第4話 「abcxカジュアルフルパ」(突発)

俺は昔から頼まれたら断れない性格だった。仕事しとけば、誰かと話すことはないだろうという安直な考え。だが、今回はその性格が災いした。このまま配信を続ければ俺の身体はぶっ壊れるだろう。だが、その性格ゆえ−−−


「カイさん!あおいちゃんと僕とやりましょう!」

「は、はい」


断ることができなかった。もうどうなっても良いって思おう。開き直ろうぜ〜!炎上なんてしたらその時考えよう。うん、それでいい。てか、まだ配信続いてるよね?


コメント:あおいさん来たw

コメント:めっちゃ急だな

コメント:これが空色ライブかぁ



「イツキの配信見てたらやりたくなったから連絡したけど大丈夫だった?」

「いやいや、大丈夫ですよ〜!タブン」

「なら良かったよ」

「す、すいません水無瀬さん」

「どしたの〜?」

「喋れないかも……です」

「あっ、そっか」

「どういうこと?」

「えーと、カイさんコミュ障です」

「なるほど」


コメント:知ってた

コメント:ですよねー

コメント:普通に納得されてて草


納得されました。まぁ、そうですよね。コミュ障な俺が悪いけど、これでもちゃんと喋ってる方なんです。許してください。


「大丈夫ですか?如月さん」

「た、タブン大丈夫で、す」

「大丈夫そうですね。じゃあabcxやっていきましょう」

「わ、分かりました」

「やってこう〜!」


そんなこんな話ている間にabcxを起動し、いつも通りのロビー画面の所からフレンドリストを開き水無瀬さんのパーティーに入る。すでにあおいさんはパーティに入っていたので俺が最後らしい。……あおいさんの事何も知らないからマッチング待ってる間に調べよ。


「ち、ちょっとミュートしますね」

「分かった〜」


さぁ、あおいさんの事を調べよう。グーグレ先生頼みます。えーっと……



青空あおい 年齢?? 性別 女 大企業のお嬢様らしいが詳しい事は分からない。人生に刺激が欲しかったから活動を始めた。色々と世間知らずな所もあるが、お嬢様(笑)なので許してほしい。年齢は聞かない方が良いらしいですよ?


これ公式の紹介文だよね?なんか(笑)とか入ってるけど、偽物じゃないよね?


「ん?」


青空あおい−−−1期生?…………マジ? 1番最初にデビューしてるの?ということは4年ぐらいやってんの?配信者。 マジの先輩じゃあないっすか。……水無瀬さんはあおいさんのこと『あおいちゃん』って呼んでたよね?え…水無瀬さん後輩だよね、めっちゃフレンドリーじゃね?まぁ、水無瀬さんのコミュ力高すぎるだけな気もするが。勝手に納得している間にマッチング音が聞こえた。


「あっマッチした〜」

「やっていきましょう」

キャラの選択画面になった所でミュートを解除する。

「お、お待たせしました」

「何してたの〜?」

「ちょ、ちょっとトイレに……」

「カイさんどのキャラ使う〜?」


綺麗にスルーされた。本当はトイレに行っていないが、あおいさんのこと調べてたなんて言いにくいからね、しょうがないね。


「あっ、ハンブラー使います」

「じゃあ私はジャンキラーで」

「僕はいつも通りレイサー使うよ〜!」


3人のキャラ選択が終わり画面が切り替わる。


「ゆっくりやるためにここに降りましょう」


あおいさんがピンを指したのはこのマップで1番人気がない場所だった。マップの端っこなせいで安全地帯に入るのが難しいためだ。ランクなら行かないがカジュアルなのでゆるくプレイするのなら降りるのに適しているだろう。


「オッケー!」

「り、了解です」


全員がしっかりと着地し、武器やアーマーを探し始める。ここは物資は普通ぐらいだからそんなに悪い場所じゃないんだけど悪い印象がついてるからなのか分からないが、敵は誰もいなかった。


「敵いなくて良かった〜」

「ゆっくり話したいのでラッキーですね」


abcx配信のカジュアルゲームではランクマッチ程の緊張感はなく、ゆったりと話す為のコミュニケーションツールとして使われることもある。日頃からabcxをプレイしている配信者は楽にコミュニケーションを取れるし好きなゲームを楽しめるので一石二鳥である。


「さて、如月さん。頼み事があります」

「は、はい!何でしょう?!」

「次の大会のコーチングお願いできますか?」 「は、はい?」

「えっ?」


なんか急にぶっこまれた。配信ついてますよね?配信中にそんな依頼していいんですか?


「急に頼んでごめんなさい。けど、次の大会までにどうしても強くなりたくて……」

「つ、次の大会ってなんですか?」

「配信者カップです」

「あーなるほど……」


空色ライブを知らなかった俺でも知っている配信者カップは、その名の通り配信者を集め開かれる大会だ。それなりに大きい大会で、顔出しをしている配信者は会場に行って参加することもある。あおいさんはvtuberだからオンラインで参加だと思われる。不定期に開催されており、次はいつ開催されるか分からないのが難点だが、人気の配信者が多く集まるので人気が高い大会でもある。


「元プロゲーマーの人とかいるもんね〜」

「そうなのよね……味方の人も強いし自分が足を引っ張るんじゃないかと思って……」


配信者カップは今、水無瀬さんが言ったように元プロゲーマーの人がいたり全体的にレベルが高いから自分が活躍できなかったら、という不安も大きくなるだろう。いくら配信歴が長い人でも大舞台では緊張するものである。



「如月さんはイツキへのコーチングをみる限り、ちゃんと改善すべき所を言ってくれそうだしお願いしたいなと思って」

「う、うーん……」

「いきなりだったから断ってくれてもいいんですよ?」

「……わ、分かりました。やります」

「本当ですか!ありがとうございます!」


本当に俺はさぁ……まだちゃんと喋れないだろうにOKするんじゃないぞ。マジで俺という人間は頼み事を断れなさすぎではある。直さないとなぁ……………直せる気がしないなぁ。


「良かったね!あおいちゃん!」

「えぇ!良かったです!」

「み、水無瀬さん。し、知ってたんですか?」 「うん!明日の配信で一緒にやる予定だったけど、頼み事を早くしたくてカイさんがいる今日の配信に来たんだ!」

「あ、明日の配信?」

「明日の配信に誘う予定だったんだよ?」 「そ、そうだったのか…」

「予定の前倒しだね!」



………良かった〜前倒しで。マジで今日やれて良かった。 明日も一緒にやったら流石にまずい、俺が。というか今も大分きつくはある。頑張りすぎてます。1ヶ月にいつも喋る量を大幅に超えてます。もし、これからも彼らと関わるのなら、喋る努力をもっとしなければならない気がする。大丈夫か?俺の身体。今年はまだ半年ものこってるんですけど。来年になったら俺死んでるかもしれない。


「移動しましょう」

「はーい!」


うわぁ!急にabcxに戻るなぁ!まぁまぁ真面目な話してましたよね?こ、これが空色ライブなのか……


「結構部隊数減りましたね」

「後、7部隊だ!」


abcxは1試合20部隊のため後7部隊になっているということは、話している間にがっつり減ったらしい。


「と、とりあえずそっちの家が空いてるから行きましょう」

「分かったわ」

「わかったー」


7部隊なら、まだ戦わなくても良いだろう。俺のabcxでの基本スタイルは『戦わない』だ。わざわざリスクがある戦いをしない、という事だが。でも、初心者の内は戦った方が伸びるかもしれない。そこらへんは人によるので決めつける事はできない。


「あっちで戦ってますね」

「あっちでも銃声がしてるから戦ってるっぽいね!」

「つ、次の安全地帯決まるまで待機で」

「オッケー!」


このまま戦いが続くならまだ戦ってない他の部隊が漁夫りに行くだろう。そうなれば俺たちの部隊が戦わず楽に部隊が減っていく。今の戦いで2部隊が減るのは確定。その次がどうなるか−−−


「安地ズレましたね」

「移動しますか?カイさん!」

「え、えっと、移動しましょう」

「どっちに行くんですか?」

「な、なるべく戦わない方へ」

「じゃあそっちじゃない?」

「い、いいですね。行きましょう」


水無瀬さんが思ったよりも良い場所をピンで指してくれた。その判断がすぐにできるようになったなら今よりもっと上手くなるだろう。


「待って!そこに居るわ!」

「り、了解『敵を探知する』」


1部隊が次に向かう所の近くに隠れていた。あいつらを倒さなくては安地には入れない。戦う必要しかない。


「た、戦いますよ!」

「じゃあ、スモーク使うね」

「分かったわ」


ハンブラーのスキルによって敵の位置は把握しているので、スモークを使っても問題ない。だが、相手のキャラは何か分かってないから慎重に動く。


「グレネード投げますね」


あおいさんが投げるグレネードはabcxにおけるアイテムで3つの種類がある。1つ目は普通の丸いグレネード。2つ目は閃光弾。3つ目は相手の身体に付くグレネード。今回あおいさんが投げたのは丸グレだった。丸グレはどのバトルロワイヤルゲームにも大抵存在するアイテムである。abcxも例に漏れず登場している。abcx内の性能に関しては普通に強い部類であるが投げた後、コロコロと転がるので当てるのが難しい。だが、あおいさんはグレネードをそのまま投げなかった。上を向き投げたのだ。


「1人倒したわ!」


グレネードは見事に直撃し1人を倒す事に成功する。あおいさんの行ったテクニックは直グレと呼ばれている高等技術だ。丸グレは投げた後、約4秒程度で爆発する仕様を使い、上にグレネードを投げたのだ。


「ナイス!あおいちゃん!」

「お、俺も倒した!」


急に1人がグレネードで倒されたから混乱したのか動きが止まっていた1人を倒すことができた。


「僕も倒した!」


水無瀬さんもスモークを使い近づき、そのまま敵を倒したらしい。やっぱエイムがいいから火力が出るな。


「倒しきったのであっちに行きましょう」

「りょうかい〜!」


あおいさんはグレネードが上手いからジャンキラーを使っているのだろうか。ジャンキラーは通常のキャラが1つしか持てないグレネードを2つ持つ事ができる。多くのグレネードを持てるという事はそれだけ戦略の幅が広がるという事。だが、ジャンキラーはヒットボックスが大きいのと、アルティメットやスキルの強さ故にヘイトを集めやく、大会やランクでは自由に動く事ができないという弱点がある。もしあおいさんがジャンキラーを使いこなせたら大会では脅威になるだろう。まぁ、そのジャンキラーの使い方教えるの俺だろうけど。


「後4部隊ですね」

「あっ、1部隊減った」

「じゃ、じゃあこのまま2部隊になるまでキルログをしっかり見ときましょう」


コメント:なんかランクみたいな動きしてて草

コメント:カジュアルとは……?

コメント:カジュアルはランクだった…?


コメント欄を見てみるとカジュアルなのにランクみたいな動きしてると言われている。仕方ないじゃん?俺はランクばっかやってんだからさぁ!たまにカジュアルもするけどそれは自分のフィジカル上げるためだし……


「ラスト部隊になったよ!」

「い、行きましょう」


銃声がバリバリなっていたので位置は大体把握している。ピンを指し、敵のいる方向へ一目散に向かう。


「おらぁ!僕らのお通りじゃあ!」


相手も俺たちが来るのは分かっていたのだろう。だが、戦闘の後でしっかりと回復もできていないはずだ。回復前に倒しきるのが1番手っ取り早い。


「う、ウルトとスキル使います」


ハンブラーのアルティメットを使い相手のスキルを封じる。同時にスキルも使い相手の位置をさらに正確に把握する。


「1人やったよ!」


回復のできていない相手にはオーバーキルであろうレイサーのアルティメットを使い1人を倒した報告を水無瀬さんから受ける。


「こっちもやりました」



こちらも同じくジャンキラーのアルティメットを使い、爆殺したらしい。………どちらもオーバーキルである。なんか相手が可哀想になってきた。


「こ、こっちも…倒しました!」


倒しきった瞬間、1位を取った時にでるエフェクトが画面を埋め尽くした。


 「ナイス〜!」

「いい爆殺でしたね」

「な、ナイスー」


………もしかしてあおいさんのabcxってジャンキラーしか使ってないんじゃないか?発言が完全にジャンキラー本人なんですけど。


コメント:ナイスー!

コメント:ナイス1位!

コメント:最後オーバーキルで草

コメント:なんか爆殺楽しんでる人いる……

コメント:これが空色ライブ1期生の力か……


「まだまだやりますよ」

「やってこ〜!」

「…………え?」





「今日はありがとうございました」

「うん!あおいちゃん来てくれてありがとう!」

「いえ、無理言ったのに……」

「いいよ!楽しかったし!またやろうね〜!」 「ありがとうございました」


ポロンと音がして

あおいさんがデェスコから抜ける。


「みんなも見てくれてありがとねー!」


コメント:楽しかった!

コメント:またやってくれ

コメント:突発だったけど楽しかった!



「じゃあ明日の配信も見に来てね!ばいばい!」


コメント:おつかれー

コメント:明日も見ます!

コメント:最高でした!



−−−この配信は終了しました。


「あぁ!楽しかった!!」  

「そ、そうですね」

「大丈夫?カイさん」

「だ、大丈夫です」


結局配信はコーチングが終わるまでが1時間半。あおいさんが来てからも1時間半。合計で3時間の配信だった。流石にボロボロです。俺の精神&身体。コラボ配信初めてで 3時間も良くやれたと思う。


「お、俺喋れてましたか?」

「コミュ障って言ってた割には喋れてたよ!」 「そ、それなら良かったです」


喋れてたのか俺。頑張りすぎてます。明日死んでないか、それが心配です。


「今日は終わりです!明日もお願いしますね!」 「あ、明日は勘弁してください……」

「まぁ、頑張ってくれたから良いよ!」


良かったぁ、ちゃんと断れた。流石に断るしかない。今日と同じように配信できる気がしない。今日は頑張りすぎでないか?


「じゃあ……3日後ならいける?」

「た、多分大丈夫です」

「なら、そこでお願いします!」

「は、はい」  

「今日はお疲れ様でした!また3日後に!」 「わ、分かりました」

「じゃあね〜!」


デェスコを抜ける音がし、俺1人になる。今日は久しぶりにちゃんと人と喋った気がする。だが、疲れまくりだ。喋れたのはいいが毎回こんなに疲れてたらヤバい気もする。


「今日はもう寝るか……」


時間は23時前。寝るには早すぎる時間帯だ。でも、寝れそうである。明日は大学行って…………諸々考えていたら、 意識が遠くなっていく。あ、これ寝るわ。そう思った瞬間、俺はベッドの上で意識を手放した。

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