第68話 勝者の平和
魔王都の片隅―――
「覚えておけ! 俺がネオ魔王軍の大将軍、ヒートだ!」
「私はリロ。ネオ魔王軍の女騎士団長だよ」
「プニマよ。ネオ魔王軍の魔法部隊長よ」
「僕はカーシコイ。ネオ魔王軍の大軍師ですよ」
「俺はデカスギ! ネオ魔王軍の特攻隊長だぜ!」
「俺はね――――――」
まず、今日初めて入団するジェニに全員で自己紹介。
半分ぐらいになったところでジェニが目を細めて……
「なんか、みんな将軍とか隊長とかエライ人? じゃあ、私は何になるの?」
大将軍はヒートということで、一応リーダー格ではある。
だが、それ以外の子供たちも基本的に大層な肩書があり、ジェニには序列が分からなかった。
「ジェニは大幹部だから……えっと、何がいいかな?」
「ジェニちゃんは魔法凄いよね? じゃあ、魔法部隊長?」
「ちょっとぉ、それは私よ、取らないでぇ!」
「ジェニちゃん強いから……う~ん……」
「そーだ、ジェニは昨日言われてたじゃん! 魔界勇者だ!」
「あ、うんうん! ジェニちゃんは魔界勇者だよね!」
「でも、それはジェニのお兄ちゃんもだし、ややこしくないか?」
「じゃあ、魔界女勇者はどうでしょうか?」
「あ、いーじゃんそれ!」
そして、子供たちも特に序列があるわけでもなく、ヒートが仕切り役というだけで、役職も自分たちでやりたいものや、自分たちで考えた肩書をつけているだけなので、ジェニが大幹部と言っても、彼らを子分のように使えるというわけではない。
「なあ、ジェニはネオ魔王軍の、魔界女勇者はどうだ?」
そして、ジェニの肩書も、役職でもなんでもない称号のようなものになってしまうのだが……
「オー……魔界……女勇者……んふー! いい! うん、魔界女勇者!」
「「「ッ!?(か、かわ……い……)」」」
「ん……? はー、男子ってば」
「ヒート? ……あれ? 胸がズキンって……」
ジェニも満更でもなく、笑顔を見せて嬉しそうに頷いた。
そのとき、ネオ魔王軍の男子たちがジェニの初めて見せた笑顔に「どきっ♥」としてしまい、そのことを女子たちにバレてしまうのだが……
「よ、よーし、それじゃあ、ジェニは今日からネオ魔王軍の魔界女勇者だからな、いいなみんな! 今日からジェニは俺達の仲間だー!」
「「「「「オー!!!!」」」」」
いずれにせよ、ジェニは受け入れられ、正式に王都の子供たちの「友達」になったのだった。
「で、ネオ魔王軍って普段何するの?」
さて、これで改めてネオ魔王軍始動……というところで、実際のところは何をするのかをジェニが問う。
するとヒートたちは……
「おう! ネオ魔王軍の仕事はまず、街の安全を守るパトロール! あと、一人で住んでるお年寄りの家に行ってお手伝いするんだ! 報酬でお菓子いっぱいもらえるぞ!」
「おー、お菓子!」
「それと、訓練もやる! 毎日剣で素振り100回やるんだ! 女の子はやらなくてもいいけど」
「ほうほう」
「そうやって世間に俺たちを認めさせ、いつか魔王軍にも俺たちを認めさせて、大きな仕事をもらうんだ! 悪者退治したりとか、そういうの!」
「ふ~ん」
「でもさ、それがなかなか認められなくてよ~。父さんとかに言っても相手してくんねーし……」
「そうなの?」
やる気満々……一方で、不満もついでに漏らす。
いくらネオ魔王軍と名乗っても、彼ら自身はまだ子供で特に魔王軍から存在を認知されているわけでもない。
魔王軍に認められたり、特別な仕事を与えられたいという気持ちはあるのだが、それはなかなか実現しない。
「うん、ヒートのおとーさまや、私のおとーさまにね、お願いしようとしても相手にされなくて……」
高位の身分であり、父親が魔王軍の六煉獄将の副将までしているヒートとリロでもその様子で、自分たちが魔王軍から役割をもらえるように父親に取り計らってもらおうとしてもダメなのだと拗ねた顔を見せる。
すると、ジェニは特に考える様子もなく……
「じゃあ、クロお姉ちゃんにお願いしよっか?」
「「「「「え……………」」」」」
と、自分のコネクションを使って、魔界のお姫様に無茶なことを言おうとするのだった。
その頃、そのお姫様は……
「エルセ、どうしたのです? 反対側向いて……こっちに顔を見せてください……あら? うふふふ、エルセったらお顔が真っ赤ですね~」
「ッ~~~~」
愛するエルセと同じベッドの中で、背中を見せているエルセに背後から抱き着いているのだった。
「お、俺……俺……大魔王に殺されないかなぁ? お姫様にとんでもないことさせて……」
「責任取ってくれたら許してもらえますよ~? 許してもらえなければ、ジェニとザンディレとプシィと一緒に逃げて駆け落ちしちゃいましょ~」
「も、もぉ、そういうことすぐ言うから……」
「んふふふ~、それにしても……えへへへ、あんなに強くてカッコいいエルセが……ビクンってなって、泣きそうな顔をして恥ずかしがったり、必死で堪えてるのに声を出しちゃったり……すっっっごく可愛かったです~」
「や、やめろぉ……」
「んもぉ、こっち向いてください~、むぅ……耳たぶ~あむあむ♥」
「んひ」
「ほっぺに、ちゅうちゅーぺろぺろ♥」
「こふっ、こ、こらあ! っていうか、こんなことばっかりしてられねーよぉ!」
もうクローナは完全にエルセに対して常時イチャイチャしたいモードになっており、そして屋敷に二人きりという何も耐える必要のないシチュエーションに完全に色ボケてしまっている。
エルセもその空気に流されたくもなる反面、まだ理性が多少働き……
「あとで、街行ってあのオッサンに殴らせてやらねーとだし」
「ぺろぺろ……んむっ!? ちょ、エルセ……今日も行くのですか? そのお姿で?」
「ったりめーだ。約束したんだからな。だから後で手ぇ貸して欲しいんだけど……本当は、ジェニに運んでもらうのが楽だったけど」
「エルセ……」
そう、こんな姿だろうと関係ない。
「あのオッサンだって、これからも俺を殴る……そのために、命を懸けて俺を助けてくれたんだからよ……だったら、応えねえとな。ケガだろうと関係ねーよ」
そう言って、傷だらけながらも笑顔でエルセはクローナにそう告げた。
「んもぉ……エルセってば……ずるいです。そんな顔をされたら止めるわけにはいかないではないですか」
「おう、ワリーな」
クローナもエルセを止めることはできないし、そんなエルセに惚れたのだと観念するしかなかった。
ただ……
「……エルセ」
「なに?」
「……言うこと聞いてあげます……けど、その代わり……んちゅ」
「ひん」
「……もっとイチャイチャ……いいですか? もちろん、全部私が動きます♥」
対価としてクローナの欲望発散は続いた。
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