第13話 ケイテラレントの街

「いやー、あたいは死を覚悟したさね」


 女性5人のFランク冒険者パーティー、『紅鎌団』の重戦士、アルメルはここ『ケイテラレントの街』の冒険者ギルドの酒場でジョッキのエールを一息に飲み干すとそう語った。


「ああ、あんな禍々しい気配は冒険者稼業に就いてから初めてだったよ」


 次いで、魔法使いのロニーユも語る。



「もう! わたしなんて! 何をどうすればいいのかわからなくなっちゃってて! 必死で状態異常回復とか! もうそれだけで!」


「そこなんだがシレーヌ。あの状況では状態異常回復は致し方ないが、立て続けのバフは悪手だったぞ。それで相手のヘイトを呼び込んだら目も当てられん。お前は僧侶なんだからな。タゲを取らない様に立ち回れといつも言っているだろうが」


 僧侶のセリーヌと、軽戦士のカメリーがそれに続く。



「もう、みんなったらボク一人を街に逃がそうとしてさ! 仲間を見捨てて逃げるなんて、本当に泣きながら走ったんだからね!」


 そして、街への連絡に走らされた斥候のハミイ。




 5人は森の浅層でハクトと出会ってから、それまで採取した薬草もその場に放り投げて全速力で街まで逃げてきた。


 もちろん、凶悪な魔物をトレインしていないか後方に十分警戒をしながらの撤退だ。


 逃走を始めてからすぐに体を覆いつぶすような凶悪な死のプレッシャーが霧散したことは感じてはいたが、街に着くまでは生きた心地がしなかった。


 本人の名誉のため個人名は出さないでおくが、二人のメンバーは漏らしてもいた。



「で、あの魔物は一体何だったんだろうな? 見た感じではホーンラビットだったが、あの森にはラビット系はいなかったはずだ。それに、ホーンラビットにしてはが段違いだった。」


「ええ。ヴォーパルバニーにしては牙も発達していなかったし‥‥‥。パキスリン大平原で確認されたというエンペラーラビットにしては体躯が小さいし‥‥‥」


「しょうがないさ。見たまんま、感じたまんまを書くしかないさね。はあ。ギルドへの報告書ってなんでこんなにめんどいのかね」






 

 『紅鎌団』の報告をもとに、今このケイテラレントの街には緊急警戒警報が出されていた。


 この後、正体不明のウサギ型魔物の討伐クエストを出すために、ギルドからは詳しい報告書を迅速に提出するよう言われている。


 少しでも詳しく精査してクエストの成功確率を上げるためでもあり、各国に散らばる冒険者ギルドに情報を伝達するためでもある。






 ここ、ケイテラレントの街の冒険者ギルドは、比較的初心者の割合が多い。


 そばにある『ドトフトの森』にはスライムやゴブリン、スネークや牙狼、角狼といった比較的弱い魔物が多く、他には森の奥の方にオークの存在が確認されている。


 この森には薬草の一大群生地があり、各街への薬草の販売や、同街に生産拠点を構える薬師ギルドへの売却や、そこで作られるポーション等を買い求めに来る商人たちでそれなりににぎわっている。


 そのため、冒険者の数は多いが前述したように初心者が多く、Fランクの『紅鎌団』でさえ上位とみなされる登録者構成である。

 ちなみに新規登録の冒険者はGランクからスタートとなっている。


 ちなみに、ハクトが心から求めてやまないテイマーは、若き女性なんぞはもちろん、ことオッサンから老人に至るまで探してもこのギルドには一人も登録していない。


「なあ、討伐クエストが出されても倒せる奴いるのか? こんな採取専門最弱ギルドによ?」


「そうですよね! たぶん! 領都のギルドに応援依頼が行って! それまでは森の中は立ち入り禁止になると思うのです!」


「ああ、おいらたち人間のステータスは大体20もあれば一人前と言われるが、あのウサギはAGTやSPDはその3倍くらいはあるんじゃねか? そんなバケモノ、最低でもCランクでもなけりゃ太刀打ちできねえって!」


 ギルド内ではこんなやり取りが為されており、『うら若き女性にテイムされる』というハクトの目標はどんどんほど遠いものになっていることをハクトはまだ知らない。 



◇ ◇ ◇ ◇


 もっさもっさ。


 はむはむ。


 もっさもっさ。


 はむはむ。





 やけ食いです。



 せっかく女性だけのパーティーを見つけて近づいて行ったというのに、テイムされるどころか恐怖の悲鳴を上げられて逃げられたとです。ハクトです。


 そのパーティーは、背負い袋に満載の美味い草(薬草)をその場に残して逃げて行ったので、もったいないから食べています。


 何が悪かったのだろう?


 こんなにかわいくて愛くるしいのに。




 ――ハクトはまだ知らない。


 この世界の人間のステータスは、騎士や冒険者など、戦いを生業とするもの以外の普通に暮らしている人たちは成人しても二けたに届くのがやっとだという事を。


 ステータスの数値の大幅な差異は、隠ぺい手段を持たない限りこの異世界では本能的な恐怖を相手に無意識に与えてしまうことを。


 そして、ゴブリン集落で大ダメージを与えたこん棒の一撃は、上位種であるゴブリンジェネラルの一撃であり、また同じく魔法で攻撃してきたのは魔法を使う上位種のゴブリンビショップであり、Eランク帯以下の冒険者であればどちらかの一撃だけで致命傷であったことを。

 


 つまり、ハクトは可愛い見た目でも、中身はすでに人間からしてみるとバケモノ並みに強くなっていたのである。





ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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