第58話 幕間(トワイライト)1

 まさか、人類が大いなる犠牲を承知に、このような大胆な賭けに出るとは思わなかった。

 互いのほぼ全総力を用いての大戦。

 こちらもガウル以外の六煉獄将を総動員し、世紀の一戦に臨んだというのになんということだ。

 

 大軍同士のぶつかり合いゆえに、戦は時間がかかる。だが、最初の様子見を含めても、人類連合軍の戦い方があまりにも手堅く、完全防御の姿勢に入った。

 

 それが奴らの時間稼ぎだと気づくのが遅れた。


 まさか、人類最強クラスの勇者であるボーギャック、さらにはシュウサイやギャンザなどの、わらわたち六煉獄将と対となる八勇将の三人もがこの戦に参戦せず、精鋭部隊を引き連れて、我ら魔界の魔王都に攻め込み、大魔王様を討とうとするなど思わなかった。


 シュウサイがいかに人類最強の魔導士とはいえ、まさか結界も張り巡らせた我らの魔王都市の座標にピンポイントに空間転移できるとは思わなかった。


 我ら魔王軍の大戦力を前に、あえて八勇将三人を別動隊にするなどとは思わなかった。


 それに気づいたとき、すぐに全軍撤退も考えたが、我らが撤退をすれば後ろを狩り取られる。さらには、敵が大軍率いながらも八勇将三人不在ともなれば、人類の軍に致命的な打撃を与えられると分かっていながらも、撤退を選択するか? しかし、大魔王様を討ち取られてしまえば、全てが終わってしまうかもしれない。

 

 ましてや、ガウルがいたとしても現在の王都の守りは非常に手薄。八勇将さんにとボーギャック軍を相手では、守り切れぬ。


 その板挟みの葛藤の末に、わらわたちも最低限の援軍に向かうしかなかった。



「急げえええ、一騎でも先に王都へと辿りつくのだァ!」


 

 ゲートを通り、ゲートから王都まで時間がかかる。

 わらわたちにもシュウサイのように空間転移できる大魔導士が居ればこのようなことにならなかった。

 しかし、今は愚痴を言うよりもまずはかける駆けるべき。


「大丈夫……いま、もうすぐだ、もうすぐ、だから、ハニー、リロ、すぐに行く! だから、だから!」

「おのれ……おのれ……おのれぇ! 無事でいろ……必ず、必ず!」


 いつもは飄々としている副将のシンユーも、常に冷静沈着な副将のマイトも、後続を引き離すかのように必死の形相で馬を走らせている。

 当たり前だ。


「副将、俺らも必ずついていく! スピード緩めないでください!」

「いいか、一騎でも早く、少しでも、少しでも早く!」


 わらわや、副将二人だけではなく、必死に駆けるのは隊員一人残らずだ。

 愛する家族が、友が、国が、こうしている間にも……


「もうすぐ王都が見え……ッ!? な、なんだ! 王都に煙が……」

「くそおお! 人間んん、人間どもがぁああ!」


 王都が見えてきたが、やはり火の手が上がっている。

 怒りと同時に、皆の顔が青く染まる。


――虐殺と凌辱


 その言葉が頭に過る。

 特に、ボーギャックやギャンザたちは民間人であろうと、投降した捕虜であろうと一切の慈悲も見せぬ非道な奴らだ。

 一体どれほど凄惨な……


「いや、お待ちを、トワイライト将軍! 魔王城、そして結界は健在です!」

「ぬっ!? おお!」


 そのとき、僅かな希望が。

 魔王城は無事。魔王城を覆う結界も無事。

 それはつまり、大魔王様が無事であることの証拠でもある。

 つまり、魔界にとっての最悪の事態である、大魔王様が討ち取られるということにまでは至っていないということ。

 


「ならば、今まだ戦闘中ということじゃ! 総員、すぐに雪崩れ込んで戦闘に入る! 陣形もくそもない! 今はまず、援軍が駆け付けたということを敵にも味方にも示すのじゃ! 雄叫びを上げて轟かせろ! わらわたちが来たと!」


「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」



 あとは、どうやってボーギャックたちを退けさせるかだ。

 話によれば、別動隊として入ってきたのは、ボーギャック、シュウサイ、ギャンザの3人と、その私兵。

 人類の中でも最強クラスの将と隊。

 正直、わらわたちだけではかなりキツイ。ガウルと連携を取らねばならんが、王都の守備隊はどれほど残っている?

 ただ、そこで……



「おや? これはこれは……」


「「「「「ッッッ!!??」」」」」



 全速力で駆けるわらわたちの前方に現れた人影。

 その人物は「誰か」を引きずっている。

 一瞬、「いつも」の変態的な姿ではなく、甲冑を纏っているので気づかなかった。

 その姿は「ボロボロ」だ。

 甲冑も割れ、全身にもそれなりの傷を負っている。

 それは明らかに戦闘によって受けた傷だろう。

 そんな姿でわらわたちの前に現れたのは、クローナが飼っている……


「お前は、た、たしか、天界より堕ちた……変態メイド!?」

「ザンディレにございます、トワイライト様。お早いお帰りで。ですが……」

「お前、い、いや、ちょっと待て! お前が引きずっているソレは……」

「ええ、流石に私もだいぶ苦戦しましたが……」

「ッ?!」


 そう言って、ザンディレが引きずっていた人物。

 それは髪の長い女。 

 ザンディレが乱暴に髪を掴んで引きずり、そしてその全身もザンディレに劣らぬほどの傷を負い、そして気を失っている。

 二人は戦っていたのだろう。しかも、相当激しい戦いを。

 というより……


「ちょ、その女……それは、八勇将のギャンザッ!?」

「いかにも、です」

「は、な、なに? お、お前が……倒したというのか? この女を……」


 そしてそれは自分たちの良く知る宿敵でもあり、歴史にも名を残すことになるであろう人類の英傑。

 それを……


「し、信じられん……いや……むしろ天界の戦乙女たる貴様なら……そう、信じられんのはむしろ……」


 ザンディレならば……そう思うと、むしろ驚くのはザンディレがギャンザを倒したことではなく、そんな力を持つザンディレが大人しくクローナのメイドをしていることの方だと呆れてしまう。

 だが、


「いや、いずれにせよ、よくやった! しかし、今はすぐに王都へ! ボーギャックが居るのであろう? 流石にあやつは……」


 そう、ザンディレを倒したのは多大なる戦果。

 しかし、今回強襲してきたのはザンディレだけではない。

 もっと恐ろしく、そして自分たちにとってはもっとも因縁ある最強の将が乗り込んできているのである。

 わらわたちは急いで馬を再び走らせようとするが……



「それならばもう問題ないようです。既に、シュウサイも、そしてボーギャックも討ち取られたとのこと」


「……は?」


「我が主君であるクローナ様が見初められた、婿殿と妹君……新たに誕生した魔界の勇者の手によって」


「「「「「……………え?」」」」」



 そのザンディレの言葉に、わらわたちは「なにいってんだこいつ?」という表情でしばらく固まっていた。

 そして、その一瞬の沈黙の後に……



「「「「「オオオオオオオオォォォォーー!!!!」」」」」 



 魔王都より、天地を揺るがす勝鬨が届いた。


「ッ、なんだ、この歓声は!?」

「王都の方から……一体、何がッ!?」


 そして、再び駆け出すわらわたち。

 そこでわらわたちが目にしたものは――――







――あとがき――

GWで、とりま★を1,000にしたいです。まだご評価頂けてない方がいらっしゃいましたら、是非にぶち込んでいただけたら嬉しいです!


何卒ぉおおおお~~~!!!!

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