第67話 地獄の凌辱
「いやああ、やめてえ、魔族なんか、やめてええ、ひいい!」
「やめてください、わ、わたし、処女なんです!」
「くっ、殺せえええええ! やめ、やめてお願い! お嫁に行けな―――嗚呼ァああああ!」
女の身で勇ましく戦場に赴き、積み重ねた剣技を持って人類のためにと勇敢に戦い、そして敗れて捕虜となった女騎士たち。
その鋼の鎧は剥ぎ取られ、騎士ではなく女としての身体を曝け出され、醜悪なモンスターたちの慰み者となって地獄の中に居た。
「げへへ、かわいい!」
「人間もコレだけ可愛けりゃ、俺らのオモチャにピッタリだぜ!」
「おで、これ、もっでかえる! もっでかえる! うおおおお!」
一仕事を終えてご褒美にありつく魔族たち。
種族は違えど「行為」事態に人間も魔族も大きな違いはなく、終わりなく凌辱が繰り広げられていた。
泣き叫ぶ女たち。
自害を試みる女たち。
精神崩壊して人形のようになった女たち。
捕虜の女騎士たちは一人残らず辱めを受けていた。
「くっそ~、いいな~、オーク部隊とゴブリン部隊たち」
「俺らも女ァ犯してぇよ」
「ぼやくな。俺らの仕事はこっからだって」
そんな天幕から少し離れた地にて、身を伏せる獣人族の部隊がいた。
兎人族、猫人族、豹人族など、強さよりも速さに特化した部隊である。
そんな部隊が身を潜めて伺うのは、山森の中にある広々とした平地である。
そこには……
「あ~、助け、誰か……うあ、ああ」
「うう、どこにいるんだ、俺たち……」
「くそぉ、いでぇよぉ、苦しい……」
両手と両目を失い、ただその辺を徘徊する兵士たち。
すると……
「居たぞ! あそこだ! みんな、今すぐ保護しろ!」
「お前たち、もう心配は……ッ、ひっ! な、なんだこいつら……」
「め、目が……腕が……お、おえええ」
「ひどい……なんという所業……ぜ、全員? まさか全員がこんな目に!?」
山林の中から連合軍の一部隊が現れた。
それは、味方の救援のためだ。
「おのれ……なんという所業! カーニバルの仕業か……鬼畜めッ! 許さん!」
「ギゼン隊長! こやつら、目も見えず、両手も……それにこの数! とてもではないですが、全員を引き連れてなど……ここは敵地! それに、おそらくこれは我らをおびき寄せる罠が……」
「それでもここまで来た以上、見捨てるわけにはいかぬ! 仲間を見捨てる奴はクズ! どのような戦場においてもクズに言い訳は通じぬ! 救うぞ! クズになりたくなければ!」
部隊を引き連れた20代ほどの若き隊長が、真っすぐな目で仲間たちにそう告げた。
敵陣深く、どのような罠が待ち受けているかも分からぬ中で、一人でも多くの仲間を救うために危険を冒す。
部下たちも命令に従うしかなく、まともに歩くこともままならない解放された捕虜たちに肩を貸して寄り添う。
そこを……
「っ、しゃァ! 蹂躙しろぉ! あそこいるのは、将来有望と言われた部隊長のギゼン! 他の雑魚に構うな! 奴だけコロセぇ!」
「「「「「オオオオオオオオッッッ!!!!!!!」」」」」
伏せていた魔王軍が襲撃する。
「くっ、やはりこいつら、陣形を! ぬっ、ま、待て、負傷兵たちよ、落ち着け!」
それを迎え撃とうとしたギゼン隊だが、予想通りの事態。
目の見えない負傷兵たちが、魔王軍襲撃の音と声を聞いてパニックを起こして入り乱れる。
そうなっては、うまく陣形を組むことができず……
「ひは、いただきーっ!」
「あ……かぺっ」
「「「「「ギゼン隊長ぅぅぅぅううううううう!!!!!」」」」」
その混乱に乗じた中で、暗殺に近い形でギゼンという若き隊長の首が宙を舞った。
そんな、解放した捕虜を利用した狩場を、カーニバルはいくつもの場所に分散した。
なかには何とか捕虜を連れて逃げ切られる場所もあったが、多くの場所で有能な指揮官たちが狙われて、命を落としていった。
「斬り取った目玉と腕と、討ち取れた名のある将の首は、ワイバーンに括り付けて帝国にでも持って行って撒き散らしてこい。参謀の宅急便ってことで♪ ひはははははは!」
次々と入ってくる戦果を耳にしながら、ついでで更なる指示を出すカーニバル。本陣で寝転がりながら、笑いが止まらなかった。
すると……
「相変わらず……反吐が出る」
「んぉ?」
本陣の作戦本部に足を踏み入れる豪傑。
カーニバルも反射的に起きて出迎える。
「ひはははは、お疲れちゃん、キハクの旦那~」
「品位を欠く度を過ぎた凌辱はやめろと言ったはずだ……カーニバル」
「戦争なんて下品でなんぼ。戦争なんぞで品を求める方が俺以上に酷だぜぇ? それに、魔族がこれまでどれほどボーギャックやギャンザの凌辱虐殺に泣いてきた?」
「魔王軍を、そして大魔王様を穢すような行いはやめろと言っているのだ。何よりも、度がすぎると恨み憎しみの結束を生む」
その瞬間、周囲に居た配下の兵たちが顔を青くする。
同じ魔王軍の将でありながらも、ギスギスとした一触即発の空気に寒気がしていた。
「……ひは、はいはい了解~。もう大体一通りの目途がついたからこれ以上はねーよ。有能な将も部隊長もだいぶぶっ殺したし」
だが、カーニバルはすぐに空気を解いて笑った。
そのとき、周りの兵たちもホッとし、そしてキハクもこれ以上は言うことは無かった。
「それより、キハクの旦那……ソッチはやったかい?」
「うむ。八勇将の一人、『神槍使い・シィンデール』……討ち取った。上々だ」
「「「「「お、おおおおおおおおッッ!!!!」」」」」
キハクが強くそう告げる。その瞬間、周囲の兵たちも歓声を上げた。
「うおっほー! これで、八勇将は一気に残り……三人! こりゃもうこの戦争含め、人類と魔族の長きにわたる戦争も、俺らの勝ち確じゃん! これなら、今回の第一功績はまた旦那……って言いたいところだけど……」
「ああ。『あの二人』だろう」
人類の誇る八勇将の一人を今回討ち取った。その歴史的な偉業を成し遂げたキハクにカーニバルも興奮する。
だが、今回の全体の戦争の功労者はキハクではないということは、キハク本人もカーニバルも分かっていた。
「ひは! コレも全ては……あの可愛い弟妹のおかげってことだね~。いやぁ、クローナ姫もイイ彼氏ゲットしたもんだ~、こんなに貢献してくれるんなら、大魔王様ももう結婚だって喜んで許しちゃうかね? あっ、トワ姫の嫉妬爆発想像したらウケる」
「兵や民衆はウカれてよいかもしれんが、我ら将は気を抜くな」
「はいはいはいはい。でも、そろそろ考えといた方が良いんじゃない? 地上全土を手に入れた時の、地上の分配をどの程度にするか。人間をどの程度、奴隷や家畜として生かしておくか♪」
そう、長きにわたる戦も、ここに来て大きく変化が生じた。
これまで互いに殺し殺され、領土を奪っては奪い返されの繰り返しの日々。
全ては、テラ、そしてテラの弟妹であるエルセとジェニが大きく関わっていた。
そして、エルセとジェニはその事実をまだそこまで認識していない。
――――自分のしたことを理解できているのか? お前はたった今、人類の命運を大きく狂わせてしまった……お前の所為で人類は滅びるのだぞ?
ボーギャックが言いたくても言えなかったエルセに対しての最後の言葉。
しかし、もうどうしようもないことだった。
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