第48話 漢女の凱旋
ジョセフィーヌは歩を進める。
その接近に対してオークキングからは執拗に氷の矢が放たれるが、ジョセフィーヌはそのことごとくを瞬時に蒸発させていく。
「『
淡々と発動されるジョセフィーヌのスキル。
その発動の詠唱には、心なしか怒りの感情が乗っているかのように感じられる。
「ブタの大将もどきが」
ジョセフィーヌの声色が変わる。
さっきまでの女性的? な声はなりを潜め、男性的な野太い声色へと変貌を遂げる。
「随分と調子に乗りやがって」
声色だけでなく、その口調までも。
「わたしの大切なウサギちゃんを傷つけやがって」
「だからっ! ウサギさんはジョセフィーヌさんのものじゃないからっ!」
オークキングの氷魔法も、シャリエの心からのツッコミもジョセフィーヌには届かない。
「あなたは、
そして、キングのすぐ前まで歩み寄ったジョセフィーヌは、その口調をまたもオネエ言葉に変えてキングと対峙する。
「あなたに、罰と赦しを与えるのねん」
キングの表情? が得体のしれない恐怖に慄く。
「『
ジョセフィーヌが
バチィ!
ジョセフィーヌの腕がオークの身体に接触した刹那、オークの防御スキル『雷纏』が発動して周囲は稲妻のような光と轟音に包まれる。
白い霧に包まれた中での光と音の奔流は、まるで空に漂う雷雲の中でいななく稲光を彷彿とさせている。
グオオオオオオオオオオオッ!!
それに一瞬遅れて響くオークキングの悲鳴。
雷の奔流と、漢女の抱擁との激突。
霧に遮られてその様子ははっきりと視認が出来ないが、輝く雷光とバチバチという電気音に、その出所から響くオークの悲鳴。
その様子から、その霧の中では大きなチカラと意思が相手を屈服させるべく、互いが互いを滅しようとする衝突が起きていることを周囲の者は感じざるを得ない。
そして、いくばくかの時が過ぎると――。
周囲の霧は先ほどまでこの周辺を席捲していたのが嘘であるかのように晴れ、衆目の前には屹立する一人の漢女。
大樹の青葉を思わせるような広がりを見せるアフロヘアーを、電撃の影響で精密な木の削り端のようにカールさせたパンチパーマに変化させたジョセフィーヌが姿を現す。
その足元には、元はオークキングであったと思われる、絞られ過ぎたぼろ雑巾のような物体が一つ、物言わぬ骸と化して横たわっていた。
「ウサギちゃん。カタキは討ったわよん」
「「「ウサギさん(ちゃん)は死んでないよっ!」」」
◇ ◇ ◇ ◇
この日、辺境の街、ケイテラレントを襲った
何故、比較的穏やかなドトフトの森で魔物の氾濫がおきたのか。
何故、オークの最上級個体であるオークキングがこの辺境の森に現れることになったのか。
何故、オークキングは魔物の群れを従え、人々を狙って街を襲ったのか。
そのすべては謎のまま。
だが、一つ確かなことがある。
それは、今日、ケイテラレントの街は騎士団や冒険者たちの活躍によって救われたという事である。
◇ ◇ ◇ ◇
A+ランク冒険者、従魔士のジョセフィーヌ。
討伐には騎士団一個中隊を要すると言われるオークキングを単身で討伐する。
その報は、ケイテラレントの街中に届けられ、街は歓喜に沸いた。
「ありがとー!」
「さすがだぜ! あねごーー!!」
「トラ太郎ちゃーん! かわいーー!」
「ジョセフの兄貴! さいっこう!」
「ジョセフィーヌさんと呼べゴラァ!」
誇らしげに街の中心部を凱旋するジョセフィーヌと、その足元を歩くトラ太郎。
一部周囲を恐怖に染めるやり取りもあったものの、街の人たちはジョセフィーヌを英雄として誉め称えた。
◇ ◇ ◇ ◇
街の大通りでジョセフィーヌを称える喧騒が広がる中。
ハクトは、街の宿屋の一室で目を覚ます。
――はっ
ここはどこだ。
ここは――建物の中か。
オレが人間であれば、いわゆる見知らぬ天井が目に入っていたかもしれないが、いかんせんうつぶせで眠っているウサギのオレの目に入ってくるのは寝具の色と思われる
寝具――、寝具かぁ。
なあ、信じられるか?
オレ、この異世界に来て初めてオフトゥンで寝てるんだぜ?
これまでの地面の穴とか木の洞とか洞窟の中で草を敷いて寝ていた寝心地とは段違いだ。
「あっ、ウサギさん! よかったっ! 目が覚めたんだねっ!」
そして、オレを看病してくれていたのは『煌めきの狩猟団』のヒーラーで分厚い胸部装甲を持つヒーラーの少女。
たしか、名前はシャリエといったか。
「もうっ!
ああ。
オレは負けたんだな。
人語と氷の魔法を操るオークキングを倒して、さらなる強さ、それに獣人へと至る要素を得ようと思っていたのだが、どうやらそううまくはいかなかったらしい。
「でもっ! 無事でいてくれてほんっとうによかったよっ!」
そして、この少女に命を救われたのだな。
ありがたい。
あったかい。
訳も分からず日本から異世界に飛ばされて。
ちょっと気を抜くとあっという間に死んでしまう環境で。
毎日、毎時、毎分。
独りぼっちだった。
気づかないようにしてはいたが――寂しかった。
今日。
今。
オレのことを心配してくれている人がいる。
オレの無事を喜んでくれる人がいる。
なんて、心があったかいんだ。
ふと気が付くと、オレのウサギの目からは温かい液体がにじみ出てきていた。
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この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!
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