第75話 これからのこと

 地上に新たな勇者が誕生し、そこからどう戦争に変化が生じるか?

 その答えを誰も知らぬまま、魔界の王都では再び穏やかな日常を取り戻そうと、皆が懸命に動いていた。

 そんな中で……


「んもぉ、お姉様ったら……恥ずかしい」

「あ、あの、その……なんというか、変なところ見せてしまいましてというか……」

「エルセ、私たちは悪くないです。夫婦なのですから、営みは当然です。それを事前連絡も無くいきなり訪問し、覗き見していたお姉様たちが非常識なのです」

「い、いや、で、でもぉ、なんか、み、見せてはいけないところを見られたというか……」

「ん~……頬ずり頬ずり~♥」

「あうっ!?」

「なら、見せつけちゃいましょ~、えへへ♥」


 ベッドの上で、最低限の身なりだけ整えて、顔を青くしながら頭を下げるエルセと、艶のある笑みとツルツルテカテカの肌をしながらエルセに密着して見せつけるクローナ。

 そんな二人のやりとりを、トワイライトとガウルは顔を真っ赤にしながら対峙していた。


「はにゃ、そ、そにょ、く、クローナ、き、貴様、ひ、姫のくせにぃ、い、妹のくせにぃ、何をぉ!」

「ま、まったく、昼間からあのような行為に耽って……い、いやらしいのではないか!」


 二人の営みを覗いてしまい、そして衝撃のあまりに悲鳴に似た声を上げてしまい、結果エルセとクローナにバレたトワイライトとガウル。

 淫らな関係と行為を目撃されてしまって、恥ずかしさと罪悪感で混乱するエルセ。

 ただ、クローナは見られたものの、どこか誇らしげにエルセにくっついていた。


「で、お姉様たちは何しに来られたのですか?(早く続きがしたいのです……早く帰ってくださらないでしょうか? むぅ……ムズムズしますぅ……)」

「な、何だ貴様ァ、姉が妹の家に来て何か悪いとでも言うのかぁ? ぷじゃけるなァ!(こやつ、わらわをお邪魔虫みたいな目で見ておる! つか、帰らせて、え、えちちを、お、おせっせを再開したそうな? この、い、淫乱め!)」

「いいではないか、様子を見に来るぐらい。なんせ、妹のイイ人というだけでなく、魔界の英雄なのだからね(キスはもっとロマンチックなものだと……あんなに舌を貪り合うような……クローナがあんなエッチな女の子に……あの、クローナが)」

「だーもう、まったく! これから色々と気にかけてやろうと思っていたのに……ノンキすぎるぞ、貴様らァ! 八勇将を倒し、英雄となり、わらわたちは多大なる感謝をしている……とはいえ、それで何もかも全部が変わったと思ったら、それは甘いというのに(それにしても、クローナ……嬉しそうというか、気持ちよさそうだったというか……す、すきな男とすると、いや、そもそも、あ、あの行為……きもちーのか?)」

「そうは言いましても……エルセは療養、絶対安静が必要です……今は難しい話を無にして、ただ穏やかに……(うう~、早く帰って欲しいのです……お預けされて……エルセにもっとチューしたいのです)」

「いや、待ちたまえクローナ。療養だとか絶対安静とか言いながら、さっきはナニをしていた!?(あれ? ……というか……もう既に一線越えているとなると……子供とか……そ、そういうのは、ど、どうなんだ?)」


 表面上の会話をする三人。エルセはいたたまれなく縮こまっていた。


「で、小僧……調子はどうなのか……と聞こうと思ったが、まぁ、ヤル元気はあるようじゃな」

「なんかほんとすみません!」

「まったくじゃ。わらわたちはちょっと真面目な話をしに来たというのに……」


 色々思うことあり、気になることあり、興味津々だったり、聞きたいことはたくさんあるトワイライト。

 だが、このままでは話が進まないと思い、軽く咳払いし……



「小僧よ……おぬしの成したことで、おぬしらに対する民たちの想いも何かが変わったのは間違いない……しかし、それでも全部とは言えん。そのことを踏まえて、ちゃんと今後のことも考えておるか?」


「ッ、こ、これからのこと?」


「そうじゃ。英雄。魔界勇者。誇っていい。しかし、調子に乗りすぎてこれからの態度次第で、また皆の印象も変わるかもしれぬ」



 とりあえず、真面目な顔でプレッシャーをかける。

 エルセに感謝をしていても、完全に安心と信用にまでは至っていない。

 それは自分たちだけではない。だからあまり浮かれて調子に乗るな……と釘を刺しにきたのだが……

 何よりも、シュウサイに言われたことも気になっていたこともあった。

 すると、エルセは……



「もちろん、ちゃんとしねーと……とは思ってる。さっきのあんな場面を見られてこんなこと言うのは、信用してもらえないかもだけど……」


「ほう」


 

 エルセ本人もちゃんと分かっている。

 自覚しているということにトワイライトは少し感心した様子を見せた。

 エルセぐらいの若者で、いきなり今回のような勇者と称えられたりすると、調子に乗ってやりたい放題……というのはよくあることと、長年の経験から知っていたからだ。

 しかし、エルセは調子に乗らず、これからのことも考えていると宣言する。

 ただ、それは……



「先にこんなことやっといて、後出しかもしれないけど……お、俺は、クローナと真剣に夫婦となって、認めてもらえるように頑張る……頑張ります! だ、だから、お義姉さん! 妹さんとの関係を認めてくださいッ!! 魔界の皆にも、お姫様のクローナの相手として相応しいと思ってもらえるように、俺、頑張りますから!」


「ん…………ん? ……んんん?」


「……へ?」


「エルセェ♥♥♥♥♥」



 クローナとの将来のことで、妹さんを俺に下さいという……。つまりエルセはこの状況、「そういうもの」だと少し勘違いしていた。



( ゚д゚)??


( ゚д゚)??



 思ってたこととだいぶ違う、予想外の返答にポカンとするトワイライトとガウル。

 そして、そんな中でクローナは感極まり……


「もう、エルセェ、スキイ、大好き、しゅき、もう、好きが止まりません♥♥♥ んちゅっ♥ ちゅ♥ ん~~♥♥」

「わわ、クローナ、今はちゃんとした、んむっ!?」


 もう、姉が見ていようと知ったことかとキスの嵐をエルセに。



((帝国への復讐とかどうした!? というか……なんかもう…………勝手にすればいい……))



 そして、二人の姉はもうどうでもよくなり、バカバカしくなり、考えるのをやめた。

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