第2話 兎に角草食

 困りましたよ奥さん。


 何が困ったのかって?


 そりゃあ、異世界につのウサギとして転生しちゃったことですよ。




 オレの名前は因幡白兎(いなばはくと)。


 日本の東京にある、三流大学に通っていた19歳の大学生だ。


 学生の自分が、趣味と実益を兼ねて行なっていた活動、『フードファイター』。


 オレは、全国各地を周り、各地のご当地大食い大会などに参加しては好成績を収め、タダで大量の食事をするほかに賞金も頂き、さらには招待選手として交通費や宿泊費も頂いたりしていた。


 そうして得た軍資金などをもとに日本の全国津々浦々をめぐり、大会以外は各地のグルメを食べ歩くという趣味に没頭。


 今後は活躍の場を海外にも広げようと、賞金額の高い日本全国規模の大会に挑戦し、見事優勝した‥‥‥はずだった。


 某全国チェーン店のメガマックスな牛丼を16杯平らげたところで、最後まであきらめることなく張り合っていた2位の女が14杯の途中でギブアップしたことでオレの優勝は確定した。


 だが、そこで異変が生じる。


 これまでどれだけ食べても何の異常も訴えることのなかったオレの身体が突然悲鳴を上げだした。


 脈拍は上り、体温が上昇。呼吸が荒くなり目の焦点がズレていく。


 これまでの不摂生が原因だろうか。


 もっと野菜も食べればよかったかもしれない。


 オレの優勝を告げる場内アナウンスが始まる。


 そのアナウンスは、オレの名前を告げる直前でオレの聴覚から消失し、それと同時に意識を失う。





 で、気が付いたら何かに殴られそうになっていて慌てて脱兎のごとく逃げ出し、喉が渇いて川に寄ったらそこに映る自分の姿が角ウサギだったというわけですよ奥さん!


 はあ、どないしょう。


 

 オレの記憶によると、角の生えたウサギって、動物じゃなくて魔物だよね?


 しかも、あまり強くない魔物だったはずだ。


 その証拠というか、さっき襲われて殺されそうになったしな。


 多分というか、絶対だと思うが、オレを襲ったナニカはオレを殺して食おうとしたんだろう。


 そうか、オレは食料か。



 日本にいた時に様々なグルメを食していたオレが、まさか食われる側の存在に回ってしまうとはな。

 

 たしかに、美食のためとはいえ数多くのをいただいたことに偽りはない。

 

 

 これも、『因幡いなば白兎しろうさぎ』の内容の通りの『因果応報』の故事に倣ってのことなのだろうか?


 まあ、オレの名前が名前だからな。




 と、なると?


 オレは今、目の前にある川を、サメかワニをだまして対岸に渡るべきなのか?



 いや、落ち着けオレ。


 なにもオレの名前と転生先での状況がそのまんまだったとしても、あの話にオレの行動を合わせる必要はないはずだ。


 それに、そんなことをしたら全身の皮をむかれてしまうじゃないか。


 っていうか、川にサメはいねえよ。


 多分だけれどワニもいない。


 そして、オレをだまそうとしてくる神様たちもいないだろう。



 そんな益体もないことを考えていたら、空腹を感じてきた。


 食料であるオレが空腹だと?



 どうせ食われるわが身なら、


 何も食わずに不味くなってやるか?

 


 いや、それだとオレは死んでしまう。


 元日本人のオレは、死ぬ前提で物事を考えるのとは一番距離のある思考回路をしているはずだ。


 ならば、食うしかない!



 でも、ウサギって何食うんだろう?


 やっぱニンジンかな?


 でも、多分ニンジンって人間が育てる野菜だよな。


 ってことは、人里のある方に行って畑を見つけなければ食えない。


 農家の畑を荒らすしかニンジンにありつく方法はないだろう。


 で、そうすればオレは魔物の身。


 害獣としても、魔物としても人間に討伐されてしまう未来しか見えない。


 ふむ、ウサギにニンジンは異世界では結構ハードルが高いんですねえ。



 いずれは機会があればニンジンをウサギの身体と味覚で味わってみたいとは思うが、それは今ではない。


 腹が減っている今、食えるものって何だろう。


 たしか、ウサギって100%草食動物だよな。


 まあ、魔物だからそうは限らないかもしれないけど。



 本音を言えば、肉食いたい。


 ステーキやヤキニクなんて贅沢は言わない。


 牛丼でも、フライドチキンでも、ハンバーグでもいい。


 だけど、ここには肉はない。



 仕方ない。


 草食動物になった生態と味覚に期待して、某県民になったつもりでそこらへんの草でも食ってみるか。

 





◇ ◇ ◇ ◇




「うんめー!! 草うめえ!」


 本当にそこら辺の草を食ってみたら、なんととっても美味かった。


 やべえ、これ止まらねえわ。



 はむはむもっさもっさと草をみ、そして川の水を飲む!



 草も美味いし水も美味い!



 オレ、ウサギでも生きて行けそうです!



 




ーーーーーーーー


 この度は、『うさぎ転生~角ウサギに転生した元日本人は、日本食食べたさに兎獣人への進化を目指す~』を呼んでいただき誠にありがとうございます!


 もし、少しでも『面白い』『続きが呼んでみたい』等々の感想を抱いていただいたのであれば、作者のモチベーションに繋がりますので、★や♡での応援や、フォローやコメントをいただければ幸いです!

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