、出所は直ぐに分かりました。
冷蔵庫です。野菜室の、キャベツと玉ねぎ、ほうれん草の下に、スマホと手帳が、まるで隠すように置かれていました。いえ、ようにではなく、隠したんですよね。冷蔵庫にスマホと手帳を日常的に入れてる人なんて、滅多にいないと思うので。
スマホと手帳を見つけて直ぐに、警察に連絡しました。先輩に何か、良くないことが起こったことがはっきりしたので。記者にとって、手帳とスマホは大事な物です。自分の調べたことが全て記録されている物なので。その2つを隠しているので、先輩に危険が迫っていた事は間違いないでしょう。
警察にスマホは提出しましたが、手帳は私が隠し持っています。先輩が調べていた事件と、私が調べている事件との関わりを掴みたかったのです。先輩もそれが目的で、私に連絡してきたのですから。
………今回の事件は、警察には解決は無理でしょう。人知を超えた存在、科学で解明されていない事物の存在を受容する姿勢の無い人々には、想像すら出来ない事です………
先輩が失踪してから1週間が過ぎました。先輩の取材を受けた当日に、間野岳も行方不明になっています。
実は………先輩の部屋に入ったあの時、強烈な肉の腐ったような気持ち悪い臭いと、獣のような臭いがしました。
……今、私からも、私の周囲も同じ臭いがしています………
終
※※以前に公開した物に、加筆修正しました※※
見なければよかった……… 月のひかり @imokenpi3
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