第3話 ウサギの勝利

※一部不快な表現があります。


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 げっぷ。


 草ごちそうさまでした。



 さて、つのウサギとして異世界に転生したときはどうなるかとも思ったが、比較的食糧事情は大丈夫そうだ。


 なんと言っても、こんなおいしい草が、何とタダ!

 

 しかも、コンビニ行くよりすぐ近くにたくさん生えてるじゃありませんか奥さん。


 

 で、食料問題が何とか解決しそうとなれば、続いて持ち上がってくるのは寝床問題。


 さっきまで夢中で草を食ってて気づかなかったが、いざ耳を澄ましてみればいろんな動物や魔物の気配があちこちから感じられるのだ。


 気配というか、聴覚から感じる感覚というか。


 さすがウサギだけあって、耳の性能が爆上りしているようだ。


 もはやこれは耳を通り越してのスーパーイヤーだぜ! 第6感シックスセンスを越えた感覚器だぜひゃっほう! 





  で、安全そうな場所を探そうと耳を澄ましてみると。


 なんか、こっちに近づいてくる気配がする。



 それは、草をかき分けて歩行する動物のようなものではなく、

 

 なにか地面をにじり寄ってくるような感覚。


 そこには、こちらに対する敵意も感じられる。


 敵だ。



 そちらに視線をやるも、どうもウサギというのは目があまりよろしくないらしくてぼんやりとしか見えない。


 だが、それでもわかる。


 ぶよんぶよんと身体を震わせながらこちらに向かって這い寄る存在。


 スライムだ。



     びよーーーん!



「速い!」


 スライムは、一定の距離まで近づいてくると、突然身体を振るわせて飛び掛かってきた!


 オレはそのスライムをウサギの後ろ足の跳躍で躱そうとして――


「身体が重い?!」


 さっき得体のしれない敵から逃げた時の身体感覚からすれば余裕で避けられるイメージはあった。


 だが、予想に反してオレの身体の動きは鈍い。



 何があった?


 さっきと今で何が違う?



 あ。


 そうか、


 草を腹いっぱい食ったからか!



 うん、たしかに「オレの身体にどんだけ入るの?」ってくらい草を食った。


 だっておいしかったんだもん。


 多分、オレの愛くるしいウサギボディーはポテ腹でさらに可愛さアップしていることに疑いはない。



 そんなことを考えているうちに、オレは一瞬のうちにスライムにまとわりつかれてしまった。






「やばいやばいやばいやばい!」


 まとわりついたスライムはオレを食べようとしているのだろう。


 すでに消化を始めているのか、身体のあちこちからシュワシュワという音と、肌が焼けるような痛みが襲ってくる。


 スライムは、消化をしながらも引き続きオレの全身を包み込もうとしてくる。


 このままでは頭部にもまとわりつかれ、消化される前に窒息死してしまうだろう。


 その前に、どうにかしてこいつを体から引きはがさなければ。



 オレは身体を必死によじる。


 だが、粘度の高いスライムボディーは身体にぴったりと張り付き、むしろオレが身体を動かせば動かすほど密着してくる。


 そしてとうとう、オレの頭部も粘液に飲み込まれる。


 クッ! 殺される!




 このままでは窒息死してしまう。


 どうにかしてこいつを引き離す方法はないのか!


 考えろ考えろ



 何かないか。



 ふと思いついたことはあったが、それでこの拘束を解けるとは思わない。


 えーい、どうせこのままだと死んでしまうんだ。


 思いついたことは何でもやってやろうじゃねえか!




「逆噴射!」


 オレは胃の中の内容物を思いっきりスライムの体内? にまき散らす。


 こんなことで何がどうなるとも思えないが、今のオレに出来ることはこれしかない。


 ちなみに、『逆噴射』だけではなく正式なルートでの噴射も試みたのだが不発に終わったのは内緒だ。


 だが、そこに意外な反応が。


 なんと、スライムはびりびりと身体を震わせ、オレの身体を一瞬解放したのだ!


「今だ!」


 体内の重りを吐き出して身軽になったオレは小動物ばりの俊敏性を発揮してスライムと距離を取ることに成功した!



 スライムの方に意識を向ける。


 さっきと同様、スライムは小刻みに体を震わせており、なんとなくだが苦しんでいるような雰囲気が感じられる。


 もしかして。


 オレの逆噴射の中に紛れ込んでいた『胃液』が逆にスライムを溶かしているのではないだろうか? 

 

 だとしたらこれはチャンスだ。


 脱兎のごとく逃げる選択肢もあったが、今のオレは魔物だ。


 ならば、魔物を倒せばレベルアップできるのではないか?


 ちょいつよウサギになれるかもしれない。



 でも、どうやって倒そうか?


 そう考えていると、オレの聴覚が、スライムの体内で蠢いているなにか固いモノがあることを察知する。

 

「あれは、スライムの核か!」



 こういった異世界ものでは定番となっているスライムの弱点。


 目の前に居るスライムは粘性体でどうすればダメージを与えられるのか想像がつかないが、それならばやりようはある。


 この体に生まれ変わることで手に入れた、額に生えた角に意識を集中する。


 さっき川に映った姿を見たところ、結構な鋭さである。



 体内を動き回る『核』に狙いを定めて―― 


 突く!


 

   バリン!




 よし! ヒット!


 スライムはその体を崩れさせ、その場にてでろんと地面に液体のように広がっていく。

 



 こうして、オレはどうにかこうにかこの異世界での初戦闘を勝利で飾ることができたのであった。


  

 


 

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 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


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