第40話 五人家族

「おお、これは家主様でござるな! 拙者、昨夜より親分の子分となりましたプシィでござる! 以後よろしくお願いしますでござる!」


 箒を地面に置き、片膝ついて庭でクローナに頭を下げるプシィ。

 庭はきれいに掃除され、一方で昨日の夜まではなかったはずの一人用のテントが設置されている。

 昨日、結局押しかけで俺の子分になったこいつは、そのまま庭にテント張って一夜を過ごしたようで、朝は早起きして掃除をしたりとアピール。


「えっと……エルセ、どういうことなのです?」

「あ~……まぁ、うん、こうなった」


 洗面所から庭へ出て、可愛い顔してキョトンと首を傾げるクローナ。

 そもそも家主であるクローナの許可もなく……だから、色々と説明をどうすべきか……

 すると、


「少々強引ではありましたが、最終的には私が許可をしました、クローナ様」

「え……ザンディレ?」


 こちらも朝早起き。昨夜の真面目な戦乙女の武装から、再びエッチいメイド服に身を包んだザンディレも出てきた。


「本来、クローナ様の婿になる婿殿の配下にも厳しいテストを課すところですが、誠実清廉潔白な虎人族なら問題ないでしょうし、腕も立ちます。今後、魔界で婿殿と妹殿が過ごすにあたり、私やクローナ様が常に付きっ切りでフォローできない場合もありますが、この者ならば護衛としてもこれ以上ないほど適任。むしろ、半端な魔王軍の兵を登用するよりも適任でしょう。幸い、こ奴は人間に対するわだかまりもないようですし」


 と、こんなエロい格好しながらも真面目なことを真顔で言うのも変な感じだが、ザンディレの説明にクローナも納得したように相槌した。


「なるほどぉ~……確かに、私もザンディレも時には忙しくて手が回らない時もありますからね……魔王軍の中には誰がテラや人間に対して恨みを持っているかも分かりませんし、そう考えると確かに適任かもしれませんね」


 すると、クローナのその反応にプシィも花が咲いたように嬉しそうに笑った。


「おお~、家主様……いえ、我が親分の奥方様ァ~、ありがとうございますでござる! 何卒今後ともよろしくお願いしますでござる!」

「あら~」

「流石は器のデカい我が親分の選ばれた奥方様でござる!」

「まぁ! うふふふ……奥方様……奥方様♪」


 そして、そんなプシィがクローナのことを「奥方様」と言ったことに、クローナも嬉しそうにニコニコしながら俺の腕に抱き着いてきた。


「えへへ、エルセ~、私、奥方様だそうです~、エルセの奥方様です~」

「お、おお……そ、そーだな……まあ、器のデカさは俺なんかよりクローナの方が圧倒的だけどな」


 そんなクローナの反応に俺も照れ臭くなって顔が熱くなってしまった。

 いずれにせよ、拒否したら簡単に自害しそうなぐらいヤバいプシィのことも、クローナはどうやら受け入れてくれるようなので、とりあえずこの問題は解決に―――



「ね~、お顔洗った~、おなかすいた~、ごはん~」


「あ、ジェニ」


 

 っと、いつまでも戻ってこない俺たちに我慢できなくなって、窓からジェニもプカプカと飛び出してきた。



「あ、昨日の……確か……親分の妹……」


「ん~? あっ、昨日のお姉ちゃんだ。なんで?」


「ッ?!」



 そしてジェニがプシィに気づき、首を傾げると、プシィは雷に打たれたような顔になった。

 どうした?


「ジェニ~、この人は今日から新しく住み込みになる、プシィです~。エルセの子分だそうです」

「エルお兄ちゃんの子分? ん~……子分……」


 ジーっとプシィを見つめるジェニに対し、どこかプシィがアタフタしている。

 どうしたのだろうと思ってみていると……



「か……かわい~にゃ~♥」


「「「………え?」」」


 

 急に耳がプシィの獣耳がしおしおになり、トローンとした緩み切った顔になった。


「そ、そうだ、妹殿、こ、これ、我が里のお菓子でござる……大魔コンペ―トーという砂糖菓子でござる、もしよろしければ……」

「……おかし?」

「ささ、遠慮なさらずに……」


 と、そこでプシィが懐から袋を取り出し、中からカラフルな飴のようなものを広げてジェニに差し出す。

 ジェニは興味深そうにジーっと眺めながら一つ摘まんで食べると、ビックリしたように目を大きく開いた。


「甘い! 美味しい!」

「お、おお、そうでござるか、ほ、ほら、全部食べてよいでござるよ」

「ん! ……おいしい……ありがと」

「ッ?! うにゃァあ!? か、かわ!?」


 どうやら美味しいようで、ジェニがちょっと微笑んでお礼を言うと、プシィは頭が噴火したように唸って、目がハートマークに……ヲイ。


「うぇへへへ、ジェニちゃん……かわいいにゃ~~~♥」

「ん」


 と、メロメロになりながらジェニの頭を撫でる。人見知りの激しいジェニだが、プシィの動物的な様子から敵ではないと判断したのか、されるがままに撫でられる。

 すると、


「ちょ、待つのですプシィ! 朝からおやつはダメです! ジェニも! そ、それに、ジェニは……私の妹なんですから!」

「はう、お、奥方様?」

「クロおねーちゃん、もっと食べたい」

「ダメです、朝ご飯食べられなくなっちゃいます!」


 焦った感じで慌ててクローナがジェニを抱っこしてプシィから引きはがす。

 なんか、「取られる」と思ったのか、簡単にジェニに心を開かれたプシィにクローナが少し「むむむ」と警戒しだした。


「おやおや、婿殿の子分になり、婿殿の愛人にもなるぐらい溺愛されるかと思いきや、妹にアッサリ取られてしまったな」

「いや、ま、気に入ってもらえたならそれでいいけどよ」


 ザンディレとそんな冗談を言い合いながら、なんだか騒がしくも、少しほっこりするような朝を迎えながら、俺たちは一緒に住む家族が一人増えた。

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