第47話 オークキング②

――シャリエ視点――



「ウサギさん!」


 いきなり突進していったウサギさんがオークキングの心臓を貫いたかに見えた瞬間、なにかバチィッ! という音と共にまばゆい光を発したかと思ったら、オークのこん棒でしたたかに殴られて吹き飛ばされてしまった。


「いかん!」


 その光景を見ていた騎士団長さんとギルマスが弾かれたようにキングに向かって突っ込んでいく。


「ウサ公を確保しろ!」


 ギルマスの叫び声に、いち早く動いたのは猫獣人で武闘家のマルティ。それにコビットで盗賊のカートが続き、人族戦士のガルヌ、ドワーフ斧使いロバルツ、ハーフエルフ魔法使いのパーリフォーシュと、そしてボク、人族ヒーラーのシャリエが続く。



「騎士団、衛兵は散開して包囲! 魔法に気をつけろ!」


 そして団長さんの指揮のもと、キングに対しての包囲網が形成されていく。


 とはいえ、相手は屈指の実力を持つオークキングだ。


 包囲とはいっても遠巻きに囲むことしかできず、いくら騎士団と言ってもこの戦力では包囲殲滅とは至らない。


 絶えずキングの背後に位置するを置くことでけん制を続けるのが精いっぱいといったところである。



「ウサギちゃん! まだ息があるにゃ! シャリエ!」


「わかったよっ! ハイヒール!」


 ウサギさんを抱きかかえたマルティの声でウサギさんの無事を確認し、すぐさま治療の魔法を唱える。


「‥‥‥ひどい」


 マルティの腕に抱かれているウサギさんは、体毛が真っ黒に焦げて、まるでぼろ雑巾のようにぐったりとして体中が血だらけになっていた。


「ウサ公殿の攻撃が決まったように見えたんじゃがな。一体何が起こったのじゃ?」


「ええ、ハクトさんが攻撃した瞬間に発生した光と音。おそらくですけれど、あのキングは雷を纏う防御、『雷纏らいてん』を習得していると思われるわ」



「なんじゃと?! 身体に雷を纏うなど、それではワシの斧でも攻撃は出来ないじゃないか!」


「そうだな。斧や剣といった金属製の武器での攻撃は出来ない。騎士団と衛兵のみなさん! 攻撃してはいけません! 雷で焼かれます!」



 ロバルツの疑問を受けてパーリフォーシュが導き出した推論を、ガルヌが大声で友軍に共有する。


「むーん、ウサっさんが突っ込んでくれなきゃ、みんな雷に焼かれちゃってたってことだーね?」


 ウサギさんは、自分の身をもってボクたちにキングの危険性を教えてくれたの?


 なんて、なんておりこうさんなウサギさんなんだろう。


 いや、単におりこうさんってだけじゃない。ボクたちを仲間と認めてくれて。ボクたちと一緒に戦って。そして、ボクたちを守ってくれて。


 なんて気高い精神を持ち合わせた魔物さんなのっ?


 人族や亜人族にだって、こんなに立派な精神を持った人はそうそういないよっ!


 助けなきゃ。


 こんな素晴らしいウサギさん。絶対絶対助けなきゃ!


「ハイヒール! ハイヒール!」


 ボクは必死にウサギさんに回復魔法をかけ続ける。





◇ ◇ ◇ ◇


「『火の壁ファイヤーウォール』!」


 直接攻撃が無理と見るや、パーリフォーシュがLv6まで育てた火魔法を使い、騎士団さんたちに包囲されているキングに攻撃を仕掛ける。


 氷の魔法を使うキングには火の魔法が有効かもしれない。


「‥‥‥耐えられたレジスト?」



 キングの周囲はうずたかい炎に包まれたが、体毛を少し焦がした程度でほとんどダメージは通っていないように見える。


「‥‥‥そうか、『雷纏』を使えるという事は、氷属性に加えて雷属性も持っているのか? 雷属性を前面に出されては火属性も弱体化されてしまうのか」



「『劈矢へきや!』」


 カートが対象に貫通効果のある弓のスキルを放つも、キングの硬い外皮に阻まれ、刺さることなく矢が弾かれた。


「むーん、魔法もダメ、弓矢もダメ。剣や槍は言うまでもないと。手詰まりだーな」



 キングを包囲している騎士団や領兵の武器は剣や槍といった金属製の直接攻撃の武器であり、雷属性のカウンターを喰らわせられる防御に対しての攻撃手段がない。


 それならばと遠距離攻撃の手段を持つ『煌めきの狩猟団』が魔法や弓での攻撃を試みるも有効打にはならず。



 カートの言葉通り、手詰まり感が漂ってきたところで。


「わたしたちの出番のようねん?」


 オークキングとはまた違う、周囲を押しつぶすようなプレッシャーを発して前に出る漢女おとめがいた。








◇ ◇ ◇ ◇


「わたしのかわいいウサギちゃんをずいぶんとかわいがってくれたじゃないのねん」


「いや、ウサギさんはジョセフィーヌさんのものでは‥‥‥」


 必死に回復魔法をかけ続けるボクのツッコミも意に介さず、ジョセフィーヌさんはゆっくりとキングに向かって歩を進める。


 その歩みは、悠然。


 その接近に気付いたキングが太い氷の槍を放つ。



「『熱い口づけブレイジングキッス』」


 その氷の槍が、ジョセフィーヌさんの投げキッスを受けて瞬時に蒸発する。 



「な‥‥‥」


 キングは何度も氷の槍を放つも、そのことごとくが投げキッスで蒸発させられ、街の前の広場にはその蒸気が立ち込めてまるで霧が出たように視界が曇る。


「さて、いくわよん」



 霧に閉ざされた視界の中、ジョセフィーヌさんのどこか楽し気な声が響き渡る。 






 

  ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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