第59話 幕間(トワイライト)2
「バカな……あ、アレは、ボーギャック……ほ、本物の……」
王都に着いた頃には、すべてが終わっていた。
そう、戦いはとうに終わっていた。
討ち取られたボーギャックの遺体を晒し上げ、戦意を失って投降した人間共を拘束し……そう、ボーギャックが討たれている。
王都の広場にて、その亡骸を民衆の晒し物にしている。
「信じられない……あの八勇将……人類最強のボーギャックが……」
「俺たちが駆け付ける前に……既に、討たれていたと……」
副長のシンユーとマイト始め、命がけの援軍として駆け付けたわらわたち全員が、目の前の予想もしなかった事態にどう反応していいのか分からぬ。
さらに……
「っ、ガウルは? それに、わらわたちが来たというのに出迎えも……ん? なんだ?」
わらわたちが到着しても一部の兵や民が反応するだけだ。
「大将軍、どうやらあちらに民衆が集まって……」
「なんだ? 一体何を……」
他の者たちはまだ気づいていないのか、広場に密集し、そしてその中心で皆が何かを固唾を飲んで見守っている様子。
一体……
「やった、おやっさん、息してる!」
「助かった……ヤオジさん、助かったんだ!」
「ああ、よかった、ヤオジさん……ヤオジさん!」
集まっている民衆から安堵の声と歓声が漏れている。
その中心には、クローナとあの弟妹……って、あの小僧、この距離からでも分かるほど全身が青黒く変色し、明らかにあちこち骨折も……どうやら、あの小僧も戦ってくれたと……そして……
「ッ、う、ぐっ……俺……は……」
アレは、たしか街で小僧と小競り合いをしていた中年のホブゴブリン。
様子から、かなり危ない状況だったようだが、あの幼女の魔法で助かった様子。
「へへ……よう、オッサン……」
「ッ、クソガキ、おま……つか、俺……死んだんじゃ……」
よほどの負傷を負ったのだろう。皆が心配し、そして本人も死んだと思い込んでしまうほどの。
しかし、その命は救われた。
それは……
「ん、たぶん、もう大丈夫! んふー!」
「っ、チビガキ……こ、こいつが俺を……」
「あっ、ジッとしてて。たぶん動いたら、すぐはまだ痛いと思う」
「う、うるせえ、くそ、誰も頼んでねえのに……よりにもよって、テラの妹に……」
そう、息子がテラの軍に殺され、そのテラの弟妹を最も憎んでいたはずの男が、テラの妹によって救われた。
それは何とも複雑なことだろう。
しかし……
「そう言うんじゃねえ。先に俺を助けたのはあんただろうが……」
「うん、エルお兄ちゃんを助けてくれた! だから治すの当然!」
弟妹は胸張ってそう告げた。
助けた? あのホブゴブリンが、あの弟妹を?
「うるせえ、クソ! 俺はどうかしてて……クソ、何で俺は……ああ、クソ、何で俺はあんなことしちまって……」
どうやら、自分自身でもどうしてそんなことをしたのか分かっていない様子。
ホブゴブリンは頭を抱えて歯ぎしりしている。
すると、テラの弟は……
「でも、オッサンが言ってたように、互いに約束は果たせそうじゃねえか……また、明日殴ってくれるんだろ?」
「……ッ……」
「互いに生きてこそ……だな」
約束。そう、あの小僧は確かにそういうことを……
「勘違いしてんじゃねえぞ、クソガキ! こんなんで俺がお前らを受け入れると思ったら大間違いだ! あんまり俺を甘く見るんじゃねえ! ああ、殴るさ! テメエもそんだけボロボロならよぉ、変な防御技なんて……関係なく、殴れる……ッ……殴ってやれるから……また……殴れる……」
そして、あのホブゴブリンのあの痛々しいほどの悲痛な表情は?
「……俺が死んだ方が、テメエら弟妹には都合が良かったんじゃねえのか?」
喚き散らしながらも、ポツリと呟いたその言葉。
すると、小僧は……
「生きろと……言われたのは二人目だったからな」
「あ?」
「姉さんは……俺とジェニを守るために命を懸けて……そして、最後には俺たちに生きろと言っていた。その姉さんは死んでしまった……守れなかった、救えなかった……だから、なんだろうな。あんたがどうしても重なっちまった」
それは、故郷でのことだろう。話に聞いた、テラの婚約者だったという姫のことを、あの小僧は切なそうに語り、そしてその言葉を皆が……
「もうあの時と違って今度こそ、俺たちに生きることを望んでくれた人を死なせちゃダメなんだって……そう思った」
「……ッ~……」
「それはジェニも同じだったみてーだ。だから……そんなところだ」
何の偽りもない、本音なのだろう。
あの小僧は、これまではただ「クローナを裏切りたくない」という想いで、魔族の民と向き合っていた。
しかし、あのホブゴブリンに対してはそれだけではない。
本当に死なせたくないと思ったからこそ……
「ぐっ……うう……ちくしょぉ……ちくしょう……」
すると、あのホブゴブリンは手で顔を抑えて嗚咽する。
手では隠し切れないほどの涙を流し……
「なんで、俺は生きて……お前らまで生きて……あいつは……息子だけは死んじまったんだ……何であいつは帰ってこれなかった……俺なんかいらねー……あいつが居ねえ人生なんて……畜生! 死んじまったら、もう、もう……ぶん殴ることも、仲直りもできねーってのに……」
もう、今は居ない、帰ってこなかった命を嘆いた。
すると、そんなホブゴブリンの様子に、あの幼い妹は……
「あ、オジサン、まだ痛いの? すぐ動くと痛いって言った、大人しくするの!」
「……チビガキ……」
「ん、だーめ、動いちゃダメ。そしたら痛くないから。痛くても泣くのダメだから。痛いの痛いの~、とんでくー!」
慌てた様子でホブゴブリンの身体に寄り添った。
どうやら、あのホブゴブリンが涙を流したことを「傷がまだ痛いから」と勘違いしたようだ。
だが、その無垢で純粋な思いやりに、今度こそホブゴブリンは心を射抜かれたのか……
「……ああ……ちっと……痛みはやわらいだよ」
「ほんとぉ?」
「……ああ……ああ……」
もう、どこかスッキリしたのか、ほんの僅かに奴は小さく笑った。
そんなヤオジの複雑な、だけど少しだけ救われたような様子を他の民たちも察したようで、誰もが穏やかな目で見守り、そして……
「うは、すげーなァ、ジェニ! お前、ツエーだけじゃなくて、ケガも治せるのか!」
「ジェニちゃん、すごい!」
そんなジェニの周りを幼い子供たちが集まった。
あれは、シンユーやマイトの子供たち。
「ん。そーだ、約束覚えてる? 私、幹部」
「おう、当たり前だ! 今日からお前は、俺たちネオ魔王軍の大幹部にしてやる!」
「ん!」
な、なんだァ? 大幹部? いつの間に?
シンユーとマイトまでポカンとしているではないか。
だが、なんだ? この感じは……
「ったく……ガキどもは気楽でいいぜ……まぁ……ガキたちはそれでいいのかもしれねーけど……」
「オッサン……」
「ちっ……だけど、テメエは別だぞ、小僧! 明日も容赦なくぶん殴るからよぉ! つか、お前、姫様を泣かせたらマジで殺すからな!」
「ああ?」
もうこの空間には……
「おお、そうだぞ、小僧! いくら魔界勇者だからって、ソレはソレ、コレはコレだ!」
「クローナ姫、こいつに不満があればいつでも言って下せぇ! 俺らがぶん殴ってやりますから!」
「ふふふふ、でも……姫様もすっかり彼のこと……」
「たしかに、そこら辺の男どもよりよっぽど……ね」
人と魔族という括りがどこにもなかった。
この光景を、わらわたちはどう判断すればよい?
もちろん、コレが今後の人類と魔族の関係性がどうこうというほど単純なものではないことは当然のこと。
それに、人類は今回、八勇将を三人も失ったのだ。その戦力ダウンと共に生まれる憎しみなども当然軽いものではないはず。
これだけで……しかし、それでも……
わらわたちは、どこか新しい景色を見た気がした。
――あとがき――
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