第44話 A+ランクの漢女

「あらん? どうにか間に合ったみたいだわねん?」


 強烈なプレッシャーを発する魔物のボスに勝るとも劣らない強烈な気配。


 そこに現れた、気配とは裏腹に緊張感のない声の持ち主。







 そのいでたちは――△◇※α$&●□-?





 繊細な絹糸を熟練の職人が丹精込めて巻き上げたようなアフロヘアー――。


 美の女神が造形したかのような凹凸のしっかりとした美しい顔立ち――。


 高貴な強者たちがその美を奪い合って二つに割れたかのようなケツアゴ――。


 世界中の稀少な鉱石を錬金して創造したかのような輝く胸板――。


 戦の神の寵愛を一身に集めるかの如く魅力的に発達した大殿筋――。


 他にも、枚挙を問わぬ美しさの結晶――、


 ああ、神よ、


 なぜにあなたはこのような素晴らしい存在を――――「ウサギさん! ウサギさん!」


「はっ!」


 オレは何をしていた?



「あらん、抵抗レジストされちゃったわねん。だめよん、邪魔しちゃあ」


 我を取り戻したオレの目の前に屹立しているのは――


 筋骨隆々なアフロヘアーの、妙にクネクネした動きを見せる漢女おとめであった。 





「はあ、ジョセフィーヌちゃんっ! ダメだよっ! いきなりテイム掛けちゃ! ウサギさんはもうボクたちの仲間なんだからねっ!」


「あらーん、そうだったのねん? ごめんなさいね? かわいいウサギちゃんだったからついねん? この子よね? 噂の彼? は。」



 オレは今、テイムされかかっていたのか? 


 この、このたくましい漢女に?



 なんと、何と恐ろしい!


 オレはさっき、この漢女がとても魅力的に見えていた!


 もう、心も体も捧げてもいいと思えるほどに‥‥‥。


 もし、シャリエがオレの意識を現実に引き戻してくれていなかったら?!


 

 ガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブル



 やべえ! 身体の震えが止まらねえ!


 テイムとは、何と恐ろしい代物なのだ!




「おい! ジョセフィーヌ! 間に合ってくれたのはいいが勝手な真似をするんじゃねえ! このウサ公はいまや防衛戦力の要なんだぞ! おめえの毒牙にかかって使えなくなっちまったらみんな困るんだ!」


「あらいや~ね~、ギルマスったらん、毒牙なんて。乙女にはやさしくするものよん?」



「だれが乙女だ!」



 オレが戸惑いの極致にいると、それを察してくれたのかガルヌさんがこの状況を説明してくれた。


「あの人‥‥‥人だよな。あの人は、ジョセフィーヌさんと言って、普段は王都の冒険者ギルドで活動している凄腕のA+ランクの冒険者で従魔士テイマーなんだよ。ハクト君の噂を聞いてこの街に向かっていたんだけれどトラブルがあって到着が遅れていたんだ。スタンピードの情報が入って、本当は今日の防衛戦でも最初から戦ってもらうはずだったんだけど、まあ、ここ一番にまにあってくれたって感じだね。」



 なんと?


 オレの噂を聞きつけてわざわざ王都というところから来たんですか?


 何のために?


 従魔士テイマー


 ってことは、オレをテイムしに?




 ガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブル



「ジョセフィーヌ殿! ウサギ殿が怯えていらっしゃる! どうか、ここは引いて下さらんか?」


 ナイスフォローだ騎士団長さん!



「むーん、Lv19のホーンラビットの亜種をここまで怯えさせるなんてさすがA+ランクだぜ」



 どうにか身体の震えを抑え、おそるおそるジョセフィーヌさんの方を見ると、その足元には見事な毛並みの体長2mはある、牙の長い虎さんが控えていた。


「あらん? ウサちゃん、うちの子に興味があるのん? この子はねん、わたしの従魔でトラ太郎って言うのよん。仲良くしてあげてねん?」



 と、トラ太郎‥‥‥!


 見るからに精悍なサーベルタイガーなのに、そのお名前はいかがなものかって思いますけど?


 そう思ってトラ太郎さんの方を見ると、何やら諦観した表情でオレのことを見つめていたのと目が合った。


 その瞬間、トラ太郎さんの心情がオレの意識に流れ込んでくる。


『なあ、ウサ公。おまえは、おれのことを憐れんでくれているかもしれねえ。でもな? 世の中には長いものに巻かれちまった方が楽なことってのも確かにあるんだぜ。このお人は、こんななりだが心は純粋な乙女なんだ。そんなお人をな。支えてやるって言う人生、いや、虎生もまた捨てたもんじゃないってことだけは分かっておいてくれ。思えば、おれと姉御との出会いは衝撃的だった。当時のおれは森の中での一匹狼でな。いや、虎なのに一匹狼ってのはおかしいな。ふっ、笑ってくれていいんだぜ。おれに遠慮はいらねえからな。なんてったって、お前さんは姉御が認めた野郎なんだからな。野郎? いや失礼。ウサギであるお前のことを野郎と呼ぶのもなんだかおかしいなっておれが勝手に感じただけだ。ああそう、そういえば姉御との出会いだったな。さっきも言ったがおれは森の中で一人、いや、一匹で孤独でな。周りの魔物たちを従えていたりはしたが、それは服従というよりも恐れられているといった感じでな。まあ、はっきり言うと寂しさも感じていたわけだ。そんなとこに現れたのが姉御だ。姉御は、おれのことを見ると恐れも侮りもなく、真っすぐにおれの目を見てくれたんだ。その時直感的に感じたんだ。ああ、この人間もおれと同じなんだと。笑っちまうだろ? 孤高の虎であるおれが一目会っただけの人間に心を許してしまったんだ。だがおれも素直になれなくてな? 思わず威嚇の遠吠えをしてしまったんだが、姉御はそんなおれのことを咎めるどころかな、逆に抱きしめてくれたんだ。あの分厚く硬い胸板がまるでお日様の陽だまりのように、あったかくて心地よくてな。それでおれは姉御についていこうって決めたんだ。まあ、おれはお前とは仲間になりそこなってしまったみてえだが、まあ、ここでであったのも何かの縁だ。これからよろしく頼むぜ、ウサ公さんよ』



 長えよ!






 こうしてオレの身の危険はどうにか回避できたのだが、とりあえずはこれからの魔物のボスとの決戦に向けて、強力かつ強烈な戦力が増えたことだけはよかったと思うことにするのであった。








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 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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