第51話 魔界魔王都の反撃

「お兄ちゃんの邪魔するなーーーーっ!!」

「ぬう?!」


 普段も親しい家族に甘えたりの態度は見せるが、激しい感情の起伏を見せたりしないジェニ。

 しかし、今日は違う。

 怒りを剥き出しにして、シュウサイに向けて巨大な魔力の塊を放り投げた。


「な、なんじゃと!? で、でかい!? なな、なんちゅう魔力玉じゃ!?」


 その膨大な魔力。それは人間も魔族も、それどころか人類最強の魔導士と言われているシュウサイですら驚愕するほどのもの。


「くっ、たまらぬわ。なんじゃあやつは……詠唱も無しのただの魔力玉でアレほどの……」


 飛行の魔法で慌てて回避したシュウサイ。しかし顔は青ざめたまま。

 もし今のが直撃していたら?

 だが、ジェニの放つ魔法は一発ではない。 


「エルお兄ちゃんの敵! ぶっとべーっ!」

「んなっ、れ、連射じゃと!?」


 息もつかせぬ間で連発の魔力玉。

 これも何とか空中で回避するシュウサイだが、明らかに動揺している。


「ジェニ、気を付けろよ! そいつはこれまでの奴らとはけた違いの魔法使いだ!」

「カンケーないもん! ぶっとばす!」

「ああ、だが気を付けろよな! 決して甘く見るな!」

「ん!」


 そのエルセのジェニに対して注意を促す言葉に周囲は更に驚く。

 それは、八勇将という人類最強勇者にして大魔導士のシュウサイ相手に、年齢一桁の幼女に「気を付けて戦え」、それはつまり「戦う」ということ事態は兄のエルセも認めているということなのである。


「わ、儂を……儂を舐めるなぁ、小娘がぁ!」

「むむ」


 だが、それでも相手は八勇将。

 ジェニの力に驚くも、臆することは無い。


「全ての魔を弾き返す無敵の盾よ! マジックリフレクションッ!!」

「あっ……」


 素早く呪文を唱え、シュウサイは空中で魔法の障壁を展開。

 その障壁はあらゆる魔法を防ぐだけでなく、跳ね返す力も持っている。

 ジェニの放った魔力玉は跳ね返され、そのまま王都の民の……


「ひいい、こっちに飛んできたぁ!?」

「た、たすてけえー!」


 腰を抜かして動けないヒートやリロ等、子供たちの所へ。

 だが……


「ふわふわ回収」


 ジェニはその場で浮遊の能力を発動。

 跳ね返された己の魔力玉を、自分の能力で遠隔操作して、ヒートたちに直撃する前に自分の下へと引き戻したのだ。


「なぬっ!? あやつ、あのようなコントロールも……魔力だけではなく、あのような器用さまで……」


 このジェニの技術に改めて驚くシュウサイ。

 一方で、死ぬかと思ったヒートたちは半べそかいて腰抜かして震えてしまっている。



「あう、あ……た、たすかっ……」


「じ~~~~」


「ッ、な、あ、……」


 

 そんなヒートたちをジッと見るジェニは、無表情のまま冷たく……



「弱虫」


「んあっ!?」


「「「「ッッ!!!???」」」」


 

 そう言い放った。


「ヒート、何をしているの、危ないわ! ヒートッ!」

「リローっ! よかった、リロッ!」


 その状況下、危険を承知で子供たちの母親たちが駆け寄り、ヒートたちを抱き寄せる。

 一部の子供たちは恐怖に耐え切れずに母たちの腕の中で大泣きする。

 そして、ヒートもまた目が潤んでいる。

 そんなヒートの母を見てジェニは気づいた。ヒートの母のお腹……


「……赤ちゃん?」

「え……」

「お母さんのおなか、赤ちゃんいるの?」


 そのお腹を見て問いかけるジェニに、ヒートはハッとして答える。


「あ、ああ、そうだ。もうすぐ、俺の弟か妹が……」

「そーなんだ……ふ~ん……」


 何故この状況下でそんなことを聞く?

 ジェニの言葉を疑問に思ったヒートたちだが、ジェニは続けて……


「弱虫も泣くのもダメ」

「ッ!?」

「家族は守らないとダメ。お兄ちゃんになるなら絶対」


 ジェニのその言葉に、子供たちも、そして子供たちの母たちも呆然とし、そんな一同にジェニはシュウサイを指さして。



「あいつ、私がぶっとばす。だから、お兄ちゃんになるんなら、家族は守ってあげて」


「ッ!? あ……う……ッ、あ、あったりめーだ!」



 そのジェニの言葉にハッとし、真っすぐな目でヒートは立ち上がり、叫ぶ。



「父さんと約束したんだ! 母さんも、生まれてくる赤ちゃんも、父さんがいない今は俺が守るんだ! お前に言われなくたってやってやるさ!」


「ん」


「ヒート……」


「ネオ魔王軍! 俺たちは母さんたちを守るんだ! 他にも逃げてない人たちを俺たちが守るぞー!」


「「「「お……オオオオオオッ!!」」」」



 奮い立つヒート、そして同じ子供たち。ジェニの言葉、子供たちの言葉に母親たちは思わず胸を打たれて涙ぐむ。



「小娘、何を余所見してお―――――」


「うるさいっ!」


「ッ!? ぬおっ!?」



 そんな状況の空気を読まず、シュウサイは再び魔法でジェニを含めて皆を一掃しようとするが、ジェニは回収した魔力玉をもう一度シュウサイに投げつける。

 バランスを崩しながらも何とか回避するシュウサイだが、冷たい汗を流していた。

 だが、そんなシュウサイにジェニは興味を持たない。

 それより……


「おい、お前、ほんとにあいつを倒せるのか?」

「ん、問題ない」

「そうか……よし、任せたぞ! お前、ジェニって言ったな?」

「ん」

「よし、ならあいつを倒せたら、お前を俺たちネオ魔王軍の幹部にしてやるから!」

「お~」

「だから、まかせたぞ!」


 ヒートに言われたソレに、表情の変化は少なくとも、悪い気はしていなさそうな反応を見せていた。

 そう、ジェニはやる気を出している。


「ん……とうっ!」


 その時、ジェニは飛んだ。

 飛行の魔法で、シュウサイ目がけて突進する。



「くっ、来たか。だが、儂は――――」


「だからうるさい」


「小娘がッ! 魔導の根源と極みを見せてくれるわッ!」



 その瞬間、魔界で規格外の魔力同士のぶつかり合いが暗黒の空で生じる。

 もはや、魔導の道を進む者たちの到達点とも言える、知識と経験と力、そして才能のぶつかり合いであった。


「ジェニ……すごい……ッ! て、そうではありません! 何をしているのです、私たちは!」


 その空を見上げて呆然としていたクローナだったが、すぐにハッとした。



「な、何を惚けているのです、お姉様! そして勇敢なる戦乙女たちよ! この魔界で多くの魔族から受け入れられずにいるエルセと、ジェニが、二人の人間が八勇将と対峙しているというのに、いつまで私たちは指を咥えているのです!」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


「たとえ女の身なれど、私たちが戦場に出るのは、この世界を、愛すべき民たちを、家族を守るためではないのですか! 今、地上へ出て大いなる戦に挑んでいる仲間たちに代わって、この地を、民を、死守することが我らの使命ではないのですか!」



 クローナは力強くその場にいる皆に向けて叫ぶ。



「奮い立つのです! あなたたちが再び奮い立つためならば、このクローナもまた共に血を流し、命を懸けましょう!」



 そう言って、クローナは落ちていた剣を拾い、掲げ、皆にそう叫んで鼓舞した。

 その声は……


「そ、そうよ……何をしているの、私たちは!」

「ええ、私たちがやらないで、誰がやるというの!」

「そうだ! 私たちはまだ負けてない!」

「立て、戦乙女たちよ!」

「御意ッ!」

「腐った男どもの股のモノを全て斬り落とせッ!」


 絶望し、男たちに凌辱される寸前だった戦乙女たちに再び火をつけた。


「な、なんだこい、ぶげ?!」

「げっ、こ、この女共がッ!」

「ちょ、ま、ぐわあああっ!?」


 そして、幸か不幸か女たちを凌辱しようとしていたことで色々と無防備だった男たちを咄嗟に刺し、潰し、噛み、目を潰したりなど、およそ騎士に相応しくない乱暴な手段ながらも、戦乙女たちは執念でその拘束から逃れ、立ち上がり、再び武器を持って声を上げた。

 さらに……


「そ、そうだ、姫様の言う通りだ! あのガキどもが戦ってるってのに!」

「そうだ、あの生意気なガキに貸しなんか作ってたまるか! 俺たちの街も家族も俺たちが守るんだ!」

「女子供を逃がせ、男ども、人間どもをブチ殺すぞォ!」

「おお、やっちまえぇ!」

「戦乙女の姉さんたちを助けろッ!」

「おら、クソ人間が小さいナニぶら下げてんじゃねえ!」


 民の男たちも火が付いた。

 自分たちも共に戦うと、怒涛の勢いで一斉にボーギャック隊に突進した。



「図に乗るなぁ、魔族のゴミムシどもめがッ! お前たちも狼狽えるでない! 所詮は女や素人たちが相手! 多少士気を上げようとも、我らは世界最強のボーギャック隊―――」


「最強? 最低の間違いではござらんか?」


「あ?」


 

 簡単に勢いに飲まれてなるものかと、ボーギャック隊の幹部と思われる者が味方を鼓舞しようとする。

 だが、その前に、プシィが現れる。


「な、なんだ貴様ぁ、貴様も刻んで犯してくれようか?!」

「犯す? ふざけるな! それでも戦士か!? 誇りを微塵も感じさせぬ貴様など、我が剣の錆にしてくれるでござる!」

「笑わせるな! わた―――――ぷいぎゃっ!?」

「ふっ……またつまらぬものを斬ってしまったでござる」


 そして、瞬殺した。


「ぇ……コーザ副長ッ!?」

「な、なん、え、副長が?! う、嘘だろ、副長ッ!?」

「そ、そんな、うそだ、うそだーっ! コーザさまがやられるなんて、うそだー!」


 あまりにも容易く、その剣閃すら並のものには捉えられぬほどの速度で斬られ、ボーギャック隊の幹部にして副長のコーザという男は絶命した。

 それはボーギャック隊の士気を更に打ち砕き、同時に……


「おおおお、す、すげえ、何だあの姉ちゃんは!」

「ありがとう、あんた! よっしゃ、俺たちも続くぞォ!」

「同じ女として、私たちも負けていられないわッ!」

「戦乙女騎士団、今こそ力を振り絞るのよ!」


 民たちや戦乙女たちの士気を最高潮に上げたのだった。



「ぬぅ……コーザッ!? お、おのれ……あの小娘どもがぁ……あの虎人族……よくもやってくれたなぁ! それも全ては……」



 完全に一瞬の虚を突かれ、ボーギャック隊の陣形が崩れて一人、また一人と倒れていく。

 その光景にボーギャックは舌打ちし、仲間を討ち取ったプシィ、そして号令を出したクローナを睨みつける。

 だが……


「どこ見てんだよぉ、この変態野郎がッ!」

「ぬっ……」

「テメエは俺がぶっ殺すッ!」


 その前にエルセが立ちはだかり、ボーギャックを攻撃した。


「ボーギャック将軍! これは予想外ですね……この流れを早急に断ち切らねばなりません。あの虎人族も脅威ですが、やはり今の民たちを支えているのは……」


 思わぬ展開にギャンザも歯噛みし、そして彼女もまたクローナを見る。

 この流れを断ち切るには、再び魔族の指揮を落とすこと。

 そのためには……


「クローナ姫、その首を――――」


 エルセでもジェニでもなく、魔族の象徴でもあるクローナを討ち取ること。

 ギャンザが剣を持って、無防備なクローナにその刃を突き立てようとした……が!


「貴様の臓腑を引き裂くぞ?」

「ッ!?」


 クローナの前に闇の閃光が走り、そのままギャンザを巻き込んで彼方へと飛んでいく。


「な、なんです!? 何者!?」

「うるさい。我が女神に剣を向けたゴミムシが、解体して蛆虫のような囚人たちの慰み者にしてくれる!」


 クローナのメイドにして、盾でもある、ザンディレであった。



 今ここに、魔界魔王都の反撃が始まった。

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