第5話 「如月カイの雑談配信」

「ん、朝か……」


いつの間にか寝てしまっていたらしい。現在時刻午前7時。何時に寝たか覚えてないから何時間寝たか分からない。とりあえず、飯食って大学行く準備しねぇと……


「……通知?」


スマホをつけると通知が来ていた。


「誰からだ?」


送り主はあおいさんだった。送られてきた時間は昨日の23時30分。この連絡が見れてないということは、俺は昨日の夜だいぶ早く寝たらしい。


「えっと……『コーチングの件ですが2日後なら大丈夫でしょうか?1週間後には同じチームの人との顔合わせ配信が予定されているので、それまでに1回はコーチングをお願いできたら良いなと思っています。もし、予定がある場合は別の日にお願いしようと思います。』」


……なるほど。顔合わせ配信までにコーチングをしてほしいと……予定的には空いているが、心配なのはおそらく永遠の課題であろうコミュ障である。昨日の配信は気合でなんとかなった可能性しかない。今行ってる大学にだってどうやって入れたか分からない。頭脳ではなくコミュ力の方が心配な大学受験だった。


「まぁ、なんとかなるか」  

喋れなくてもあおいさんがどうにかしてくれるだろう。要するに他力本願である。………ウソです。ごめんなさい。 ただ単に断ったらマズいかなって思っただけです。コーチングするのは確定してるしササッとやろう。


「『明日なら大丈夫です。何時から配信しますか?』っと」


こんなもんで良いだろう。さあ、準備して大学行こ。




−−−昨日の配信を見ていたあるvtuber



「水無瀬さん、強くなったなぁ」


彼はabcxを初期からプレイし、最高ランクであるエンペラーに何回も到達した。さらに、様々なvtuberのコーチングをしたこともあった。コーチングした中には水無瀬イツキもいた。水無瀬イツキを最初コーチングした時は、まだ彼は何も分かっていなかった。だが、少し教えればスポンジのように吸収し出来るようになった。教えるのがとても楽しい人だった。


「ボクも頑張るかぁ」   


次は配信者カップがある。勝てるように練習しよう。そう、彼は決意した。





  現在時刻19時。大学とバイトが終わり、疲れ切った状態で家に帰ってくる。先に風呂から上がった後、夕飯を作りモグモグ食べる。今日はチャーハンだぜ。ほぼ毎日同じだがな。


「配信するかー」


夕食を食べた後、無意識の内にそう言った。なんか、俺毎日配信しないとだめになってるかもしれない。配信中毒野郎になっちまったなぁ〜!配信は楽しいからねしょうがないよね。


「聞こえてるか〜」


コメント:聞こえてます

コメント:ウッス

コメント:どうも


相変わらず適当な返事が多い。まぁそれがいいんだが。


「なんか人多くね?」


コメント:そりゃそうよ

コメント:イツキとコラボしたからなんだよなぁ コメント:空色ライブの影響をナメていた男



いつもは30人程度の同接だが、今日は5倍の人数である150人が見ていた。


「空色ライブってすごいな……」


やべぇわ空色ライブ。俺みたいな底辺配信者が関わっただけでも同接や登録者数が増えた。

 

コメント:イツキが色んな人とコラボしてるからそれにたまたま当たっただけ

コメント:底辺配信者が!

コメント:おっとアンチ君だぜ!カイさんや


「俺に迷惑かけるのは良いけど水無瀬さんとかに迷惑かけんなよ」


コメント:まさかイツキとコラボするって思わんかった

コメント:初コラボが空色ライブの人とは……

コメント:もっとコラボしてほしい


「もっとコラボしてくれって奴は俺がコミュ障だって事忘れてるだろ」


コメント:……いや?

コメント:そんなわけナイよー

コメント:はて?なんのことやら


「まぁいいや。今日はゲームじゃなくて雑談配信だ」


コメント:珍しいっすね

コメント:いつ振りだ?

コメント:4ヶ月振りでございます


「明日からabcx頑張るので許して」


コメント:許さん

コメント:許す

コメント:どっちなーんだい   


「雑談配信と言いながら話すことはない」


マジでない。雑談配信ってどうすんの?


コメント:4ヶ月振りだからねしょうがないね

コメント:ちゃんと喋れてるやんコミュ障とは? コメント:おっ!初見さんだ!


「人と喋れないだけです。コメント欄とは喋れます」


コメント:コメントすら読めなかったら驚愕する コメント:残念ながら存在するっすね

コメント:マ?


「いたらしい。どっか所属してる人?」 


コメント:なんと空色ライブにいます

コメント:そんな人いたんか コメント:配信頻度が高くないからね


「ほーん。……することないから配信者カップでも調べよ」


コメント:聞いたのに興味なさそうですね 

コメント:イツキのこと知らんかったのに配信者カップは知ってんのか

コメント:一応配信者だから……

コメント:なんで知らなかったか分からない


「abcxに囚われてるからかな」


コメント:そういえばこいつabcxめっちゃやってたわ

コメント:プロでもなんでもないですよね?

コメント:プロになれないって感じたから配信者になった男だぞ


「勝手に経歴作んな。配信者になったのは趣味だよ」


別にプロになろうと思ったことはない。ただ普通に配信活動が楽しいからやってるだけである。


コメント:なんだ存在しない記憶か

コメント:趣味で配信者になった男

コメント:↑普通の経歴になったw


「配信者カップって2018年からやってんのか」


コメント:いつの間に調べた!

コメント:1年に1回はやってるイメージ

コメント:2020は流行り病があったから中止だったね


「俺もいつか出てみたいな」


コメント:お前喋れないだろ

コメント:顔出しすんの?

コメント:後何年かかる?


「顔出しはしないと思うな。多分ね」


特にメリットないしね。俺はイケメンってわけじゃないし。顔出しした方が炎上しそう。



「あおいさんが配信者カップに出るのってすごい事なのでは?」


コメント:vtuberが出るのは2回目だね

コメント:お前よりは凄い

コメント:vtuberとしては上澄みなんだよなぁ


「次のコーチング配信で喋れるか不安でございます」


コメント:多分無理やろなぁ

コメント:カイやし喋れんやろなぁ

コメント:俺はいけるって信じとくわ


「まぁ頑張って喋るけどさぁ」


コメント:大丈夫?死なん?

コメント:イツキの喋りやすさに感動してそう

コメント:なんでコミュ障なったんだ?


「水無瀬さん喋りやすいんだよなぁ。なんで?」


コメント:コミュ力の塊だから

コメント:陽キャだから

コメント:いうほど喋れてたか?


「俺からすると頑張りまくりですが?」

コメント:よしよし頑張ってるね♡

コメント:後でヨシヨシしてやる

コメント:頑張ってて偉い!


「お前らってそんなやっけ?なんか怖いって」 コメント:俺らが褒めてやってんのに……

コメント:分かりました褒めるのやめます

コメント:2度褒めません


「褒めないのは違くない?頑張ったら褒めてくれや」


コメント:ツンデレか?

コメント:どっちだ?

コメント:分かりました褒めます


「適度にプリーズ」


コメント:そういや明日からどうすんの?

コメント:こいつはabcxやりますよ

コメント:マジでabcxに囚われてる奴だぞ?


「明日は…言っていいか分からんから言わないでおくわ」


コメント:一体何があるんだ?

コメント:イツキのコーチング?

コメント:あおいパイセンのコーチングかもしらん


「まぁ、明日を待ってくれ」


コメント:おけ

コメント:待っとくわ

コメント:楽しみにしとく


「なんかタイミングいいし配信終わる。じゃあな」


コメント:乙

コメント:おつかれ

コメント:バイなら


−−−この配信は終了しました。   



明日からのコーチング配信が何故か心配になった配信だった。あおいさんがvtuberの中でも上澄みだって事が分かったからだろうか。急に緊張が……いや、待てよ?喋らなかったら緊張してるってバレないからいけるか?喋らなかったら配信者としては終わってるが、コミュ障だからで通せるかもしれない。………流石にコーチング配信で喋らないのはヤバいか。頑張って喋るのが良いような気がしてきた。


「……abcxするか」


なんかごちゃごちゃ考えるの面倒臭くなった。こういう時は現実逃避に限るぜ!さっとabcxを起動する。マジで俺はabcxに囚われてるかもしれない。


「明日も大学あるし、少しだけしよう」


ついでにあおいさんのコーチング配信もあるしな。やりすぎたら明日の配信と大学生活に影響するから本当に少しだけ、少しだけやろう。


「…カジュアルでいっか」


少しだけ、少しだけだからね。 この後4時間ぶっつづけでプレイしたのはまた別の話。

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