第6話 ハンターウサギ

 どうやらオレは夜行性だったようだ。


 道理で眠れねえはずだわ。


 ということで、オレはせっかくほりほりした巣穴を後に、森の中を探索する。



 考えてみれば、ウサギが夜行性というのは理にかなっている。


 夜が危ないという思い込みは、暗闇で視界が効かないからだ。


 状況把握のほとんどを視覚に頼っている人間だった時の思い込みだな。



 だが、ウサギはもともと視覚はあまり優れてはいない。


 視界が360度見渡せるのはいいのだが、両目の視界が重なる部分がとても狭く、つまり物を立体的に見ることが出来ない。


 それに、見える色もツートンカラーの2色であり、暗闇と言っても周辺の状況把握にあまり影響がない。


 で、その代わりと言っては何だが、聴覚と嗅覚は優れている。


 実は、耳の大きさに騙されるがウサギの聴覚というのはずば抜けて良いというわけではないらしい。


 でも、視覚よりも仕事をしてくれるのは確かだ。

 

 音で周囲の状況や気配も察知できるからな。


 なんか魔物補正なのか、気配察知みたいな能力もあるし、なんとなくオレに対する敵意とかまで察知できる。


 そして、嗅覚はとっても優れていて、はるか遠くにあると思われる美味い草(薬草)のありかまで把握できるのだ。


 ステータスには、嗅覚の『ラビットノーズ』のところに探索や索敵効果まで付与されていたから、とても頼りになるセンサーだ。ビバ! 魔物補正!




 そういうことで、鼻をぴくぴくさせて周囲を探索する。


 今はまだ腹いっぱいだからいいが、美味しい草のある場所は後で食べられるように覚えておく。


「お? この臭いは‥‥‥あいつがいるな?」



 その匂いとは、昼に命を懸けた大激闘を繰り広げた好敵手、スライムさんの事である。


 夜行性ウサギのアドバンテージを持ってスライム狩りでもしちゃおうかな?


 でも、待てよ?


 スライムって昼も夜も関係なくね?


 あいつ、絶対視覚とか持ってないよね?


 だったら別に無理して夜に襲撃しなくてもいいのかなとも思い直すが、オレの嗅覚が教えてくれるヤツの様子は、どうも一か所にとどまってプルプルしているだけなのだ。


 もしかして、寝ている?


 スライムに睡眠なんて必要なのか?


 疑念はあるが、動きがない状態であることは確かなので、オレは自分の気配を消しながらスライムさんに近づいていく。


◇ ◇ ◇ ◇



「うーん、寝ているようにしか見えん」


 ゆらゆらとゆっくり体をプルプルさせながらたたずむようにそこに居るスライム。


 明らかに日中見たスライムの動きとは違う。


 ほんとに寝てるのか? スライムって寝るのか? もしかして、日中は光合成とかしているから活発なのか?


 さまざまな推論が頭を駆け巡るが、それはさておき、討伐のチャンスである。


 スライムさんに恨みはないが‥‥‥いや、昼に食われそうになったから恨みはあるか。


 まあいい。


 兎に角、他の魔物を倒せばオレのレベルが上がって強くなれることははっきりしているのだ。


 我が角の錆にしてくれようぞ!



 聴覚で、体内の『核』が移動している様子を探る。視覚じゃ見えん。


 日中に比べて核の移動も緩慢だが、オレの聴覚はその位置をしっかりと把握できている。


 では、アタック開始だ!


   


  ぴょん


  ぐさっ


  ぱりーーん



 跳ねて刺して砕く!


 オレのウサつのは見事スライムの核を破壊し、一撃で仕留めることに成功した。


 核を砕かれたスライムは、しおしおとなり崩れ落ちていく。


 ん? スライムって、なんかゼリーみたいだな?


 そこでオレのスキル、『食通の勘』が仕事を始めたのか、妙にスライムのボディーが美味そうに見えてくる。



 ちょっとだけ、食べてみようかな?







 結論。


 味のない飲むゼリーでした。


 なんというか、食感はゼリーというより葛湯に近い。


 砂糖とか、冷蔵庫とかがあれば美味しくいただけるような気もするのだが。


 栄養成分は‥‥‥よくわからんが、とりあえず喉の渇きを潤す効果はあるみたいだ。


 とりあえず、スライムで水分補給が出来ることを確認できたのであった。



◇ ◇ ◇ ◇


「おりゃー」



 スライム狩りに目覚めて数時間。


 オレは20匹を超えるスライムに引導を渡していた。


 みな一様に動きの鈍いスライムをぶっ刺すだけの簡単なお仕事でした。



 だからと言って油断してはいけない。


 何と言っても昼にはこいつに殺されかけたのだから。


 そうだ。ウサギは臆病であるべきなのだ。

 





 空が白んできて、そろそろ夜明けがやってくる。


 うん、さすがに昼からぶっ通しで起きていたから眠気がやってきたな。



 オレは、夕方にほりほりして作った巣穴に戻り、うさけつを穴に沈め、異世界で初めての睡眠をとる。


 周囲に危険があれば直ぐにわかるように、ウサ耳は巣穴から外に出したままだ。

 

 そういえば、ウサギって目を開けたままでも寝られるらしいね。


 まばたきもいらないらしいし。



 でも、オレは目は閉じる!


 やっぱり元人間のオレからすれば、睡眠とは目を閉じて行うものなのだよ。



 巣穴は比較的木々の陰になって目立たないところに掘ったから危険は少ないとは思うが、不安は残る。


 でも眠い。


 ウサギは突然死んだように眠る時もあるので、そのまま死なないことを祈りましょう。


 おやすみなさい。ぐう。


 


 




ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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