第45話 戦場の混沌
「がるるるるるるる」
「あらん? トラ太郎ちゃん張り切っているわねん? ああ、ウサちゃんに先輩風でも吹かせたいのかしらん? もう、まだまだそんなところがおこちゃまねえ? でも、そんなトラ太郎ちゃんはわたしは好きよん?」
今は、ケイテラレントの街に向かってくるスタンピードの防衛戦の真っ最中。
事態は最悪ではないが決して良好でもなく、前半戦で消耗した冒険者や自警団の面々は街の中に避難させており、この後の決戦は少数精鋭でいまだ多くの数を残す魔物の群れに相対するという、悲壮感が漂ってきてもおかしくない状況である。
だが、そんな真剣な空気はとある人物の登場によって、一気に怪しいピンク色? に変わってしまった。
その空気は、華々しくもあり妖艶でもあるのだがそれよりも不気味さが大きく上回るという、言葉では表せないほどの混沌に満ちた物であった。
これから強力なオークたちの群れが襲ってくるという時に現れた強烈な援軍。
疲労の色が濃くなっていた防衛軍からしてみればこれは朗報であった。いや、悲劇と感じる者もいたかもしれないが、皆は暗黙の了解で朗報である、朗報なんだと自らの心に決死の努力を用いて言い聞かせた。
「さあて? みなさんお疲れちゃんなのよねん? だったら、ここはわたしたちに任せてもらおうかしらねん? いくわよ、トラ太郎ちゃん!」
「がるっ!」
そう言うと、筋肉隆々の漢女としなやかな体躯を持つコンビは風よりも早く敵陣に突っ込んでいき、その方向からは激しい打撃音とオークの悲鳴のような断末魔が聞こえてくる。
このオークたちは、森の中にいた通常の個体よりも圧が強い。
おそらくは、上位個体までとはいかなくても何らかのボス的な存在によって実力を底上げされていることは確実な、強力な個体であることは疑いようがない。
だが、そんな強力なオーク共の群れに飛び込んで行ってなんの危なげもなく暴れまわる一匹と一人。
トラ太郎さんは、「がるっ、がるっ」と言いながら、前足によるビンタや頭突きでオークの群れを蹂躙する。
いや、サーベルタイガーなんだから牙で攻撃するんじゃねえの? という皆の心のうちのツッコミを言語化させないほどの圧倒的なビンタと頭突きのラッシュである。
そして、我らが漢女のジョセフィーヌさん。
「あら~ん、いい子ちゃんねぇ?」と言いながら、オークに次々と熱い抱擁を与え、そして同時に死を与えている。
まさに死の抱擁であり、中世の処刑器具、『
「ものすげぇ‥‥‥」
騎士団の中のチャラ男、セブリアンが顔面を蒼白にさせながらそうつぶやく。
この理不尽で不気味な桃色の死の臭い漂う戦場にて、このつぶやきは必ずしも適切ではなかったかもしれないが、その心情を言語化出来た肝の太さは称賛されて然るべきなのかもしれない。
そのつぶやきを契機に、正気を取り戻す者もあらわれる。
「はっ! 皆の者! ジョセフィーヌ殿に続くぞ‥‥‥いや、続かずともよい! 我らも突撃だ! 隊列整えーーー! 進軍!」
SAN値耐性が高いと思われる騎士団長のエルネストさんが一番先に我に返り、騎士団と衛兵に突撃を促す。
「おっ、俺たちも続く‥‥‥続かずに突っ込むぞ! 俺たちは遊撃だ!」
それに続いてギルマスのルシアノさんが気を取り直す。
騎士団長さんと言いギルマスと言い、そこまでしてジョセフィーヌさんに続きたくはないのかというツッコミを心のうちに抑えながら、我ら『煌めきの狩猟ウサギ』とギルマスの7人と一匹の冒険者たちは戦場に散らばっていく。
そこからは、激戦であった。
ジョセフィーヌさんとトラ太郎がオークの群れという陣形をかき乱し、そのあとに続く騎士団10名が面で制圧。そして騎士団の背面に回り込まれない様に我ら冒険者軍団が遊撃に回ることにより、時間はかかるもののオークの群れはその姿を減らしていく。
「くっ! こいつら、本当にオークなのか? かつて討伐したハイオークにも匹敵する膂力と防御力だぞ!?」
『煌めき』のリーダー、ガルヌさんがオークと対峙する。
「ああ! じゃが、ウサ公殿の指揮下に入ったからなのか体が軽い! これなら、行けそうじゃ!」
そして斧使いのロバルツさんが手ごたえを語る。
さすがBランクのパーティーだけあって、その戦いには危なげがない。
「魔法行くわよ? 巻き込まれないでね」
「にゃー! だから私がまだいるのにゃー! わざとなのかにゃー!」
何だか楽し気? なパーリフォーシュさんとマルティさん。
いつもこんな感じなのかな? うん、なんだか余裕そうだな。
オレも負けじとオーク共の心臓を角で貫き、喉を牙で掻っ切っていく。
牙で喉を掻っ切ったときにトラ太郎さんがなにやらうらやまし気な目でオレを見ていたことはスルーしたかったのだがどうしても気になってしまった。
トラ太郎さんもこのスタイルで戦いたいのかな? サーベルタイガーだしね。なぜこのスタイルで戦えないのかは知らん。もしかして、その牙や唇や口に触れられるのはジョセフィーヌさんだけと決められているのだとか? いや、考えるな。考えてはいけない。
そんなこんなでオーク共を屠っていくと、その奥からひときわ強力な圧を放つ魔物が姿を現したのだった。
ーーーーーーーー
この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!
もし、少しでも『面白い』『続きが呼んでみたい』等々の感想を抱いていただいたのであれば、作者のモチベーションに繋がりますので、★や♡での応援や、フォローやコメントをいただければ幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます