第47話 正義の勇者の力
「な、なんだこいつら、急に現れて……しかも……」
「人間ッ!?」
「しかもあの旗は、人類の―――」
突如空間を割って現れた数百人の兵たちに王との民衆に衝撃が走る。
しかも、その兵たちの胸に刻み込まれた人類連合軍の紋章に震える。
魔王軍に所属していない民たちにとって、王都を人類が襲撃するということなど考えたことも無かった。
しかも……
「す~……私が! 人類最強の勇者! 八勇将の一人、爆轟勇者のボーギャックである!」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
「そして共にいるは、同じく八勇将の煉獄勇者ギャンザ! さらには世界最強の魔導士、大魔道勇者シュウサイ! そして私が率いる、世界最強のボーギャック隊! たった今、この魔界に参上した!」
戦争に行ったことがなくても、誰もがその名を知っているからだ。
「は、八勇将!?」
「ボーギャックだと!?」
「そ、んな、う、うそ……」
「それにギャンザって、あの血も涙もない悪魔って言われてる……」
「シュウサイって、教科書にも載ってる、あの大魔導士か!?」
地上の人間の子供たちが、親から聞かされるおとぎ話では魔王が恐怖の対象であるように、魔界の魔族の民たちにとっては勇者こそが恐怖の対象であり、ボーギャックはその筆頭でもあった。
しかもそこに、同じように世界に名を轟かせる、ギャンザ、シュウサイ、そして最強のボーギャック隊。
「大魔王よ、貴様の首を獲りに来たァ! 今すぐ引きこもっているその城から出て来い! 出てこぬ間、この瞳に映る虫けらども! 女、子供、乳飲み子にいたるまで徹底的に凌辱し尽くしてくれる! 王としての誇りあるならば、今すぐその引きこもっている城から出てくるが良いィィい!」
ボーギャックの言葉に王都の民たちが顔を青ざめる。
そして、これは「取引」ではない。
魔王が出てこようが出てこなかろうが、ボーギャックたちがまずやるのは……
「わははははは、とりあえず全軍……喰らい尽くせぇぇええ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
その号令、雄叫びと共に、空間の裂け目から現れた数百人以上の男たちが怒涛の勢いで美しき王都になだれ込んでいく。
「ぐへへへへ、殺せぇぇ!」
「ひっひひひひ、おっ、流石は虫けらの国とはいえ王都! イイ女がいるぜ!」
「よっしゃ、さっさと剥いて犯しまくるぞォ!」
「先日買ったばかりの新品の剣を存分にみせてやるぜぇ!」
それは、正義を名乗る軍とは思えぬほどの凶暴さと凶悪さと醜悪さを兼ね備えた者たちであった。
しかし、その一切の迷いも躊躇いもない徹底的にヤルことが、ボーギャック軍の強さに繋がっていた。
「ひい、に、逃げろおおお!」
「いや、離してぇ!」
「お母さぁぁん!」
「た、た、助けてくれええ!」
逃げ惑う民たち。
魔界の、しかも王都中心に暮らしている彼らにとって、軍と無縁な生活をしている民たちは戦にも侵略されることもほとんどが初めての経験である。
抵抗するよりも、ただ悲鳴を上げて逃げるしかなかった。
だが……
「全体突撃イイい!」
「「「「オオオオオオッッ!!!!」」」」
先日、魔王軍の大軍が地上へ向けて遠征したばかりである。
すなわち、現在王都の守りは手薄である。
しかし……
「貴様らぁあああああ、許さんぞ! 我らの魔族の聖地を穢す愚か者たちよ! 皆の者、民を守るぞ! そしてノコノコ乗り込んできた愚か者たちに鉄槌を!」
「「「「了解!!!!」」」」
だが、手薄ではあるが、無防備なわけではない。
今回の戦に参戦しなかった、六煉獄将のガウル率いる魔界戦乙女騎士団が颯爽と現れる。
「おおおお、ガウル様だぁああ!」
「助けてください、ガウル様!」
「いけー、やっちまえー!」
可憐で美しく、そして強い乙女たちが、一斉に駆け付け、抜刀し、ボーギャックたちに立ち向かっていく。
だが……
「ぬ? おお、早速現れたか。六煉獄将のガウル! 男装令嬢とやらか? 美しい。是非とも抱いてメス顔を見たいものだ!」
「お好きにどうぞ、ボーギャック将軍。とりあえずこの場は、一騎打ちだとかそういう礼儀も不要」
「そうじゃな。群がる小娘共は兵たちに任せ、頭のガウルはワシらで……」
魔界最強の大将軍。六煉獄将。その名は伊達ではなく、ガウルもまた世界に名を轟かせる傑物である。
しかし、相手はその六煉獄将の対となる八勇将。
しかも、それが三人も居るのだ。
「我が、深淵の炎に飲まれよ! ダークネスファイヤーペガサスッ!!」
ガウルも出し惜しみはしない。闇の炎を全身に纏い、その炎が美しく巨大な黒いペガサスに象られていく。
ガウルにとっての最強技。
広範囲をその炎の突進で焼き尽くすもの。
しかし……
「流石は六煉獄将、何とも美しき魔法じゃ。しかし……それに飲まれるわけにはいかんのでなぁ!」
大魔導士シュウサイが前へ出る。そして目にも止まらぬ動きで空間に魔法陣を描いていく。
「大水流! ギガ・ドラゴニックノアッ!!」
「ッ!?」
シュウサイの描いた魔法陣から、巨大な竜を象った水の魔法が出現し、ガウルに向かって放たれる。
ぶつかり合う闇の魔法と水。
互いに互いの魔法を飲み込み合おうと魔力の衝撃波で空気が荒れる。
だが……
「ぐっ、つっ、ぐうう……僕は、負けないッ!!」
属性による相性。
単純にシュウサイの水の魔法がガウルの炎を打ち消そうとしている。
しかし、それでもガウルは負けじと魔力を更に全身から放出。
その執念が属性の相性を粉砕。
「お、おお……水系最強の儂の魔法を貫きおった! 流石は六煉獄将のガウルよ! しかし……」
シュウサイの魔法を打ち砕いてそのまま突進するガウル。
だが、最初より威力は遥かに弱まっている。
そこに……
「おい、ギャンザ。私だけでよいぞ? シュウサイの魔法で十分あやつの突進力は弱まっているようだしなぁ」
「ダメです。この場で遊びは不要です」
巨大なバスターソードを掲げるボーギャックと、細剣を携えたギャンザが待ち受ける。
そして……
「ストラッシュオブジャスティスッ!!」
「クロノスクルセイド!」
二人の勇者が誇る、闇を斬り裂く剣。
数多の魔族を葬り去ってきた人類最強の二つの剣が、ガウルを魔法ごと飲み込んだ――――
「ふははははは、美しいぶん脆いな……ガウルよ!」
二つの勇者の剣をまともに受け、その身の原型は保って入るものの、鎧は粉砕され、その美しかった肌の肩から腰にかけて左右から痛々しい傷が交差して刻み込まれ、ガウルは倒れ、天を仰いでいた。
「ですが、少し拍子抜けですね。長年討ち取ることのできなかった六煉獄将を、こうもアッサリですから」
「まあ、こやつらは何も準備もできない不意打ちのような状況下、将自ら最前線に来てしまったがゆえじゃからな。まあ、意外とこういうものじゃ。それに……儂らのターゲットはこやつではないしのう」
立ち上がれないガウル。その傍で並ぶ三人の勇者。
その光景に、王都の民たち、何よりもガウルが率いた乙女騎士たちが言葉を失い呆然とした。
自分たちが慕い、称えた魔界の英雄が倒れ、その前に立つ人間の勇者たち。
その悪夢のような状況の中で、ボーギャックは剣を頭上に掲げて叫ぶ。
「六煉獄将のガウル、討ち取ったりイイイイイ!!!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」
「さあ、同胞たちよ! 蹂躙せよ! 奪え! 犯せ! 殺せ! 人類の怒りと正義を魔界に深く刻み込み、魔王を引きずり出すのだ!」
その悪夢が現実であるという事実を叫び、突き付け、王都の民たちに絶望を与える。
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