第5話 はじめてのにんげん

 また腹減った。


 肉食いてえ。


 草食動物であるウサギに生まれ変わったのになぜオレは肉が食いたいと思うのだろう?


 あ、そうか。オレ魔物だったわ。



 とはいってもベースがウサギだから草も美味しくいただけます。


 そいうことで、そこら辺の草を食む。



 あれ?


 さっきの草より不味くないか?


 明らかにさっき食べた草とは味が違う。



 そこらへんに生えている草ならみんな同じものだと思っていたが、やはり違いがある様だ。

 

 だったら少しでも美味い草を食おうと、草の種類を見分けられるようになるためにと目の前の草を凝視する。


 だが、いかんせんウサギは目が悪い。


 草の輪郭とかがボヤっとしていて見た目では判断を付けられそうになさそうだ。


 視覚がダメなら別の手段だ。



 ウサギと言えば大きな耳の聴覚が取りざたされるが、草の種類判別に聴覚はあまり貢献してくれそうにない。


 ならば嗅覚だ!


 

 くんかくんか。


 今、オレの鼻はぴくぴく動いてさぞや愛らしいことだろう。



 あまり知られていないがウサギの嗅覚はかなり優れている。


 周辺の探索や索敵などはむしろ聴覚よりも優れているだろう。



 オレは必死に草の匂いをかぎ分ける。


 さっき食べた美味い草。


 今食べたいまいちの奴。


 匂いというのは記憶に残りやすいとは良く言ったもので、すんなりと覚えることが出来ている。



 よし、あっちに美味い草が多く生えているな。


 オレは嗅覚の導くまま、草につられてのたのたと移動を始める。





◇ ◇ ◇ ◇



 美味い草に向かって歩いていると、ちょうど同じ方向から危険な気配を感じる。


 こんな音を立てる動物は何だ?


 皮や布がこすれる音、それに金属っぽいものの音も少々交じる。



 臭いは――、どこかで嗅いだことがある。


 それは、日本にいた時の臭いの記憶。


 何日も洗っていない髪の毛。


 洗濯をしていない服と、風呂にはいっていない体のえた臭い。



 これは、人間だ。





 ◇ ◇ ◇ ◇



 オレは人間に見つからない様に、慎重に近づいていく。


 ある一定の距離のところで気配を消し、人間たちの様子にウサ耳をそばだてる。



「今日のノルマは何本だっけ?」


「50本だ。まあ、ここにはたくさん生えているから、楽勝だろうさ。」


「ああ、根っこは残しておけよ。この薬草がまたあとで生えてくるようにな。」


「うん、ここは当たりの場所だ。他の奴らに知られないようにしないとな」


 

 なんと。


 オレが美味いと言って食べていたのは、どうやら薬草であるらしい。



 そして、


 なんとびっくり。


 人間の言葉がわかるじゃあーりませんか!



 え? ウサギって人の言葉わかるの? やっぱ魔物だから?


 いや、やっぱりオレが元人間なんだからなんだろうな。


 でも、ここ異世界だよな?


 話している言葉は日本語ではないけれど意味が理解できるって、よくあるアレでしょ?


 もう一回ステータス画面を開いてみるけれど、『異世界言語理解』などといった記述は見当たらない。


 強いて言えば、『転生者』ってところぐらいしか思い当たるところはないな。


 まあ、人の言葉が理解できるというのは良いアドバンテージだ。


 何かの役に立つこともあるだろう。




 そのまま様子を伺っていると、人間たちは美味い草(薬草)をほとんど採取してどこかに向かって連れだって歩いていく。


 おそらく、その方向に街なり村なりあるのだろう。


 オレはその方向をしっかりと覚えておき、冒険者たちが取り残した数本の美味い草を食べる。




「チックショー! ほとんど残ってねえじゃねえか! オレの食う分がねえ! チクショー! あー肉食いてー!」


 ん? 肉?


 ふと考える。



 今いた人間たちは街に向かった。


 人間ってのは雑食だから、当然肉だって食うだろう。


 と、いう事は!


 街に行けば肉食えるんじゃね?




 いや、待て待て。


 オレはさっきもニンジンについて考察して、人が育てた畑を荒らすと討伐されて食われてしまうといった結論にたどり着いたばかりではないか。


 肉につられて街に行けば、人間どもに捕まる可能性が高い。



 うん、肉については明日以降のオレに任せる。


 とりあえず今日はもう日が陰ってきた。


 薬草を食ったことでさっき受けたスライムからのダメージも回復したし。


 まずは安全な寝床を確保することに全力を費やすことにしよう。






◇ ◇ ◇ ◇



「ふう、こんなもんかな?」

 

 巣穴をほりほりしてみた。


 ウサギの生態がよくわからないのだが、寝ると言ったら巣穴だろうと思って掘りました。


 うん、穴掘り楽しい!


 ウサギの本能に穴掘りスキーな部分でもあるのか、妙にテンションが上がってしまった。


 ちょっと大きめに掘った巣穴におしりから身を沈める。


 うん、今のオレのウサケツはとってもプリチーにフリフリしているはずだ。



 そして周りも暗くなり、あたりを十分警戒しながら眠りにつく。





「‥‥‥」



「寝られねえ!」


 もう、どうしてでしょう。


 暗くなればなるほど、目がさえて身体を動かしたくなってしまうのですよ。



 でも、寝ておかないと明日の日中活動できないし、どうにか少しでも眠らなければ。


 そう考えて眠ろうと努力してみるも、やっぱり眠れない。


 そして、ふとその原因に気が付いた。





「ウサギって夜行性だったよチキショー!」

   


 



ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


 もし、少しでも『面白い』『続きが呼んでみたい』等々の感想を抱いていただいたのであれば、作者のモチベーションに繋がりますので、★や♡での応援や、フォローやコメントをいただければ幸いです!


 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る