第32話 探されるウサギ

「あ! なんか小さなかまどがあるよ!」


 『煌めきの狩猟団』ヒーラーのシャリエが大きな樹の下に打ち捨てられたかまどを発見した。


 このかまどは、ハクトが木の洞ハウスの木の下で簡易調理をしていたかまどであり、洞窟に引っ越しするにあたり、撤去するのを忘れていたものであった。


「ほかの冒険者が野営の片付けを忘れたのかのう?」 


「それにしては小さすぎやしないかしら? ちょっと魔力残滓を読み取ってみるわね?」


 ハーフエルフの魔法使い、パーリフォーシュがかまどに向かって片手をかざす。


「うーん、この残滓は火を熾したのは生活魔法ね。この魔法だと使い手がたくさんいるから使用者の特定は難しいわね。あ、でもこのかまどは土魔法で形成されたものだわ。えっと、この魔力は‥‥‥? この魔力はこの辺の冒険者の魔法使いではないようね?」


「にゃー、ここに巣穴みたいな洞があったにゃー! なかは空っぽにゃー!」


 木の上に登って周囲を見渡していた猫獣人のマルティが、ハクトがつい先日まで住んでいた巣穴を見つける。


 もはやこの場所にはハクトの姿はない。だが、


「にゃー、中に真っ白い毛が残っているにゃ! この白さとこの匂いは、きっとあの時のウサギさんのものに違いないにゃ!」


 さすがに自然に抜けた体毛はその場に数本残っており、マルティは獣人ならではの嗅覚と観察眼でハクトの物であると結論付けた。


「なんだと? ということは、このかまどはあのホーンラビットが作ったという事か? いや、いくら知性を持っているとはいえ、こんなことが可能なのか?」


「ああ、そうなると、あのウサギは生活魔法と土魔法を使ったという事じゃろ? いくら何でもそんなことはあり得んわい」


「むーん、たまたま、どっかから流れてきた冒険者が、ウサギの巣の真下で野営を行ったとか?」


「そんな偶然あるのかにゃー?」


「ウサギさん賢ーい! ぜったい仲間にしたいー!!」


「ここが巣穴ということは、あとで戻ってくる可能性があるな。少しこの辺で張ってみるか?」


「さんせーい!」


 

 こうして『煌めきの狩猟団』の面々は数日この場に泊まり込むことになるのだが、すでに引っ越しをしていたハクトが現れることはなく、結局両者の2回目の邂逅はまだ実現しなかったのであった。



◇ ◇ ◇ ◇


 ヒクチョン!


「んー、誰か噂しているのかな?」


 オレは小動物ばりのかわいいクシャミをして思わず独り言ちる。


 そういえば、この体になってからクシャミするのって初めてじゃないかな?


 ウサギって風邪ひくの? いや、正確には魔物って風邪ひくのかってところか。あ、ステータス見ればわかるのか。うん、風邪とかデバフ状態とかにはなってないから大丈夫だな。


 それにしても、噂をされるとくしゃみが出るなんて本当かなと疑ったことがあったが、ウサギに関していえば噂されるのがストレスになって実際にクシャミが出るなんて話を聞いたことがあるな。


 ということは、誰か実際にオレの噂をしているのだろうか?


 するとすれば、最近狩り続けているオークさんかな? いや、奴らは噂話とかそんなことしないか。言語での意思疎通がとれているのかも不明だしな。


 考えられるとすれば、以前出会った冒険者くらいだと思うのだが。


 テイムされるという目標はもはや過去のものになってはいるが、最近オーク肉を食べ始めてウサ舌が肥えてきたオレは、人間の調味料にあこがれているのだ。


「うーん、テイムはいいとして、仲良くなって塩とかもらえねえかなあ? いや、運よく仲良くなれたとしても、どうやって塩を要求すればいいんだ? 食堂とか連れてってくれねえかなあ?」


 などと益体もないことを考えながら、オレは本日のお肉を確保するべく、オークさんの気配のする方に向かって行く。


◇ ◇ ◇ ◇


「おっと、これは集落ですな」


 オークさんの気配の方に向かって行くと、行く先に多数のオークさんの気配を察する。


 数は‥‥‥40匹くらいというところか。


 ところで、オークってどう数えればいいんだろう。人型だから〇人? 魔物だから〇匹? それとも〇体? 〇羽とか〇尾とかではないのは確かだが。


 いや、思考がとっ散らかったな。


 このオーク集落は、多分オレが今まで狩ってきたオークの所属していたコミュニティだろう。距離的にも、臭い的にも間違いない。くんかくんか。うわ、臭え。


 オークさんってゴブよりは知能が高いイメージがあるのだが、これだけ狩られても単独で出歩く個体がいるのを見ると、それほどオツムの出来は良くないようだな。




 単独で集落を離れたオークさんをストーキング。


 仲間が駆けつけないような距離まで離れたところで一気に近づいて首を落とす!


  ピギャー!


 これで本日もお肉にありつけることが確定したな、やったね。


 これまで結構な数を狩らせていただいたのだけれども、お肉の保存が出来ないからほとんど無駄にしてしまうのがもったいない。


 そしてお残しした部位(ほとんど)は、土魔法で地面を掘って埋葬させていただきます。なむなむ。ゾンビ化するなよ。






ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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