第8話 「配信者カップ1週間前 前編」
俺が盛大に遅刻したコーチング配信から2週間が経過し、7月に突入した。配信者カップ開催の1週間前になっており、いよいよ大詰めである。そして本日は配信者カップに出場するvtuberチームのメンバーと顔合わせを配信をする。
チームメンバー1人目はサトウケンタさん。サトケンの愛称で呼ばれ、abcxを初期からプレイしている人。何度も最高ランクであるエンペラーに到達しているヤバい人でもある。さらに、vtuber事務所を立ち上げる予定らしく、今まで以上にストイックに活動していくらしい。一応個人勢らしいです。
チームメンバー2人目はこのチームのリーダーであり、大手事務所『アイライブ』に所属するvtuber、綾川あいかさんだ。この事務所はアイドルとして売り出している人が多いが、綾川さんはゲームもアイドル活動も高いレベルで行っており、アイドル活動しながらもabcx最高ランクはエリートに到達しておりゲームセンスの高さを見せつけている。
メンバー全員が人気vtuberなので、底辺配信者の俺がいても良いのだろうか、という思いが生まれてしまう。
「綾川さんと関わって良いだろうか……」
水無瀬さんやあおいさんと関わり、今まで見ていなかった他のvtuberさんの配信を見てみると、vtuber界隈のファン層の中で過激な方がいるのを見つけた。特にアイドル売りをしているアイライブのvtuberの方に過激なファンが多くいるように感じた。
調べてみると以前、あるアイドルvtuberが男性vtuberとコラボしたことにより1部リスナーが激怒。あらゆる手を使い男性vtuberの方を攻撃し、炎上させて活動休止に追い込んだ。この1件があってから、アイライブは男性vtuberとコラボするのを制限するようになった、という話だ。
全てのリスナーがそんな感じで過激なわけではないが普通の配信でもちょくちょく過激な発言をしている人もいるので今回の配信はより1層距離を考えなければならない。……考えるもなにも俺、コミュ障だから喋れねぇわ。会話に関しては俺はいらないと思う。人気vtuberが集まってるので、会話はなんとかなるだろう。
『大丈夫ですか?起きてますか?』
あおいさんから連絡がくる。配信開始30分前だが既にデェスコに入っているらしい。
『起きてます。配信時の会話は任せます』
『任されました。通話しますか?』
『しときましょうか』
ここ最近のコーチング配信によりあおいさんとはそこそこ喋れるようになった。良かったね、俺。
「お疲れさまです。如月さん」
「お疲れさまです」
「もうちょっとしたら皆来ると思うので待ちましょうか」
「そうっすね」
10分後綾川さんがサーバーに入ってきた。
「おつかれ〜!あおちゃん!」
「お疲れさまです。あいかさん」
「むぅ~いつもさん付けはいらないって言ってるのに!」
「すいません。癖でして」
「まぁ、名前で呼んでくれるだけいっか!」 「そう思ってくれたら嬉しいです」
水無瀬さんに劣らず元気な人である。過去の配信を見ると、ふわふわした喋り方からは想像がつかないようなプレイをするのでギャップがありまくりで萌えるどころか俺は引いた。普通に壁ジャンしたり、様々な高等技術を使えているのでプロゲーマーでもやっていたんじゃないかとさえ思う。
「えーっと如月カイさんですよね。初めまして!」
「は、は、初めまして」
いきなり話かけられました。初対面の人には噛みまくるのでいつもよりヤバいかもしれない。
「いやーあおちゃんに聞いてた通りだね」 「と、と言うと?」
「コミュ障だって聞いてたよ」
「す、すいません…喋れなくて…」
「あー!謝らないで!謝られるの嫌いだから!」
「そ、そうっすか」
「楽しんでやってこうね!」
「は、はい」
……光属性すぎない?これがアイドルパワーか。顔は見えないが絶対キラキラしてるだろ。この人がいれば大会中の雰囲気は悪くなることはないだろう。
「お疲れさまでーす」
「おつかれ〜サトケン!」
「お疲れさまです」
「お、お疲れさまです」
綾川さんが来て2,3分したら今度はサトウさんが入ってきた。
「如月さんっすよね?初めまして」
「あっ、初めまして」
「早速ですけど如月さん」
「な、何でしょう?」
「如月さんのabcx配信のアーカイブ見させてもらいましたよ」
「ぜ、全部見たんですか?」
「流石に時間が足りなかったんで全部は見てないっすけど、色々見ましたよ。上手いっすねーabcx」
「あ、ありがとうございます」
急に褒められました。どうしてでしょうね。
「1ヶ月前の配信でやってた1v3クラッチヤバかったっすね。中々できないっすよ」
「そ、そんなとこまで見たんですか……」
「普通に面白かったすよ。後でタイマンしないっすか?」
「ま、負ける未来しか見えないんですけど」
何回もエンペラーに辿り着いてる人に勝てる気がしない。10回やって1回勝てるかどうかだろう。
「配信始まる前にやりましょう」
「わ、分かりました」
「今日は顔合わせ配信って事で、やっていこうと思います。ボクのランク的にこのメンバーではランクマッチにはいけなさそうなのでカジュアルでいいっすか?」
「オッケー!」
「大丈夫です」
サトウさんは既にマスターまで行ってるのヤバくないか?事務所の立ち上げとかで忙しいだろうに。
「じゃあ、如月さんやりましょうか」
「ま、マジでやるんですか」
「当たり前じゃないっすか」
配信開始15分前。最高ランクエンペラーに何回も到達した男、サトウケンタとのタイマンが始まる。……勝てる気がマジでしない。
「招待するっすね」
「り、了解です」
モード選択画面のバトルロワイヤルだったところが訓練所に切り替わる。準備完了のボタンを2人同時に押し、 独特の音が鳴る。ロード画面が訓練所仕様のものとなるり、画面が暗転した後見慣れた訓練所のマップが現れた。
「シールドは赤、武器はハンドガンでいいっすか?」
「お、おけです」
このゲームではタイマンする時にハンドガンを使う事が多い。理由としては一発が高火力であることと、使い手のエイムに左右される事だ。いくら上手くても全弾当てることは難しい。そして高火力が故に一瞬の判断で決着がつく。
「やりましょうかー」
「は、はい」 持ち場につきどちらも準備する。 「いきますよー。3、2、1」
フレンドリーファイアがオンにされタイマンが開始する。まずは1発撃ってみる。ギリギリ当たらなかったので遮蔽に身を隠す。サトウさんとの距離は10,15メートル程。少し身を出してみると、サトウさんの弾1発が命中する。後4発当たったら負けだ。こちらも当てなければ。何の抵抗もなくやられるのは嫌だ。距離を詰め、ハンドガンの銃口を向ける。サトウさんはもちろん俺が詰めてきているのは把握しているので、遮蔽に身を隠しながらもう1発当てようと移動してくる。
−−−そこか!まっすぐ詰めてきているので1発当たるが、壁ジャンプでもう1発は避けられる。まじか、そこで壁ジャンか。しかも壁ジャンしながら当ててきたし。まぁ、俺もサトウさんが壁ジャンしてる間に当てたが。これでどちらもあと3回当たれば終わる。そう思った時には手遅れだった。一気に体力が減りダウンした。……ヘッショ当てられたか。
「つ、強すぎ…」
「まだ1回しかやってないっすよ」
「もう1回やるんですか……」
「あと9回やりましょう」
「ま、マジですか…」
結局思ってた通り、10回中1回しか勝てなかった。 1回勝てたのもサトウさんがエイムを少しガバったからなので、たまたま勝てただけだ。
「やっぱサトケン強いね〜」
「如月さん。ナイスファイトです」
「ボコボコにされた……」
勝てるとは思ってなかったが、ここまでボコボコにされると自分は弱いんだなと思わされる。……もっと頑張らなければ。
「いやー全勝したかったすね」
「こ、これ以上ボコボコにするのやめて下さい」 「如月さんはエイム良いっすね」
「そうですか?普通だと思ってるんですけど」 「それで普通なら他の人どうなるんすか」
「さ、さぁ?どうなるんですか?」
「バランスが壊れるっすよ。壁ジャンしてる時にバリバリ当ててきたじゃないっすか。みんながあんな風に当ててきたらヤバいっす」
そんなもんだろうか?自分はエイムより立ち回りに重きを置いているつもりなので、エイム練習をずっとすることは無かった。まぁ、サトウさんが俺のエイムが良いって言うならそうなのかもしれない。
「そろそろ時間だから配信始めよ〜」
「分かりました」
「オッケーっす」
「みんなこんばんは~綾川あいかでーす!」 「空色ライブの青空あおいです」
「個人勢のサトウケンタでーす」
コメント:こんばんはー
コメント:うぉぉぉ!あいかの配信だぁ~
コメント:最高や!
コメント:きたきた!
「今日は配信者カップの顔合わせ配信だよ〜」
コメント:うぉぉぉ!
コメント:あいか愛してるぞー!!
コメント:顔合わせだぁ~
「大体はサトケンがコーチングしてくれるよ〜」
コメント:サトケンコーチングは安心
コメント:あいかー!!
コメント:うぉぉぉ!!
「あおちゃんは如月カイさんがコーチングをしてくれるよ〜」
コメント:誰やねん
コメント:ガチで誰?
コメント:知らん奴入れんな
「今日は配信では喋らないらしいよ〜」
コメント:喋らんでもいいわ
コメント:あいかー!!
コメント:マジで誰?
コメント欄をして見ると俺の登場を望んでるリスナーはいない。そりゃ誰かも分からない底辺配信者が出てきても嬉しくはないだろう。綾川さんやあおいさん。サトウさんを見に来た人の割合が10割なはずだ。今日は喋ると何か色々駄目そうなので、喋らないでおこうという判断になった。今回はコーチングについてはサトウさんに任せようと思います。
「カジュアルマッチやってくよ〜!」
コメント:うぉぉぉ!あいか!
コメント:このメンバーでいったら普通に1位取れそう
コメント:メンバー強い
「みんな何使えるの〜?」
「ボクは大体全キャラ使えますね」
「私はジャンキラー以外はちょっとマズいかもです」
「あおちゃんはジャンキラー本人らしいよね〜」 「確かにグレネードを使うのは好きですが、ジャンキラーではないです」
「でも、グレで爆殺して笑ってる切り抜きあるよね?」
「……ちょっと何言ってるか分からないですね」
「そ、そっか。分からないなら仕方ないよね!」
「大会の構成も考えながらやっていきましょうか」
「そ、そうだね!」
マッチングが開始してから30秒程していつもの音が流れキャラ選択画面に切り替わる。
「ボクはハンブラー使うっすね」
「私はジャンキラーでいきます」
「あいかは…バリーサでいいかな」
バリーサは自身や味方を強化して戦うキャラだ。パッシブはランダムで決められる武器を拾えばアタッチメントが付いているというもので、初動はその武器を拾う事ができれば強い。スキルは近くにいる味方にシールドを付与することができるというかなり強いスキルを持っている。シールド回復系のアイテムが無い時に便利。そしてアルティメットは巨大な槍を取り出し、相手に当てることができればノックバックとスタン、さらに60ダメージが入るというものだ。どちらかといえば弱い部類に入るアルティメットである。理由としては動いている敵に当てるのが難しいことと、壁などの遮蔽は貫通しないことが挙げられる。まーじで当てるのがムズい。プロでも完璧に当てることはできないかもしれない。
「じゃあ1番の激戦区降りますか」
「えっ?」
「カジュアルなら敵がいる所に降りた方が良いっすよ」
「なんででしょう?」
「ランクとカジュアルは立ち回りが違うんっすよ。カジ ュアルならキルムーブした方が良いっす。大会までにフィジカルを鍛えましょう」 「なるほど〜」
「降りますよ」
サトウさんがそう言った瞬間、このゲーム1番の激戦区に向かって降り始めた。やっぱり俺いらないんじゃないか?サトウさんが全部なんとかしてくれそうだ。サトウさんの方が俺よりちゃんと考えて動いている。……今卑屈になってもしょうがないな。これが終わるまではネガティブな考えは無しでいこう。
「こっち武器あった〜!」
こうして顔合わせ配信は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます