第48話 ソレは人類と魔族どちらの刃か?

 今度は自分たちが奪う番だ。


 もう奪わせない。奪い続ける。そして根絶やしに。


 だからこそ、ボーギャックは己の配下たちが降伏した魔族たちに対しても慈悲は一切なかった。


 弄ばせた。凌辱した。玩具にした。


 それはこれからも変わらない。


「そ、そんな、しょ、将軍が……」

「うそよ……ガウル様が……あのガウル様が……」

 

 ガウルの配下の若き戦士たちも顔を青ざめさせている。

 魔王軍の主力たちが出陣している今、この魔王都を守るのは残った自分たちの責務だと思っていた中でのこと。

 こうなってしまえば、民だけでなく、助けるためにと参上したガウルの配下である駐屯兵や乙女騎士たちも呆然として立ち尽くす。


「うわあああ、あのバケモノを攻撃しろぉ!」

「将軍を助けろぉぉ!」


 中には果敢にボーギャックに立ち向かってガウルを救出しようとするものもいる。


「クソ人間どもが、ぶっ殺してやらぁ!」

「おう、やっちまえ! ぶっ潰してやるッ!」

「武器を持て、やるぞーっ!」

「うおおおおおお!」


 また、民たちの中でも巨漢のオークやミノタウロスやサイクロプスなどの男たちが率先して武器を持って抵抗しようとする。

 だが……


「へへへ、オラオラオラッ!」

「すっこんでろぉ、雑魚共がぁ!」

「我らは帝国最強ボーギャック隊だぁ!」


 その勇敢な想いをあざ笑うかのように斬り、頭を叩き潰し、そして魔法で燃やす。

 ボーギャック隊は容赦しない。

 全てを容赦なく返り討ちにする。


「へへへ、おっ、イイ女!」

「おい、もうヤッちまうか?」

「ばか、まずは制圧してからだ!」

「男は殺していいよな?」 


 倒し、武器を取り上げ、殴り、身動き取れないようにして次々と抑え込んでいく。

 

「が、ぐへぇ!?」

「うげえ、ごほぉ」

「つ、つえ……」

「きゃ、やめ、て! うっ!」

「く、お、おのれぇ、や、め、ろぉ、離せぇ!」

「ひい、いや、人間、うう、男、いやぁ!」


 頭を失って冷静さや連携も忘れた兵たちや、素人の民たち。

その上で相手は人類屈指の力を持つボーギャック隊。

 抗えるはずもない。

 そんな中で、ボーギャックは未だに動けないガウルを見下ろし……



「ぐふふ、ふはははははは、私の技を受けてまだ死んでおらんか。確かに六煉獄を名乗るだけはあるな、ガウル……六人の中で最弱とは聞いていたが、大したものだ! しかし、私には及ばぬッ!!」


「ぐっ、がっ、……う……」



 砕けた鎧と傷ついた体でグッタリとしているガウルの首を掴んだまま、己の勝利を笑うボーギャック。

 ガウルのその目はまだ折れずにボーギャックを睨みつけているが、抵抗する力まではないようだ。


「ぐわははははは、さて……流石に魔王城を覆うあの大結界は破壊できぬか? シュウサイ」

「無理じゃな。大規模に施されたあの守りは地中の奥深くに魔方陣を生成しておる。魔王軍の兵や魔王の任意によって許された者しか通過できんじゃろう」

「そうか、ならば大魔王は炙り出すしかないか」


 魔王都に来たのはそもそも魔界のトップである魔王の首を狙ってのこと。

 しかし、ここから先は無理やりこじ開けられないというのが分かったが、ボーギャックたちはこれぐらいのことは想定していたこともあり、慌てず、それどころか別の方法で魔王をあぶりだそうとする。

 それが……


 

「さあ、同胞たちよ! 私が許そう、これまでの戦争以上に好きにして構わん! 欲しい雌の肉穴はいくらでも持って帰って構わん! 魔界を蹂躙せよ!」


「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」



 蹂躙だ。


「よっしゃ、この女もーらい!」

「やめて、は、はなして、嫌ぁ!」

「あっ、ずりーな……お、娘もいんじゃねえか! おお、うっまそ!」

「ひいい、いやああ、おかあさん、おとうさん、いや、たす、け、はなしてよ!」


 ボーギャック隊の兵たちが一通り魔王軍の兵を制圧していくにつれ、手の空いた兵たちが民たちを取り押さえて、無差別に襲い始める。


「やめろおおお! テメエ、俺の女房と娘になにしやが、ぐはっあっ!?」

「あなたー! いやああ!」

「お、おとうさ……」


 抵抗する者にも容赦はない。



「ぐはははは、おう、ソレを殺すでない。逃げ惑う虫共の中でも、兵でないにもかかわらず、愛する妻と娘のために我らに立ち向かった勇敢な男だ。褒美に……そ奴の目の前で犯せ! 妻も娘なぁ! 安心しろ、誰もまだ殺さぬ! 妻と娘を我らが犯している光景を目に焼き付けて死ねぇ!」


「「「「ウオオオオオオオッ!!!!」」」」



 肉体だけでなく、心すらも蹂躙する。徹底的に。


「ぐっ、あ、あいつらぁ……」

「やめろ、今は逃げっぞ! 俺らも殺されちまう! 相手はあのボーギャックたちだぞ!? ガウル様だってやられちまったんだ!」

「で、でもよ、くそぉ……くそぉ!」


 民たちもその状況下に怒りで震えるが、しかし相手が悪い。

 相手は人類の中でも最強の兵たちだからだ。

 立ち向かっても殺される。

 そのために抵抗するよりも「逃げろ」という意識の方がどうしても先にいってしまう。


「ぐっ、う、うぅ……おの、れ……にん、げん……」


 まだガウルの息があることを確認して、ボーギャックはニヤリといやらしい笑みを浮かべたまま。



「ぐはははは、さて、儂も魔王が来るまで、つまみ食いでもしておくか」


「……え……」


「流石の私も、六煉獄将を犯すのは初めてだ! 興奮が収まらぬ。すぐにぶち込んでやろう!」



 ボーギャックはそう口にして、唐突に下半身の鎧を脱ごうとする。

 それが何をしようとしているのか、何を意味するのかが分からぬガウルではない。


「う、うあああああ、や、やめろぉ、貴様! 何をする気だ、やめろぉ!」

「ガウルよ、喜べ、貴様は……」

「な、貴様!」

「私が食ってやろう、ふはははは!」

「ふざ、けるなぁ! くっ、離せぇえ!」

「おうおう、暴れるな」


 いやらしい下衆の笑みを浮かべながら、ボーギャックは身を捩って暴れるガウルの鎧を剥ぎ取る。

 胸当ても剥ぎ、戦士ではなくただの女としての裸体を晒す。


「気痩せしておるが、良い体だ! 十分そそるぞ! 犯し甲斐がある!」

「や、やめろぉ、くっ、殺せぇ!」

「何を言うかぁ、決めた! 必ず孕ませてやろう!」

「っ!?」


 顔を青ざめさせるガウル。

 女の身だろうと戦場に出る以上、何万もの命を預かる以上、自分が死ぬことも地獄に堕ちることも、苦痛も覚悟はしていた。

 しかし、それでもその身を穢されることには……


「や、めろぉ! やめろぉおお!」

「ぐわはははあ、すぐに挿れて―――――」


 だが……




―――醜く愚かな生物が 




 その時だった。



「ぬ?」


「っ、あ……!」



 そのとき、魔王都の上空から声が響いた。

 その場にいたすべての者たちの手が止まり、時が止まったかのように静まり返った。



――そのきっかけは怒りか、復讐か……しかし、今となってはソレを言い訳に戦争の快楽に身を投じているだけの愚か者……


「誰だ、この声は……いや……」


――勇者と呼ばれるだけの偽物が



 突如響いた声に言いようのない存在感と威厳を感じてボーギャックたちは呆然とする。

 一体何者かと問おうとしたが、本能で理解した。



「ついに……ついに干渉してきたか……魔王よ!」



 そう、魔王だ。

 魔王の言葉が聞こえた。


「ま、魔王様?!」

「魔王様ぁぁあ!」

「ああ、魔王様、どうか、どうかお救い下さい!」

「魔王様!」


 本来その顔も声も普段聞くことのない魔界の民たちにとって、魔王とは王であり、神でもあった。

 だからこそ、この絶望の状況下で縋る。

 神が自分たちを救ってくれるはずだと涙する。

 一方で、民たちと同様に、ボーギャックも歓喜に震えた。



「魔王! ぐわはははは、ようやく声を聞けたか……ようやく我ら人類は貴様に到達したわけか!」


「魔王……ついに辿り着いたのぅ!」


「これが、魔王の声……ですか! ふふふふ、震えが止まりませんね!」



 八勇将として人類の勇者となった三人はこれまで何度も魔王軍と戦ったが、大魔王の姿どころか声も聞いたことが無かった。

 そのため魔王の声を初めて聴いたことで色々と巡る想いがある。

 そして同時に沸き上がる高揚感。



「さあ、いつまでも玉座にふんぞり返っとらんで、さっさと降りてくるがよい、大魔王! さもなくば、貴様の配下も、そして民たちも死ぬまで犯し続けようぞ! 人類の正義の刃が貴様を貫くまで、我々は決して止まりはせんぞォ!」



 この時のために自分たちはずっと戦ってきた。

 そして、全てを終わらせる。

 ボーギャックは果敢に魔王に向かって叫ぶ。

 そして魔王も……



――たしかに貴様らと交える言葉はない。よくも好き勝手してくれたな。だから、望み通りこの魔王が直々に――――――


 

 ついに魔王が玉座から立ち上がり、そのベールを脱ぐ……かと思われたその時だった。



―――いや、その前にそなたたちを穿ちたくてたまらぬ刃がいるようだな……


「あ゛?」



 現れるかと思った魔王がそう口にした。

 その言葉の意味が分からず眉をしかめるボーギャックたち。

 すると……


「ガウル様を離せ―!」

「みんなを離せー!」

 

 小さな石がボーギャックに当てられた。 


「ん~?」


 避けるまでもない石。

 ボーギャックが投げられた方を見るとそこには、魔族の幼い子供たちが石や木の棒などを持って構えていた。

 その先頭に居るのは、ヒート。


「おまえみたいなわるいやつ、このおれ、ヒート大将軍率いるネオ魔王軍がやっつけてやるー!」

「そうだそうだー!」

「でていけー! ここからでていけー!」

「みんなをはなせー!」


 一瞬面食らったボーギャック。


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


 王都の民たちも驚いている。

 誰もが逃げまどい、女騎士たちですら悲鳴を上げる中、小さな十数人の子供たちがボーギャックに立ち向かおうとしていた。


「ヒートッ!?」

「な、なにをしているの、あなたたち!」

「だ、だめえ! 急いで逃げなさい、だめ、お、お助けを、お許しをぉ!」


 子供たちの親が慌てて駆け寄って許しを請うように土下座してボーギャックに縋る。 

 だが、ボーギャックはそんな子供たちに目を細めながら微笑んだ。


「おお、なんと勇敢で頼もしき戦士たち。これが魔王の言う、牙とやらか? 大の大人や男たちが逃げる中でのこの勇敢さ……種族を超えて尊敬するぞ? おお、こんな幼い娘まで。どれ~♪」


 その目は、どこか昔を懐かしむようなもので、そのままボーギャックは犯そうとしていたガウルを地面に投げ捨て、代わりに子供たちの中の一人、狼人族の幼い少女を抱きかかえた。

 その少女は、リロ。


「わ、なに、はなちてえ、はなせー!」

「な、なにを! やめてええ! 離して、娘を! どうか、どうかお慈悲をぉ!」


 驚いてジタバタ暴れるリロと、必死で許しを請う母親。

 だが、ボーギャックは少女を見つめながら……



「嗚呼、魔族でもこれぐらいの幼子であればめんこいなぁ。愛らしい。私の死んだ娘もこれぐらいであったわ」


「はなしてよぉ! うう、はなせぇ! おまえなんか、おまえなんかパパがやっつけるんだからぁ!」


「おお、そうかそうか。父が好きか、そうかそうか……。娘っ子よ。私にもな……娘がおった。お前さんと同じぐらいの歳で、まあ、かわいくてかわいくて、私の宝だったわ。しかしそれを……貴様は……貴様らは!」


「ひっ!?」


 

 微笑から途端に鬼の形相になるボーギャックは、そのままありえない鬼畜の所業をしようとする。

 リロの衣服に手をかけて身ぐるみを剥いだ。


「な、なにを、何を!?」

「な、やめろー! おれたちのなかまをはなせー!」

「はなせよー!」


 母親は顔を青ざめて……いや、その場にいた魔族全員だ。

 子供たちも必死にボーギャックに石を投げ、足を蹴って少女を助けようとするが、ボーギャックは意に介さない。


「き、きさま、何を考えている! 何を、する、気……正気か! そんな、そんな幼い子を……何を!」


 犯される寸前で中断されたガウルが、這い蹲りながらボーギャックの足首を掴む。

 お前は「正気か?」と。

 しかし……


「そうだ! 先にやったのは貴様らだ! だからこそ、同じことを私もしてくれよう! 私の娘を、娘を娘をぉ! そう、これは正義の復讐!」


 ボーギャックは最初から正気ではない。


「やああ、ヒートだいしょうぐん、たすけてええ!」

「やめろー! リロをはなせよー!」


 ジタバタ暴れる少女に、必死に仲間を助けようとする子供たち。

 子にボーギャックは無慈悲に大剣を掲げ……


「ふはははは、坊主。残念だなぁ~、将来は貴様の嫁にでもなったかもしれんこやつは私が食ってやる! お前は絶望しながら―――」


 だが……



「疾きこと風の如し!」



 その時だった。


「ッ!? ぬっ!?」


 それは、目にも止まらぬ疾風が、刃となって突如ボーギャックに襲い掛かった。

 寸前でその気配に気づいたボーギャックが首だけを動かし反射的に回避する。


「ボーギャック!?」

「ボーギャック大将軍ッ!」


 その瞬間、シュウサイもギャンザも身構える。

 一体何が? いや、誰だ? そう思ったとき……



「ふわふわ回収!」


「ぬっ、な!?」



 不意打ちに気を取られたボーギャックは、その瞬間突如腕を何かに引っ張られ、その手に掴んでいたリロを無理やり離されてしまった。

 

「うぇ、え、え?」


 ボーギャックの手から離れ、そのままぷかぷかと浮いて引っ張られるリロ。 

 一体何が起こったのかとその場にいた全員が思ったとき……



「ったく、勇敢なガキどもに対して、何なんだよこの死んだ方がマシだと思えるクソ野郎は!」


「わかんないけどムカつくね、エルお兄ちゃん」



 風を纏った手刀を構えて、エルセとジェニがボーギャックの前に立ちはだかった。

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