第三章(三人称)

第46話 八勇将最強

――人類最強の勇者は誰だ?


 その問いをすれば、人間も魔族もほとんどの者たちが同じ人物を答える。


――八勇将の一人、爆轟勇者のボーギャック


 と。

 長年の輝かしい戦歴は人類に置いて比肩するものはいないほど圧倒的なもの。

 その実績という面においては、将来を嘱望されていた太陽勇者のテラをも遥かに上回るものであった。

 

 また、その砕けた豪快な性格、そして何よりもボーギャックはテラ同様に平民出身であり、そして20代のころまでは大した実績も上げられずに燻っていた、ただの歩兵だった。それがある日を境に血の滲むような努力と死線を乗り越えたことで成り上がり、そのストーリーを多くの仲間や部下、そして国民からも慕われて、まさに人類を代表する英雄そのものとなった。


 だが一方で、その輝かしい面とは裏腹に、ボーギャックの心も思考も既に壊れていることをほとんどのものが知らなかった。


 一度戦場に出て魔族と対峙すれば、一切の容赦も慈悲もなく、降伏した相手だろうと虐殺し尽くし、部下たちと一緒に弄び、女であれば凌辱の限りを尽くした。


 本来なら問題となる行為も、ボーギャックという圧倒的な英雄ゆえに不問とされ、ボーギャックを慕う隊たちもそれに慣れ、むしろ自分たちも一緒に「愉しむ」ようになっていた。


 本来平民出身はテラのように国民から慕われる一方で、貴族たちから疎まれることもあるのだが、ボーギャックは部下たちの「お愉しみ」、凌辱も略奪も嬲りもどんどん推奨したことで、そういう行為を咎めて罰していたテラと違って部下たちからの人気も高かったことと、貴族たちもボーギャックについていけば「美味しい思いができる」ということで、疎む者も少なかった。


 そんなボーギャックが異常なまでに魔族を蹂躙するようになったキッカケ。

 それはまだ、軍に身を投じて間もない新人の頃だった。


 その名も、そして才能も世界に轟かせてはいない、帝国領土内の方田舎出身の男だった。

 誇れるのは、図体のデカさと頑丈な身体と……



『な、なあ、ヒアイ、俺の嫁になってくれねーか?! オメーみたいな美人が俺みたいなフケ顔のオッサンは嫌かもしれねーけど、い、いつか、いつかデッケー手柄を立てて将軍にだってなってみせっからよぉ!』


『あーはっはっはっは、んも~何言ってんのさぁ、将軍なんかになんなくても、あたしは喜んで嫁になるさ!』



 村一番の美人と言われ、その笑顔と元気で常に皆に活力を与えていた幼馴染にして妻となったヒアイ。

 本来はボーギャックのように容姿が優れているわけでも才能があるわけでも戦場で手柄を上げたわけでもない男とは不釣り合いだった。

 しかしヒアイはそんなボーギャックを選んだ。

 そんな結ばれた幼馴染を村中が祝福した。

 そして……



『お父さん!』


『おお、ミラハ、ただいまー! おお、またおっきくなったなぁ、おおー父ちゃんに抱っこさせてくれー!』


『も、もう、お父さん、私はいつまでも子供じゃなよぉ』



 結婚から数年後。

 ボーギャックは幸せの絶頂だった。

 ヒアイとの間に生まれ、妻似で明るく元気な自慢の娘。

 妻と娘が何よりの宝だった。

 

『あんた、気を付けなさいよぉ。あんたは図体だけなんだから無理しないで』

『もー、お母さん、ミラハはお父さんはやるときはやるって信じてるんだから! ね? お父さん! いつか、勇者にだってなっちゃうんだもん!』


 相変わらず武功も上げられずにただの一歩兵でしかなかったボーギャックだが、愛する家族を守るためなら命など惜しくなかった。

 

『おうよ、今に見てろ! 俺はいつか勇者になってお前らの自慢になってやるんだからよぉ!』


 ボーギャック自身は本当はとっくにそんな気なんてなかった。

 自分にはそこまで才能がない、ただの凡人であることを理解していた。

 だから、本気で将軍や勇者を目指したわけでも、そんな死に物狂いの努力をしたわけではない。

 ただ、今の平和な暮らしを守れるだけの給料さえもらえればそれでよかった。



 そんな弱かった自分を、ボーギャックは生涯後悔した……




『べ、でぇ、やべえでえええええ! ひい、いや、いあやああ、ゴブリンなん、ま、待って、娘だけは!』



『いやああ、やだやだ、触んないで、ひいい、やだああ、おとうさん、たす、いやだ、ァァくさいよぉ、きたな、い、ひい、いだいいよお――――』



 

 ボーギャックの住む村が魔族の群れに襲撃された。

 ゴブリンの雑兵たちが一瞬でボーギャックの故郷の村を制圧して火をつけた。

 抵抗する男たちはすぐには殺さず、動けない程度に両手足を破壊。

 そして、動けなくなった男たちを一か所に集め、その彼らの前で……




 村に居た「全て」の女たちを凌辱した。




 性別が女であれば「何歳」だろうと関係なく魔族たちは弄び、動かなくなれば頭を潰して息の根を止める。



 

 そのような気が狂うほどの地獄の光景に血の涙を流しながら、家族の男たちは自ら頭を地面に叩きつけたり舌を噛み切って死んだ。




 ボーギャックもまた、己の愛する妻と娘が汚れ、壊され、ただの腐った肉になるまでの過程を全て見せつけられた。




 そして本来ならボーギャックもそのまま死ぬはずだった。




 愛する妻と娘の下へと逝くはずだった。




 そこに帝国騎士団がギリギリに駆け付けて、村を襲った魔物たちを殲滅し、ボーギャックは生き永らえてしまった。




 生きながらえてしまったボーギャックは絶望によって自ら命を絶つことよりも、溢れんばかりの怒り、復讐心が芽生え、そして鬼となった。




 成長期どころかとっくに成人を超え、中年に差し掛かってからの血の滲むような修練と、命を失うことも恐れぬ苛烈な死地に赴いては、情け容赦ない執念で魔族たちを葬り去っていった。



 

 今度は自分が「奪う」とばかりに暴れ狂い、殺し、嬲り、凌辱し、暴虐の限りを尽くした。





 やられたことと同じことをやり返す。いや、何倍にしてでも返す。



 皮肉にもその戦果と武功がボーギャクを八勇将の地位まで与えるに至るほど、ボーギャクは暴れ回った。



 そんなある日……



『やめろぉ! 捕虜への凌辱や虐殺なんて……お前たち恥を知れッ!』



 自分よりも二回りも年下の将来有望な若き将、テラが台頭した。

 ボーギャクはテラが嫌いではなかったし、同じ平民でありながら八勇将に至ったテラにどこか気にかけていた。

 しかし、そのテラの魔族に対する想いを看過できなかった。


 魔族は悪。


 害。


 一匹残らず根絶やしにしなければならないということに、ボーギャックは欠片も揺らいではいなかったからだ。


 だからこそ、テラが邪魔となり、同じように連合軍の団結にヒビを入れかねないテラに頭を悩ませていた上層部と意見が一致した。


 そしてテラが消え、今日も、そしてこれからもまた魔族を蹂躙した後に駆逐していく。



「ぐふふふ、ぐわはははははははは! 胸躍る! ついにこの魔界の王都に入ることができた! 魔王の喉元へなぁ! 今日、我らの正義、人類の正義が、歴史に深く刻み込まれるであろう!」


 

 そんなボーギャックが、ついに魔界の魔王都に足を踏み入れた。

 空間の歪みを利用した転移の大魔法。

 自信が率いる数百人の一人一人が一騎当千の精鋭精強無敵のボーギャック隊と共に。

 帝国どころか人類最強の部隊。

 さらに、その両脇には……



「ふう、ふう、ふう……儂にとっては賭けじゃったがのう。何十年も分からなかった地上世界と魔王都を繋ぐ空間座標……長年の調査の末にようやく……これでワシらはいつでも退却、そして再び攻め込むことも可能じゃ!」


「お見事です。流石は八勇将が誇る世界最強の大魔導勇者です」



 その傍らには、自身と肩を並べて史に名を刻む二人の八勇将と共に。



「しかし、魔王城はあの断崖絶壁の上にあるアレじゃろう。これまた超強力な結界。ワシでもあれは破ることはできぬ」


「なるほどのう。ならば、魔王を炙り出すしかないと」


「ならばやることは決まっていますね」


 

 そして、ボーギャックは心に誓う。


(見ていろ、ヒアイ、ミラハ……今日はいつも以上の躯を……そう……元凶含めた全ての命をお前たちに捧げよう!!)


 終わらぬ復讐心と怒りをぶちまけるべく……



「血に飢えた我が勇猛勇敢最恐の英雄たちよ! ここは魔界! すなわち治外法権よぉ! 何をしても許す! 行う全てを正義とする! 躊躇わず、ヤレ!」


「「「正義の蹂躙執行!!!!」」」








――あとがき――

すまん、もう少し間を置くつもりだったけど、やっぱ投稿しちった! メンゴ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る